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昔々のお話です。そこには、どこまで行っても果て無い荒野が広がっていました。その荒野の中心には、山よりも大きな呪われし竜が棲んでいます。竜がその身に受けた呪いの苦痛に身を捩らせ、暴れ回るせいでこの辺りには草木は生えませんし、動物も近寄りません。
そこからしばらく離れた場所に、人間の一族の村がありました。人間達は田畑を耕し、動物を狩り、平和に暮らしていたのです。
しかし、そんな平和も長くは続きません。荒野から竜が飛んできて、若い娘を攫っていきました。竜は自らの呪いの痛みを和らげるために、若い女性の血を欲するのです。
人間達にとってそれは天災のようなものでした。竜に抗う術はありません。村人達は嘆きましたが、それでも諦めるしかないのです。
そんな中、一人の若者が立ち上がりました。攫われた娘と結婚の約束をしていた男です。彼は竜がやって来た時に娘と一緒にいたのです。必死に娘を守りましたが、それでも竜は娘を掠め取って行きました。
彼の耳には娘の悲鳴が鳴り響いています。彼の眼には娘の泣き顔が焼き付いています。黙って見ているわけにはいきませんでした。竜を倒し、娘を取り返すと宣言しました。村人達は口々に無理だ、無茶だと彼を引き留めます。ですが、彼はたとえ一人でも竜に立ち向かうつもりでした。
村人達は彼の勇気に心を打たれました。しかし、怖いものは怖いので、ついて行く代わりに私財をはたいて彼に素晴らしい切れ味の剣と、とても丈夫な鎧を送りました。彼は自分のやることの無謀さも理解していたので、自分にそこまでしてくれる村人達に感謝しました。そして、それらを身に着けると、一人竜の棲む荒野へと旅立ったのです。
その道中も決して楽なものではありませんでした。獰猛な獣の棲む深い森。旅人を騙す悪魔のいる渓谷。底なしの激流。それでも男の歩みは止まりません。……、あ~、この辺りは割愛してもいいですかね? ……、ありがとうございます。
そして、男は遂に竜の荒野へとたどり着きました。地平線の向こうまでも広がる見果てぬ荒野。その中にあって、竜の姿はすぐに見つかりました。なぜなら竜はとても大きかったからです。
荒野の中央に竜はいました。その足元まで近づいて男は勇ましく剣を掲げて叫びます。「呪われし竜め。娘をおとなしく返すんだ」。竜は恐ろしい声で唸るように言います。「ただで返す気はない。力づくで奪い返して見せろ」。
竜は挨拶代わりに鋭い爪で男を狙います。男はそれをひらりと避け、お返しに剣を叩きこみます。
男と竜の戦いは三日三晩に及びました。
そして、いよいよ決着の時です。男が竜の体に剣を突き立てました。竜は最後に大きく吠え、その身を地に伏せます。そして、横たわるその体は緑を湛える山に、流れる血は清らかな川になりました。男は娘と結婚してその場所に国を作りました。それが我がラトワリア王国の始まりなのです。
めでたしめでたし。と話を締めると、静かに聞き入っていた二人から拍手が沸き起こった。、
「というのがこの国に伝わる建国神話です。今話したのは絵本用に多少アレンジが加えられたものですが、城にある碑文にも大筋の同じ話が彫られているそうです」
「なるほど。興味深いね。じゃあ、この壁画もそれについて記したものなのかな」
「おそらくは」
竜が娘を連れて飛び去る画。その隣に鎧を着た男が旅立つ画、竜と男が対峙する画。最後に山の近くにお城が立つ画。物語を踏襲している。
「これは大発見ですよ。この遺跡がどれほど前の物かはわからないけど、昔から建国神話が語り継がれていたことの裏付けになる」
「ふうん。ところで、この話って実際にあった事なのかな」
「それは分かっていません。山より大きな竜なんて聞いたことありませんし、それを一人で倒したというのも……。その痕跡も見つかってませんしね」
「じゃあ、全くのデタラメ?」
「とも言いきれないかもしれません。あくまで誇張しているだけで、例えば呪われし竜は単にこの場所に元々いた異民族とか、敵対勢力とか、そういうのを言い換えているとも考えられます。それに統治の正統性を加えるためにこういった英雄譚になったんでしょうね」
「ふむふむ。ためになるね。それに君の話し方は、ふふふ、聞き心地がいい」
エスカの妖しい笑みがランタンに映える。何となく気恥ずかしくて目を逸らした。
「さ、さあ。後はここの事をメモに記して帰るだけだ」
「手伝うよ」
「私も~。待ってるのも暇だし」
「エスカさん、メリカさん。ありがとうございます。……、シグは?」
「しー。話の途中で寝ちゃったみたいだよ」
「えっ」
目線を下にずらすと、床で丸くなっているシグを発見した。気持ちよさそうに静かに寝息を寝息をたてている。
「ふふふ、君の話が心地よかったんだろうね」
「子守歌じゃないんだぞ……」
まあ、いつもの事だ。ソレル相手の大立ち回りもあった。今は寝かせておこう。
そこからしばらく離れた場所に、人間の一族の村がありました。人間達は田畑を耕し、動物を狩り、平和に暮らしていたのです。
しかし、そんな平和も長くは続きません。荒野から竜が飛んできて、若い娘を攫っていきました。竜は自らの呪いの痛みを和らげるために、若い女性の血を欲するのです。
人間達にとってそれは天災のようなものでした。竜に抗う術はありません。村人達は嘆きましたが、それでも諦めるしかないのです。
そんな中、一人の若者が立ち上がりました。攫われた娘と結婚の約束をしていた男です。彼は竜がやって来た時に娘と一緒にいたのです。必死に娘を守りましたが、それでも竜は娘を掠め取って行きました。
彼の耳には娘の悲鳴が鳴り響いています。彼の眼には娘の泣き顔が焼き付いています。黙って見ているわけにはいきませんでした。竜を倒し、娘を取り返すと宣言しました。村人達は口々に無理だ、無茶だと彼を引き留めます。ですが、彼はたとえ一人でも竜に立ち向かうつもりでした。
村人達は彼の勇気に心を打たれました。しかし、怖いものは怖いので、ついて行く代わりに私財をはたいて彼に素晴らしい切れ味の剣と、とても丈夫な鎧を送りました。彼は自分のやることの無謀さも理解していたので、自分にそこまでしてくれる村人達に感謝しました。そして、それらを身に着けると、一人竜の棲む荒野へと旅立ったのです。
その道中も決して楽なものではありませんでした。獰猛な獣の棲む深い森。旅人を騙す悪魔のいる渓谷。底なしの激流。それでも男の歩みは止まりません。……、あ~、この辺りは割愛してもいいですかね? ……、ありがとうございます。
そして、男は遂に竜の荒野へとたどり着きました。地平線の向こうまでも広がる見果てぬ荒野。その中にあって、竜の姿はすぐに見つかりました。なぜなら竜はとても大きかったからです。
荒野の中央に竜はいました。その足元まで近づいて男は勇ましく剣を掲げて叫びます。「呪われし竜め。娘をおとなしく返すんだ」。竜は恐ろしい声で唸るように言います。「ただで返す気はない。力づくで奪い返して見せろ」。
竜は挨拶代わりに鋭い爪で男を狙います。男はそれをひらりと避け、お返しに剣を叩きこみます。
男と竜の戦いは三日三晩に及びました。
そして、いよいよ決着の時です。男が竜の体に剣を突き立てました。竜は最後に大きく吠え、その身を地に伏せます。そして、横たわるその体は緑を湛える山に、流れる血は清らかな川になりました。男は娘と結婚してその場所に国を作りました。それが我がラトワリア王国の始まりなのです。
めでたしめでたし。と話を締めると、静かに聞き入っていた二人から拍手が沸き起こった。、
「というのがこの国に伝わる建国神話です。今話したのは絵本用に多少アレンジが加えられたものですが、城にある碑文にも大筋の同じ話が彫られているそうです」
「なるほど。興味深いね。じゃあ、この壁画もそれについて記したものなのかな」
「おそらくは」
竜が娘を連れて飛び去る画。その隣に鎧を着た男が旅立つ画、竜と男が対峙する画。最後に山の近くにお城が立つ画。物語を踏襲している。
「これは大発見ですよ。この遺跡がどれほど前の物かはわからないけど、昔から建国神話が語り継がれていたことの裏付けになる」
「ふうん。ところで、この話って実際にあった事なのかな」
「それは分かっていません。山より大きな竜なんて聞いたことありませんし、それを一人で倒したというのも……。その痕跡も見つかってませんしね」
「じゃあ、全くのデタラメ?」
「とも言いきれないかもしれません。あくまで誇張しているだけで、例えば呪われし竜は単にこの場所に元々いた異民族とか、敵対勢力とか、そういうのを言い換えているとも考えられます。それに統治の正統性を加えるためにこういった英雄譚になったんでしょうね」
「ふむふむ。ためになるね。それに君の話し方は、ふふふ、聞き心地がいい」
エスカの妖しい笑みがランタンに映える。何となく気恥ずかしくて目を逸らした。
「さ、さあ。後はここの事をメモに記して帰るだけだ」
「手伝うよ」
「私も~。待ってるのも暇だし」
「エスカさん、メリカさん。ありがとうございます。……、シグは?」
「しー。話の途中で寝ちゃったみたいだよ」
「えっ」
目線を下にずらすと、床で丸くなっているシグを発見した。気持ちよさそうに静かに寝息を寝息をたてている。
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まあ、いつもの事だ。ソレル相手の大立ち回りもあった。今は寝かせておこう。
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