望郷のフェアリーテイル

ユーカン

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4-2.end

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 クリフ達三人は外郭にある牧場へと向かった。
 この王都は三つの城壁が張られている。内側から一つ目の壁の中は『王城』、読んで字の如く国王の住む城だ。一般市民はあまり入らない。二つ目の壁の内側が『内郭』、民家や商店、クリフの勤める図書館もそこ。そして、一番外側の壁の中が『外郭』。
 内郭からなだらかに低くなる、広く取られた土地に農場や牧場、金属加工の工房が点々と建っている。
 中の壁と外の壁の城門は、互い違いに設けられており、進入する外敵をまっすぐに通さないつくりになっている。その二つの城門を繋ぐ大通りは、出入りする人のほとんどが通り、外郭の中でも例外的ににぎわうエリア。外からの客に向けた商店や飲食店が軒を連ねる。
 内郭から城門を出た三人も当然そこを歩くわけなのだが。まあ、当然というか、既にシグとメリカの手には、そこの軒先で売っている歩きながら食べられるものが握られている。
 三人は大通りを、
「いやあ。やっぱりこの通りは楽しいねえ」
 メリカは串焼きの肉を頬張りながら、
「どれも美味しそうで目移りしちゃう」
 シグはチョコレートを纏わせた果物を齧りながら、
「好きにしてくれ……」
 クリフはすっかり軽くなった財布の中身を見ながら歩いた。

 横道に逸れてしばらく進むと舗装された道は終わり、のどかな風景が広がってくる。目的地の牧場もすぐに見えてきた。
 確かに、天気のいい昼間だというのに、放牧地には家畜の一匹もいない。普段であれば牛や羊があちこちで牧草を食べているのを見ることができるのに。家畜たちはどこへ行ったのだろうか。
「取り合えず牧場主に話を聞いてみるか」
「待ちたまえ、クリフ君」
 歩き出そうとするクリフの肩を、メリカが掴んで止めた。
「最短経路が一番の近道とは限らないのだよ。まずは我々だけで調べてみよう」
 妙に芝居がかった口調でそう言うと、囲いの柵を乗り越えて放牧地に入ってしまった。
「不法侵入だろ。いいのか」
「ん~。メリカさんなら度を超えたことはしないし、私も見てるし、いいんじゃないかなあ」
 シグも続いて入って行った。
 いいわけがない。二人が揃ったら止めるのは難しいが、野放しにすることもできないので、クリフも追いかけた。

 なだらかな南向きの斜面に広がる広大な放牧地。流石にこれだけ広い中に虫一匹もいないとなると、流石に寒々しさを感じる。
 ただ、家畜がいないだけで、暴れた跡だとか、血の跡だとかは一切見受けられない。まるで忽然と姿を消したよう。
「ん~。本当に一匹もいないね」
「通報者の話では、数日前まではいたのに、ある日いきなりいなくなったみたい」
 二人は地面を調べたりしながらなにやら言い合っている。
「もしかしたら誰かに攫われたのかも」
「シグちゃんなら誰にも気づかれずに沢山の牛を盗むことができる?」
「難しいかも」
「だよね~。となると……。お」
 メリカは地面に大きな穴が開いているのを見つけた。
「これは、足跡! そうだ、聞いたことがある。牛をも食らう大蜥蜴『ウモス』の名を!」
 各地で伝説として語られる名だ。砦のように大きな体を持ち、人や家畜を丸のみにしてしまうしてしまうのだという。確かにそんな怪物の仕業なら、一夜にして姿を消したことも、血の一滴も残っていないことも説明がつく。しかし……。
「流石にそんな怪物が城壁の外から入ってきたら気付くよ? この辺りにも林とか森とかはあるけど、そんな大きい生き物が棲めるほどじゃないじゃない」
「確かに……」
「あ、この前絵本で読んだお話に似たものがあったかも。笛を吹くと、動物や人間がそれに従うって言うお話なんだけど……」
 その後も放牧地内をあちこち歩きまわりながら二人は案を出しあうが、これというものは出てこない。
 そろそろ日も傾いてきた。クリフとしてはもう帰りたい。
「あの、そろそろ時間も時間だし、牧場主に聞きに行ってもいいんじゃないですか」
「ま、そうかもね」
 クリフの提案に、メリカは渋々従い、体をだらりとさせながら牧場主のいる家屋の方へと向かった。

「すいませーん。王国警備兵のものですが~」
 シグが家の扉を叩くと、牧場主が出て来た。
「あの~、お宅の牛がいなくなったとの通報を受けましてですね。どうしたものかな~。ということでして」
 軽く説明するも、牧場主は首をひねるばかり。特に問題は起こっていない、と。なんなら今から見せてあげよう、と。三人は連れられて近くの家畜小屋まで連れて行かれた。
 そこにいたのは満杯の牛や羊。特に健康問題もなさそうで、元気な鳴き声があちらこちらから聞こえる。
 放牧地からいなくなったのは、ただ単に冬が近いから放牧をやめただけだからだそうだ。冬は牧草が伸びないから、放牧をしても仕方がない。春が来るまでは小屋の中で飼育する。
 毎年やっていることだと笑う牧場主。シグとメリカはなあんだと息をついた。

 夕暮れの道を、三人は内郭へと歩く。
「はあ。真相は果たしてくだらない物だったね。小説より奇な事実はそうそうないか」
「ね。ちょっと考えれば分かることだった」
 前を歩くメリカとシグはつまらなそうに言った。
 しかし、クリフには一つ疑問に思うことがある。
「何故、毎年のことなのに今回は通報が相次いだのでしょうか」
「ん? どゆこと?」
「内郭に住んでいる僕らは冬に放牧が行われないことについて知らなくても問題ないですけど、この辺りに住んでる人なら毎年の常識でしょう。通報するほど騒ぎになるとは思えない」
「あ~。そりゃあれでしょ」
 メリカは道から少し離れた空き地を指さした。
 そこには、ぽつぽつと明かりのつき始めた掘立小屋が二、三十軒ほど立ち並んでいる。比較的新しいもののようだ。
「あれは?」
「ん。クリフ君知らないのか。メマニス教の信者の人達らしいよ。最近引っ越してきたんだって」
 メマニス教と言えば、この王都に総本山がある宗教だ。確かに最近信者を増やしているという話は聞いていたが、外郭に小さな村規模の集まりが出来ているとは知らなかった。
「違う場所から来た彼らなら、君達のように冬に放牧が行われないことを知らなくてもおかしくないかもね。ま、今回の謎はなかなか面白かったよ。今度書く本の題名は『名探偵シグちゃん』とかにしてみようかな」
「え~。恥ずかしいなあ」
 楽しそうにお互いの体を突っつきながら歩く二人を見て、クリフは思った。
 結局早退させられてまでしたことは、散歩に付き合わされただけだったのではないか、と。
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