望郷のフェアリーテイル

ユーカン

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4-1.強引な小説家メリカ

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 クリフは蔵書整理に精を出していた。今日の担当は創作・小説の書架。出入りの激しい書架である故に、確認作業はいつにも増して骨が折れる。
 だから、後ろから忍び寄るその人影に気が付かなかった。
「わっ!」
「ぎゃあ!」
 後ろから抱き着かれ、思わず情けない悲鳴が出る。
「ふふふ。図書館で大きな声を出しちゃダメじゃあないか」
 振り向くと、メリカが不敵な笑みを浮かべて立っていた。長い髪はボサボサ、ゆったりとした服のあちこちにはインク染み。
「メ、メリカさん。やめてくださいよ。……。また行き詰ったんですか?」
「そーなの。はあ。なんか面白い話ない?」
 そう言われても、丸一日図書館の中で過ごすクリフにそうそう面白い出来事は起こらない。だとすれば、出来るのは面白い本を紹介すること。
「これなんかどうですか?」
 手近な書架から一冊の本を取り出しメリカに表紙を向ける。題名は『ミリロラスの指輪』。最近流行りのミステリー。著者はメリカ・バストレク
「おお。これ面白いよね~。謎が謎を呼ぶミステリー。……。って、馬鹿! これは私が書いた本だろ!」
 その本で小突かれる。図書館の本は公共の物なのだから大切に扱ってほしい。
「僕に聞くのが間違ってるんですよ。あ、ちょうどシグが来てますよ。彼女に聞いたらどうですか」
 いつもの如く今日もシグは勤務中なのにここで本を読みふけっている。正直仕事の邪魔をされたくないが、五つほど年上なので、あまり強くは出られない。そこで、メリカは彼女に体よく押し付けることにする。
「シグちゃんね。確かにあの子なら面白い話が聞けそう。じゃあ一緒に行こうか」
「いや。僕は仕事中……」
「いいから、いいから」
 いつも通り強引なメリカに背中を押され、シグのいる読書スペースに連れて行かれた。今日の彼女はお菓子のレシピ本を眺めている。お菓子作りに興味があるとは知らなかった。
「よう。シグちゃん。読ってる?」
「……。あ、メリカさん。こんにちは」
 またメリカは面白い話はないかと曖昧に問いかける。今度のシグはむしろ話したいことがあると乗り気だ。三人で会話のできる作業スペースに向かう。
 ……。クリフも、シグも仕事中なのだが。

 四人掛けの机に適当に腰かけ、メリカがシグに話を促す。
「ええと。この前、お昼にマシカ・メロっていう甘味屋さんに行ったの」
「ああ。大通りの。最近出来たんだよね。まだ行ってない」
「そこのクレープが美味しくて美味しくて。蕎麦粉の薄い生地でクリームとか果物を巻いた物なんだけど。三つも食べちゃった」
「いいなあ~。私も今度行こ」
「でも、行列が長くて、お昼休みが終わるのに間に合わなかったんだけどね。怒られちゃった」
「あはは。それは災難だったね」
 ……。やばい。何を聞かされているんだ。甘味処にも、その味にも、全く興味がない。大体シグは仕事をなんだと思っているんだ。行列には休みの日に並べ。いや、そもそも面白い話なのか? 友達同士の日常会話ならいいだろうが、面白い話と振られて出す話か? し、仕事に戻りたい……。
 クリフが明らかな苦悶の表情を浮かべていると、向かいに座るメリカがそれに気づいた。
「おや。クリフ君どうしたね」
「いや……」
「ああ。そうか。君は甘いものに興味があるタイプではなかったね」
 確かにそうだが、そういうことではない。
「大丈夫だよ。腸詰とチーズのも食べたから。美味しかったよ」
 そういうことを聞きたいのではない。
「下らない話をしたいだけなら仕事に戻らせてもらいますよ」
「いいじゃない。ちゃんと怒られてサガってるし」
「……。いや、もういいです……」
 その後も、シグの話は日頃起こった事の報告と言ったところ。たまにしか会わないメリカと話せて楽しいのは分かるが、普段から聞いているクリフとしては業務中に時間を割くことではない。
 メリカは時々メモを取りながら聞き役に徹している。案外日常の中にこそアイデアが潜んでいるのもだ、とは彼女の言だ。読む専門のクリフにはいまいち分からないが、まあ、そういうものなのだろう。
「あ、そういえば不思議なこともあったんだ」
 シグが喋る調子を変える。
「牧場の牛さんがいなくなったっていう通報が、警備隊に沢山入ったんだって」
「牛が?」
「うん。それで調べて来いって言われたから今日これから行くんだけど」
「ほう。それは興味深いね」
 メリカはメモ帳をぱたんとたたむと、席を立ちあがった。
「善は急げだ。早速行こう」
 やっと解放される。クリフがほっと息をついた。のも束の間。
「いや。クリフ君にも来てもらうよ。さっき許可はもらってきたから」
 何をやっているんだこいつは。
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