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第二話「スピードアワー~都市伝説暴走譚~」
2-3.
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空子に連れられて外に出た駆人は、先のほど拝殿の手前、鳥居のわき当たりのガレージに連れてこられた。そこには一台の車が止まっており、空子はその車のドアを開け、助手席に乗るように促した。
「車で行くんですか?結構遠いところだったりします?」
その車は車体が銀色で流線型の、映画に出てくる高級車のような車だ。スピードも出そうである。
「う~ん。目的地というか、これが必要というか。まあとりあえず乗ってください」
空子は運転席に乗り込みドアを閉める。それに倣って駆人も助手席に乗り込んだ。なかなか快適な乗り心地だ。中も広い。駆人が乗り込み、シートベルトをつけたのを確認すると、エンジンをかけ、ゆっくりと発進した。鳥居のわきが自動車用の出入り口になっており、そこから外に出る。
外に出るといつもの見慣れた住宅街だ。後ろを振り向いて神社の方を見ると、やはりほかの区画と変わらない、こじんまりとした外観だ。
「あの、この神社って外から見るのと中の広さって全然違いますよね。どうなってるんですか?」
「ん。あれは中の神社は別の場所にあって、それをワープゲートのようなものでつないであるんです。周りから見た外観は結界になっていて、まあ壁に絵が描いているようなものですね。あ、もちろん、霊感のない人にはただの空き地に見えるようにもなってるんですよ」
「はあ、そうなんですか」
正直駆人にはほとんど理解できなかった。かろうじて分かるのは、何か不思議な力が働いていて、自分だけに見えたり、入れるのだろうということ。
そんな話をしている間に、二人の乗る車は住宅街を抜け、比較的大きな道に入った。ああ言った手前、協力するということは納得したが、目的地を知らされぬまま連れまわされるのは困る。
「あの、空子さん。この車はどこに向かってるんですか?」
「あ、そうですね。インターチェンジ、つまり高速道路に向かいます」
「高速道路?じゃあやっぱり目的地は遠いんじゃ……」
「いえ、高速道路が目的地なんです。被害の報告と言いましたけど、高速道路での事故が多発してるんです」
「事故?交通事故の解決は、それこそ警察の仕事でしょう?」
「それがそうも言えないんです。なんでもその事故の当事者の証言では『後ろから高速で何かが来て、焦ってハンドル操作を誤った。』とか『並走したなにかに気を取られているうちに前の車にぶつかった。』とか」
車は最寄りのインターチェンジへたどり着いた。料金所のETC入口に近づき、自動でバーが上がると、そこからは高速道路だ。時刻はまだ午後二時過ぎ、通る車は少なくはないが、スムーズに進行している。
「……。確かに、あやしいですね」
「ええ。極めつけは……」
運転席に座る空子の方を見ていた駆人は、横顔の後ろに何かが通ったのを感じた。何か。そう、もう一つの横顔……。
「『自動車よりも速く走る人間を見た。』です」
「なっ!」
駆人は思わず身を乗り出して追い越し車線の方を覗き込んだ。
そこにあったのは、こちらと同じ速度で追い越し車線を疾走する『老婆』の姿だった。
「お、お婆さんが並走してますよ!」
「はい!おそらく、その方が最近多発している事故を引き起こしている元凶のはずです!」
老婆は、見た目はどこにでもいそうなお婆さんといった感じだが、短距離走のトップ選手のような素晴らしいフォームで、高速道路を疾走している。
「冗談でしょう!こっちも80キロはでてますよ!」
「百メートル走の世界記録のトップスピードを時速に換算しても40キロ程度だそうですから、人間ではないことは確かです!」
そんなことを言っている間に、老婆はぐんぐんとスピードを上げ、もうずっと前のほうまで行ってしまった。前方の車列が少し乱れている。老婆に驚いているのだろうか。このままではいつ事故が起こっても不思議ではないだろう。
「空子さん!どうするんですか!?逃げられますよ!」
「そういうわけにはいきませんね。私たちはあいつを退治しに来たんですから」
空子がハンドルを切ると、車は追い越し車線に移った。グイとアクセルを踏み込み、速度を上げる。距離の縮まる老婆の行く先を見るが、追い越し車線に他に車はいない。異変に気付いて走行車線に移ったのだろう。行く先に障害のなくなった老婆はさらにスピードを上げる。距離を離されんと、空子もまた、車のスピードを上げ、追従する。
「ちょ、ちょっとスピード出しすぎじゃないですか!?」
周りの景色がグルグルと目まぐるしく変わる、スピードメーターを見ると120km/hを越えたところだ。
「奴を逃がすわけにはいきませんから!まだまだとばしますよ!」
「ひいいいいいい」
空子の車はまだまだ速度を上げるが、老婆との距離は縮まらない。そんな、人と車のカーチェイスを五分ほど繰り広げたところで、駆人が異変に気付いた。
「……?ほかの車が全然いない?それに、こんなところ……」
ずっと追い越し車線を走っているこの車だが、走行車線にも反対車線にも車が全然通らない。最初に乗ったインターチェンジから、どちらに少々走ったところで、ここまで車の数が少なくなる場所まで来るとは思えない。それに周りの風景は木々が生い茂り、まるで山の中だ。こちらも駆人の記憶する限り、そんなことはありえないはずだ。空も急に暗くなってきて、まだそんな時間でもないのに、もう夜になりかけのように思える。
「こ、これはどうなってるんです?あの道路はこんなところにつながってるってことはないはずですが」
「これは……、奴の領域にいざなわれたようですね」
「奴の領域?」
「怪奇空間、とでも言いましょうか。いわば私たちの神社のようなものです。普通の人には視認できない、魔の領域」
神妙な顔でそう語る空子の横顔を、駆人は見つめるしかなかった。
「スピードが、我々をここに誘ったんでしょう」
全く訳が分からない。怪奇空間とやらも分らないが、スピードがとか言われても理解しようがない。とりあえず駆人は……。
「そのようですね」
適当に相槌を打つことにした。
「この空間なら、まだまだとばせそうね」
この怪奇空間とやらに伸びる道路は、緩いカーブが時々あるものの、大半は直線で構成されているようだ。老婆も、空子の車も、ほとんどスピードを緩めずに走り抜ける。
「駆人君!カーナビを確認してください!」
「は、はい!」
半ば放心状態で前方を眺めていた駆人が、いきなり名前を呼ばれ飛び跳ねる。運転席と助手席の中ほど、ダッシュボードにはめ込まれたカーナビを見ると、外の景色とはまるで違う、町の中を道路や建物を無視して、走っている状態に映っている。
「あれ、全然違う所が表示されてますね」
「怪奇空間というのは間違いないようですね。画面に『妖』ボタンがあるのが分かりますか?それを押してください」
画面をくまなく見ると、確かに『妖』と書かれた四角がある。タッチスクリーンのそれに触れると、一瞬のノイズの後、自身の車のマークが沿うように動く一本の道が画面に現れた。その道以外の道は、周りには一切ない。
「……。あの、この道から出ることって出来るんでしょうか」
「逃げ出すことは、おそらく無理でしょう。この空間は奴の領域ですから、奴を退治すれば、この空間は消え、元の場所に戻れるでしょうね」
「ひええええ」
「それより、周りが暗くなってきました。前も見えにくいので、カーナビを見ながら急なカーブとかがあったら指示してもらえますか?」
「は、はい!」
そういわれて気づき、外を見るともう完全に真っ暗だ。前方は道路を挟むように設置された照明と、この車のヘッドライトでしか確認することができないほどだ。空には星がいくつか見える。本当に夜になったかのようだ。
「車で行くんですか?結構遠いところだったりします?」
その車は車体が銀色で流線型の、映画に出てくる高級車のような車だ。スピードも出そうである。
「う~ん。目的地というか、これが必要というか。まあとりあえず乗ってください」
空子は運転席に乗り込みドアを閉める。それに倣って駆人も助手席に乗り込んだ。なかなか快適な乗り心地だ。中も広い。駆人が乗り込み、シートベルトをつけたのを確認すると、エンジンをかけ、ゆっくりと発進した。鳥居のわきが自動車用の出入り口になっており、そこから外に出る。
外に出るといつもの見慣れた住宅街だ。後ろを振り向いて神社の方を見ると、やはりほかの区画と変わらない、こじんまりとした外観だ。
「あの、この神社って外から見るのと中の広さって全然違いますよね。どうなってるんですか?」
「ん。あれは中の神社は別の場所にあって、それをワープゲートのようなものでつないであるんです。周りから見た外観は結界になっていて、まあ壁に絵が描いているようなものですね。あ、もちろん、霊感のない人にはただの空き地に見えるようにもなってるんですよ」
「はあ、そうなんですか」
正直駆人にはほとんど理解できなかった。かろうじて分かるのは、何か不思議な力が働いていて、自分だけに見えたり、入れるのだろうということ。
そんな話をしている間に、二人の乗る車は住宅街を抜け、比較的大きな道に入った。ああ言った手前、協力するということは納得したが、目的地を知らされぬまま連れまわされるのは困る。
「あの、空子さん。この車はどこに向かってるんですか?」
「あ、そうですね。インターチェンジ、つまり高速道路に向かいます」
「高速道路?じゃあやっぱり目的地は遠いんじゃ……」
「いえ、高速道路が目的地なんです。被害の報告と言いましたけど、高速道路での事故が多発してるんです」
「事故?交通事故の解決は、それこそ警察の仕事でしょう?」
「それがそうも言えないんです。なんでもその事故の当事者の証言では『後ろから高速で何かが来て、焦ってハンドル操作を誤った。』とか『並走したなにかに気を取られているうちに前の車にぶつかった。』とか」
車は最寄りのインターチェンジへたどり着いた。料金所のETC入口に近づき、自動でバーが上がると、そこからは高速道路だ。時刻はまだ午後二時過ぎ、通る車は少なくはないが、スムーズに進行している。
「……。確かに、あやしいですね」
「ええ。極めつけは……」
運転席に座る空子の方を見ていた駆人は、横顔の後ろに何かが通ったのを感じた。何か。そう、もう一つの横顔……。
「『自動車よりも速く走る人間を見た。』です」
「なっ!」
駆人は思わず身を乗り出して追い越し車線の方を覗き込んだ。
そこにあったのは、こちらと同じ速度で追い越し車線を疾走する『老婆』の姿だった。
「お、お婆さんが並走してますよ!」
「はい!おそらく、その方が最近多発している事故を引き起こしている元凶のはずです!」
老婆は、見た目はどこにでもいそうなお婆さんといった感じだが、短距離走のトップ選手のような素晴らしいフォームで、高速道路を疾走している。
「冗談でしょう!こっちも80キロはでてますよ!」
「百メートル走の世界記録のトップスピードを時速に換算しても40キロ程度だそうですから、人間ではないことは確かです!」
そんなことを言っている間に、老婆はぐんぐんとスピードを上げ、もうずっと前のほうまで行ってしまった。前方の車列が少し乱れている。老婆に驚いているのだろうか。このままではいつ事故が起こっても不思議ではないだろう。
「空子さん!どうするんですか!?逃げられますよ!」
「そういうわけにはいきませんね。私たちはあいつを退治しに来たんですから」
空子がハンドルを切ると、車は追い越し車線に移った。グイとアクセルを踏み込み、速度を上げる。距離の縮まる老婆の行く先を見るが、追い越し車線に他に車はいない。異変に気付いて走行車線に移ったのだろう。行く先に障害のなくなった老婆はさらにスピードを上げる。距離を離されんと、空子もまた、車のスピードを上げ、追従する。
「ちょ、ちょっとスピード出しすぎじゃないですか!?」
周りの景色がグルグルと目まぐるしく変わる、スピードメーターを見ると120km/hを越えたところだ。
「奴を逃がすわけにはいきませんから!まだまだとばしますよ!」
「ひいいいいいい」
空子の車はまだまだ速度を上げるが、老婆との距離は縮まらない。そんな、人と車のカーチェイスを五分ほど繰り広げたところで、駆人が異変に気付いた。
「……?ほかの車が全然いない?それに、こんなところ……」
ずっと追い越し車線を走っているこの車だが、走行車線にも反対車線にも車が全然通らない。最初に乗ったインターチェンジから、どちらに少々走ったところで、ここまで車の数が少なくなる場所まで来るとは思えない。それに周りの風景は木々が生い茂り、まるで山の中だ。こちらも駆人の記憶する限り、そんなことはありえないはずだ。空も急に暗くなってきて、まだそんな時間でもないのに、もう夜になりかけのように思える。
「こ、これはどうなってるんです?あの道路はこんなところにつながってるってことはないはずですが」
「これは……、奴の領域にいざなわれたようですね」
「奴の領域?」
「怪奇空間、とでも言いましょうか。いわば私たちの神社のようなものです。普通の人には視認できない、魔の領域」
神妙な顔でそう語る空子の横顔を、駆人は見つめるしかなかった。
「スピードが、我々をここに誘ったんでしょう」
全く訳が分からない。怪奇空間とやらも分らないが、スピードがとか言われても理解しようがない。とりあえず駆人は……。
「そのようですね」
適当に相槌を打つことにした。
「この空間なら、まだまだとばせそうね」
この怪奇空間とやらに伸びる道路は、緩いカーブが時々あるものの、大半は直線で構成されているようだ。老婆も、空子の車も、ほとんどスピードを緩めずに走り抜ける。
「駆人君!カーナビを確認してください!」
「は、はい!」
半ば放心状態で前方を眺めていた駆人が、いきなり名前を呼ばれ飛び跳ねる。運転席と助手席の中ほど、ダッシュボードにはめ込まれたカーナビを見ると、外の景色とはまるで違う、町の中を道路や建物を無視して、走っている状態に映っている。
「あれ、全然違う所が表示されてますね」
「怪奇空間というのは間違いないようですね。画面に『妖』ボタンがあるのが分かりますか?それを押してください」
画面をくまなく見ると、確かに『妖』と書かれた四角がある。タッチスクリーンのそれに触れると、一瞬のノイズの後、自身の車のマークが沿うように動く一本の道が画面に現れた。その道以外の道は、周りには一切ない。
「……。あの、この道から出ることって出来るんでしょうか」
「逃げ出すことは、おそらく無理でしょう。この空間は奴の領域ですから、奴を退治すれば、この空間は消え、元の場所に戻れるでしょうね」
「ひええええ」
「それより、周りが暗くなってきました。前も見えにくいので、カーナビを見ながら急なカーブとかがあったら指示してもらえますか?」
「は、はい!」
そういわれて気づき、外を見るともう完全に真っ暗だ。前方は道路を挟むように設置された照明と、この車のヘッドライトでしか確認することができないほどだ。空には星がいくつか見える。本当に夜になったかのようだ。
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