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第五話「クライムアワー~都市伝説捜査譚~」
5-1.クライムアワー~都市伝説捜査譚~
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トゥルルルル……。
電話の着信を示す音が鳴り響く。
日も沈み切り、夜になろうかという時間帯。自分の部屋に戻ろうとしていた駆人は、廊下に置いてある電話機の受話器を手に取った。
「はい」
「七生さんのお宅ですか。駆人君はいますか」
見知った声に丁寧な口調、しかしいつもよりワントーン声が高い気がする。この感じは。
「あ、空子さんですか?駆人です」
「なんじゃ。カルトじゃったか。わしじゃよ。天子じゃよ」
果たして電話の相手は、化け狐の天子だった。天子から電話がかかってくるのは初めてだ。というか電話番号を把握されてるのか。
「天子様でしたか。電話口だと空子さんみたいになるんですね」
「やかましい。ごほん。要件に入るぞ。明日はうちに来れるのかの?」
一つ咳ばらいを置いて本題に入る声は、いつもの天子のものだ。
「はい。行けますよ。でも、いつもは電話なんかしてきませんよね?何かあるんですか」
「うむ。明日は仕事を頼みたくてな。別の場所で集合じゃ」
続けて集合場所と時間を告げる。
「……、分かりました。あと、明日あった時に僕の携帯電話の番号教えますね」
「なんじゃ、持っちょったのか。まあ、とにかく明日は頼むぞ。じゃあな。早めに寝るんじゃぞ」
ガチャリ。
電話が切れた後に思い出されるのは、最初に電話に出た時の天子の声。いつもと違う丁寧な口調の天子が何だか面白かった。
翌日。
天子から聞いた場所は、駆人の自宅からはそれなりに離れた別の住宅街。待ち合わせ場所の、その住宅街の端にあるコンビニに向かうと、天子が立っていた。
「お待たせしました。この近くに出たんですか?」
「出た……、というか。まあ行って見てみるのが早いじゃろうな」
挨拶もそこそこに、天子の案内で住宅街に入っていく。少し進んで角を曲がると、奥まったところに何やらテープが張られている。『立入禁止』と書かれているそれの前には何人か警察官が立っていて、パトカーも来ているようだ。物々しい雰囲気は正に……。
「さ、殺人現場か何かですか」
「みたいなもんじゃな。どれ」
天子は立っている警察官に一言二言話すと、テープをくぐって中に入る。そして駆人にこっちに来るようにと手を振った。ということはこの中に都市伝説がいるのだろうか。駆人はこちらを物珍しそうに見る警察官に軽く頭を下げながら、テープの中へと入っていった。
テープの中に入ると、テレビの刑事ドラマのようにあちらこちらで忙しなく人が動いている。なにやら地面を調べている人もいる。確か鑑識とかいうのだろう。やはり何かしらの事件の現場なのは間違いないらしい。
天子はその中の指示を出しているらしい初老の男性に声をかける。
「おう。やっとるか」
「ん。天子様か。お呼びだてして申し訳ない」
「うむ。早速じゃが、この件が怪奇事件というのは間違いなそうか?」
「ああ。それも単なる怪奇事件じゃなさそうだ」
二人は何やら難しい顔で話し込んでいる。ふと、男の方が駆人の存在に気付く。
「天子様。彼が噂の少年ですか」
「おお、そうじゃったな。カルト、こっちへ来い」
「あ、はい」
「こやつがわしらの仕事を手伝ってくれちょるカルトじゃ」
「初めまして、七生駆人です」
「なるほど、君が。俺は月岡誠だ。よろしくな」
そう挨拶してワイシャツの袖をまくった手を差し出す。駆人は握手に応じた。ごつごつとして大きな手だ。
「あの、警察の方なんですよね。都市伝説の担当なんですか」
「ああ」
その問いに誠は、手を額に辺りにあげてはきはきとした口調で答える。
「四葉署『怪奇現象犯罪対策課』、月岡誠であります!……、てか?」
「怪奇現象犯罪?そんなのがあるんですか」
駆人は特に警察に詳しいわけではないとはいえ、そんな部署は聞いたことがない。天子は誠のしゃべり方が面白かったのか、後ろで笑い転げている。
「基本的には秘密にされているからな。警察内部でも関わらない奴の中には知らない奴もいる」
「そうなんですか」
「そうだ。ま、一般市民には、税金で成り立ってる警察が、お化け追っかけまわしてます。なんて言えないからな」
「あ、なるほど……」
最近の都市伝説の被害は、あくまで『人に見える怪異』であるから多少騒ぎになっているわけだ。普段の怪奇現象はほとんどの人には見えず、被害だけが残るから、あくまで秘密にしておけるのだろう。
「つっても、大層なことを言っちゃあいるが、結局俺らも君と同じ霊感があるだけの人間だ。おかしな事件が起きた時に怪奇犯罪であることを突き止めたら、そこの天子様とか、プロの怪奇ハンターに頼まなくちゃいけないわけだがな」
「それでも、ここにいる人はみんな霊感を持ってるんですか?」
「いや、ここに来ている中では、俺ともう一人だけだ。持ってない奴にも現場や被害者を調べてもらっている」
そこまで言うと、あたりを調べている人の中の一人に声をかける。
「真紀奈。ちょっとこっちきてくれ」
真の声に反応して、その中から一人、こちらに向かってくる。警察の制服を着た……、少女?
「はーい!何か御用ですか?」
「前に伝えておいた天子様の所の少年だ」
「ははー。あなたが噂の都市伝説キラーですか!あっ、申し遅れました。私の名前は牧島真紀奈!怪奇現象犯罪対策課所属です!」
コロコロと表情を変えながら自己紹介をする少女は、どう見ても駆人より年下、中学生くらいに見える。
「さっき言った、霊感があるもう一人だ」
誠がそう紹介するなら警察であることは間違いないのだろうが、それにしてはずいぶん幼い。
「いやん。あんまり見つめられるとマキナ困っちゃいますよう」
「あっ、いや」
少し凝視しすぎた。慌てて目線をそらす。
「あの、僕は七生駆人です。よろしくお願いします」
「カルトさんですね!よろしくおねがいします!」
ぴょこぴょこと体を動かしながら元気にしゃべる。ただ単に童顔の人なのだろうか。ただ、駆人の周りには年齢と外見の合わない人も多い。天子はあれで221歳だ。そういう類の、要は人ではない可能性もある。
少し訝し気な顔をしていると、俊介がその雰囲気を察したようだ。
「なんでこんなガキが警察の恰好してこんなところにいるんだ、とか思ってんだろ?」
図星。
「その辺のことも含めて色々教えてやってくれ。長い付き合いになりそうだからな」
「はい!」
くるりと一回転。
「実は、マキナは怪奇現象犯罪解決のためのロボットなんです!」
なるほど、そうきたか。
電話の着信を示す音が鳴り響く。
日も沈み切り、夜になろうかという時間帯。自分の部屋に戻ろうとしていた駆人は、廊下に置いてある電話機の受話器を手に取った。
「はい」
「七生さんのお宅ですか。駆人君はいますか」
見知った声に丁寧な口調、しかしいつもよりワントーン声が高い気がする。この感じは。
「あ、空子さんですか?駆人です」
「なんじゃ。カルトじゃったか。わしじゃよ。天子じゃよ」
果たして電話の相手は、化け狐の天子だった。天子から電話がかかってくるのは初めてだ。というか電話番号を把握されてるのか。
「天子様でしたか。電話口だと空子さんみたいになるんですね」
「やかましい。ごほん。要件に入るぞ。明日はうちに来れるのかの?」
一つ咳ばらいを置いて本題に入る声は、いつもの天子のものだ。
「はい。行けますよ。でも、いつもは電話なんかしてきませんよね?何かあるんですか」
「うむ。明日は仕事を頼みたくてな。別の場所で集合じゃ」
続けて集合場所と時間を告げる。
「……、分かりました。あと、明日あった時に僕の携帯電話の番号教えますね」
「なんじゃ、持っちょったのか。まあ、とにかく明日は頼むぞ。じゃあな。早めに寝るんじゃぞ」
ガチャリ。
電話が切れた後に思い出されるのは、最初に電話に出た時の天子の声。いつもと違う丁寧な口調の天子が何だか面白かった。
翌日。
天子から聞いた場所は、駆人の自宅からはそれなりに離れた別の住宅街。待ち合わせ場所の、その住宅街の端にあるコンビニに向かうと、天子が立っていた。
「お待たせしました。この近くに出たんですか?」
「出た……、というか。まあ行って見てみるのが早いじゃろうな」
挨拶もそこそこに、天子の案内で住宅街に入っていく。少し進んで角を曲がると、奥まったところに何やらテープが張られている。『立入禁止』と書かれているそれの前には何人か警察官が立っていて、パトカーも来ているようだ。物々しい雰囲気は正に……。
「さ、殺人現場か何かですか」
「みたいなもんじゃな。どれ」
天子は立っている警察官に一言二言話すと、テープをくぐって中に入る。そして駆人にこっちに来るようにと手を振った。ということはこの中に都市伝説がいるのだろうか。駆人はこちらを物珍しそうに見る警察官に軽く頭を下げながら、テープの中へと入っていった。
テープの中に入ると、テレビの刑事ドラマのようにあちらこちらで忙しなく人が動いている。なにやら地面を調べている人もいる。確か鑑識とかいうのだろう。やはり何かしらの事件の現場なのは間違いないらしい。
天子はその中の指示を出しているらしい初老の男性に声をかける。
「おう。やっとるか」
「ん。天子様か。お呼びだてして申し訳ない」
「うむ。早速じゃが、この件が怪奇事件というのは間違いなそうか?」
「ああ。それも単なる怪奇事件じゃなさそうだ」
二人は何やら難しい顔で話し込んでいる。ふと、男の方が駆人の存在に気付く。
「天子様。彼が噂の少年ですか」
「おお、そうじゃったな。カルト、こっちへ来い」
「あ、はい」
「こやつがわしらの仕事を手伝ってくれちょるカルトじゃ」
「初めまして、七生駆人です」
「なるほど、君が。俺は月岡誠だ。よろしくな」
そう挨拶してワイシャツの袖をまくった手を差し出す。駆人は握手に応じた。ごつごつとして大きな手だ。
「あの、警察の方なんですよね。都市伝説の担当なんですか」
「ああ」
その問いに誠は、手を額に辺りにあげてはきはきとした口調で答える。
「四葉署『怪奇現象犯罪対策課』、月岡誠であります!……、てか?」
「怪奇現象犯罪?そんなのがあるんですか」
駆人は特に警察に詳しいわけではないとはいえ、そんな部署は聞いたことがない。天子は誠のしゃべり方が面白かったのか、後ろで笑い転げている。
「基本的には秘密にされているからな。警察内部でも関わらない奴の中には知らない奴もいる」
「そうなんですか」
「そうだ。ま、一般市民には、税金で成り立ってる警察が、お化け追っかけまわしてます。なんて言えないからな」
「あ、なるほど……」
最近の都市伝説の被害は、あくまで『人に見える怪異』であるから多少騒ぎになっているわけだ。普段の怪奇現象はほとんどの人には見えず、被害だけが残るから、あくまで秘密にしておけるのだろう。
「つっても、大層なことを言っちゃあいるが、結局俺らも君と同じ霊感があるだけの人間だ。おかしな事件が起きた時に怪奇犯罪であることを突き止めたら、そこの天子様とか、プロの怪奇ハンターに頼まなくちゃいけないわけだがな」
「それでも、ここにいる人はみんな霊感を持ってるんですか?」
「いや、ここに来ている中では、俺ともう一人だけだ。持ってない奴にも現場や被害者を調べてもらっている」
そこまで言うと、あたりを調べている人の中の一人に声をかける。
「真紀奈。ちょっとこっちきてくれ」
真の声に反応して、その中から一人、こちらに向かってくる。警察の制服を着た……、少女?
「はーい!何か御用ですか?」
「前に伝えておいた天子様の所の少年だ」
「ははー。あなたが噂の都市伝説キラーですか!あっ、申し遅れました。私の名前は牧島真紀奈!怪奇現象犯罪対策課所属です!」
コロコロと表情を変えながら自己紹介をする少女は、どう見ても駆人より年下、中学生くらいに見える。
「さっき言った、霊感があるもう一人だ」
誠がそう紹介するなら警察であることは間違いないのだろうが、それにしてはずいぶん幼い。
「いやん。あんまり見つめられるとマキナ困っちゃいますよう」
「あっ、いや」
少し凝視しすぎた。慌てて目線をそらす。
「あの、僕は七生駆人です。よろしくお願いします」
「カルトさんですね!よろしくおねがいします!」
ぴょこぴょこと体を動かしながら元気にしゃべる。ただ単に童顔の人なのだろうか。ただ、駆人の周りには年齢と外見の合わない人も多い。天子はあれで221歳だ。そういう類の、要は人ではない可能性もある。
少し訝し気な顔をしていると、俊介がその雰囲気を察したようだ。
「なんでこんなガキが警察の恰好してこんなところにいるんだ、とか思ってんだろ?」
図星。
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