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第十一話「ベースボールアワー~都市伝説白球譚~」

11-4.end

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 そして迎えた最終七回。表の都市伝説軍の攻撃は、真紀奈の好投により無得点に終わった。
 そして裏、天子チームの攻撃は四番の天子から。天子が四球で出塁すると、続く五番誠、六番クーコと連打で出塁。あっという間に満塁になる。ここで何かしら出ればサヨナラのチャンス。
 しかし、後のない都市伝説軍がマウンドに集まると、気合を入れなおした質問テレフォンの投げる球に気迫が戻る。七番テンコ姫、八番空子を三振に取ると、一気にツーアウトまで追い詰めた。
「おいおい。また都市伝説の状況じゃねえか?」
 ぽん吉が天子チームのベンチで呟く。そのすぐ外では次の打者、この日安打のない九番栞が緊張で震えていた。
「ひええ。このタイミングでバッターが私なんて……。交代とかできないの」
 バットを持ったことすらないという栞は、安打を打つことができれば点が入り、勝利するという状況にプレッシャーを感じていた。
「相手も0点なんだから、打てなくても引き分けだよ。責任を感じることはないって」
「だけど、自分のせいで満塁がふいになって試合終了ってなんだか……」
「大丈夫だって。それに今までの打席もあんまりバット振ってないでしょ?最後なんだから思いっきり振ってみたら?」
「……、七生ななおクンがそういうなら……」
 ほんの少し気合のこもった足取りでバッターボックスに向かう。
 一方、ベンチの隅で震えているのは真紀奈だ。
「思い切り振らせたらまずいような……」

 投手は変わらず質問テレフォン。腕だけの存在だが、闘志はありありと伝わってくる。打者栞に投じた一球目は内角の直球。迫りくる球に栞は思わずのけぞるが、これはストライク。更にもう一球、今度は低めの直球。これにも手が出ずツーストライク。この日安打のない栞にストライク先行の配給だ。
 あとワンストライクで試合終了。そこで栞の脳裏に駆人の言葉がよぎる。野球なんてそうそうやらないんだし、最後に思い切り振ってみるのも悪くないかもしれない。そう思いなおし、バットを強く握りなおす。
 質問テレフォンが投じた球はまたも直球。コースはど真ん中。
「ええい、ままよ!」
 栞は目をつむり、思いきりバットを振りぬいた!
 ……。打撃音と若干の静寂の後、天子チームのベンチから歓声が上がる。
 栞が目を開けて、最初に見えたのは守備陣が全員こちらに背を向けている光景だった。数瞬後、センター方向のフェンスの向こうに、打球が落ちてきた。
「サヨナラホームランじゃ!」
 むしろ周りばかりが大騒ぎして、栞はそのなかでぽかんとしている。そこに天子チームのメンバーが駆け寄ってきた。
「え、どうすればいいの……」
「一周周るんじゃよ!」
 すでに本塁に返ってきた天子に背中を押されて、一塁に向けて走り始める。一周して本塁を踏んだ時には一層歓声が大きくなった。

 四葉町スカイフォックスと都市伝説怪奇軍の試合は、4対0でスカイフォックスの勝利で幕を閉じた。

 試合後、両チームのメンバーは焼き肉屋で打ち上げを行っていた。
「やっぱり野球の後は焼き肉じゃなあ!」
 座敷のスペースにワニやフジツボゴーレムまで座って焼き肉を食べている光景はいささか奇妙である。
「しかし今日はシオリの大活躍じゃったなあ。都市伝説を打ち砕くとは立派なものじゃ」
「いや、そんな……。たまたまだよ」
「たまたまでもホームランはホームランじゃ。今日は好きなだけ食っていいぞ!」
 しかしその栞の隣に座る真紀奈の表情は暗い。
 ホームランボールを取りに行った真紀奈は見てしまった。真っ二つに割れ、なおもフェンスを越えて飛んだボールを……。

 打ち上げ終了後、都市伝説の面々は元の居場所に帰るという。フジツボゴーレムは海に。百キロババアと人面犬は高速道路に。テンコ姫とメイドのクーコと魔王はなんか光に包まれて消えた。怪奇現象犯罪対策課預かりの都市伝説以外はどさくさに紛れてどこかへいなくなっていた。
 天子チームのメンバーもその場で解散し、駆人と化け狐姉妹は神社に帰る道を歩く。
「で、今回の検証は成功でしたか?」
「ん~。どうじゃろうなあ。草野球の一試合でどうこう言えるものでもないじゃろうし……」
 炎天下で野球をやらされて、成果無しではたまったものではない。
「ま、楽しかったからよいじゃろ!」
 ニッコリ笑って返す天子に、駆人は何も言えなかった。
「しかし、体が痛い……。やっぱり野球は見るだけの方がいいかもしれんな……。
「トシですからね」
「なんじゃと」
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