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「この先にぃ、吸血鬼の城があるそうなんですよ」
「吸血鬼だぁ?」
「こんなところに? 聞いたことないけど」
焚き火を囲んで話しているのは、この春から冒険者を始めたばかりの3人組だ。
パーティーのムードメーカーを務めるアーチャーのアリシア。
「最近、越してきたそうですよ。どこぞの勇者にボッコボコにされて逃げ出してきたとか。意外とザコかもしれません」
パーティの頭脳であるところのメイジのベアトリクスが、眉をひそめて言う。
「ザコって言っても吸血鬼でしょ? いくら弱い熊だって殴りっこしたら人間が負けるわよ」
パーティの壁担当、ソードマンのキャシーが、少し考えてから言った。
「思い出した。アタシも聞いたぜ。勇者に弱点を突っつかれまくって、なすすべもなく逃げ出したショボい吸血鬼の話」
我が意を得たりとばかりに鷹揚に頷いてから、アリシアは続ける。
「それです。どうです? あたしたちでそいつをぶっ殺すです」
「いやだからあ、私たち駆け出しよ?どんだけ弱くたって私たちよりは強いってば」
「でもよ、弱点を突ければ勝てるみたいじゃねえか」
「そんなに簡単なら吸血鬼がアンデッドの王と呼ばれることもないでしょう。十分に強いパーティが弱点を上手に突いて、初めて勝てる相手だと思うのだけれど」
「そんなのやってみなきゃわからないだろ」
「やってみてダメだったら私たち全滅よ? 死ぬわよ?
ううん、死ぬだけならまだマシかもね。
安らかな眠りすら許されない闇の眷属に落とされるかもしれないわよ?」
「ん……うーん」
「ふふふ」
二人が静かになるのを見計らっていたのか、精一杯に不敵な笑いを漏らして雰囲気を作りながらアリシアは言う。
「あたしは吸血鬼の弱点をいっぱい知ってるです。十分に勝ち目はあると思うです」
「……たとえば?」
しばし、だまってキャシーと見つめ合ったのちに、ベアトリクスは言葉を発した。
「よくぞ聞いてくれたです! まず――」
アリシア曰く。
○吸血鬼は水に弱い
「吸血鬼はカナヅチなんです!流れる水を飛んで渡ることもできないんです。海や川に突き落としてやれば一発です!」
「おまえ、よくそんなえげつないこと考えるな。てか、このへんどっちもなくないか」
「そうよね。あったとしても、どうやって川までおびき出すの?本人だって弱点であることは重々承知でしょ」
「……えっと、ベアちゃん、魔法で川を出せないです?」
「出せるか!」
○吸血鬼は太陽に弱い
「吸血鬼は朝に弱いんです。太陽の光を浴びると灰になります!」
「でもよ、そのために吸血鬼ってごつい城の奥に籠もって寝てるんだろ?」
「警備のスケルトンもいっぱいいるでしょうね。突入は無理よ」
「城ごとぶっ壊すってんなら可能かもな。ベア子、おまえの魔法――」
「大理石の床でもあれば、嫌がらせに焦げ目付けたり傷つけたりはいけるかも」
「ビミョーに嫌だなそれ」
○吸血鬼は心臓に杭を打たれると死ぬ
「それアタシも死ぬわ」
「私も」
「やった! つまり、大勝利確実じゃないですか!」
「問題は、どうやってそんな超接近戦で勝つかよね」
○吸血鬼はニンニクに弱い
『で?』
「な、なんですか二人で。あ、ベアちゃん」
「悪臭を発する魔法なんてないわよ!!」
○吸血鬼は十字架に弱い
「それアタシも知ってる。有名だよな」
「そのへんの木で作って持って行くですよ」
「あのね、あれは十字架そのものが怖いわけじゃなくて、それを振るうものの信仰心が怖いのよ。要するに聖職者のバックにいる神様を恐れているの。あんたたち、そんな敬虔な信徒だっけ?」
「日曜の礼拝はいつも寝坊して行ってなかったな」
「あたしは、朝の映像水晶を見てました」
「これもボツね」
「あ!ベアちゃん、信仰心を上げる魔法を」
「それ洗脳でしょ!」
○吸血鬼は鏡に映らない
「身だしなみとかどうやって整えてるのかしらね」
「吸血鬼ってオシャレなイメージあるよな。どうやってんだろ」
「現れたらベアちゃんの魔法でヤツの髪の毛をぐっちゃぐちゃにしてやったっらどうでしょう? きっと、気になって戦えなくて、髪を整えたくても鏡で確認できなくて、戦闘力がた落ちです」
「あのさあ、さっきから私に無茶振りばっかりしてない?」
○吸血鬼は招待されないと初めての家には入れない
「これですよ、これが最後の武器です! いいですか? 善戦及ばず撤退することになっても、ヤツの知らないおうちに入ってしまえばそこは安全地帯です。
「その『知らないおうち』はどこにあるわけ?」
「そういやそうだな。吸血鬼の城の近くに民家があるか?」
「フフン、甘いです。城の入り口の前にテントを張っておきましょう。即座に逃げ込めて安心です」
「入れないのは吸血鬼だけで、手下のスケルトンは入れるんじゃないかしら」
「城の真ん前だもんなぁ。骨いっぱいだろうな」
「べ、ベアちゃんの魔法で一夜城を作るです!」
「だぁかぁらぁ! 魔法をなんだと思ってんのあんたは!」
ぱちぱちぱちぱち。焚き火の薪がはぜる。
「お、煮えたぞ」
「わぁい、薬膳粥です!栄養のある草ばっかりです!」
「あのうさぎを仕留められてれば、そんなお坊さんみたいな晩ご飯を食べずに済んだのにね」
「あ、アレは、キャシーが追い立てる方向を間違ったから矢が外れたんですぅ!」
「アタシかよ。てか、ベア子がスリープでもかけておけばよかったんだよ」
「あのねぇ、うさぎまでどれだけ距離があったと思ってんのかな」
「ハフハフうまうま」
「またあんたは一人で先に」
そうして、駆け出しどもの夜は更けていくのだ。
「そだ、もう一つ思い出した。ポマードって聞くと半狂乱になるらしいです!」
「ああ、はいはい。そのあと、100mを4秒で走って追ってくるんでしょ?」
「なんだよそれこわ」
「吸血鬼だぁ?」
「こんなところに? 聞いたことないけど」
焚き火を囲んで話しているのは、この春から冒険者を始めたばかりの3人組だ。
パーティーのムードメーカーを務めるアーチャーのアリシア。
「最近、越してきたそうですよ。どこぞの勇者にボッコボコにされて逃げ出してきたとか。意外とザコかもしれません」
パーティの頭脳であるところのメイジのベアトリクスが、眉をひそめて言う。
「ザコって言っても吸血鬼でしょ? いくら弱い熊だって殴りっこしたら人間が負けるわよ」
パーティの壁担当、ソードマンのキャシーが、少し考えてから言った。
「思い出した。アタシも聞いたぜ。勇者に弱点を突っつかれまくって、なすすべもなく逃げ出したショボい吸血鬼の話」
我が意を得たりとばかりに鷹揚に頷いてから、アリシアは続ける。
「それです。どうです? あたしたちでそいつをぶっ殺すです」
「いやだからあ、私たち駆け出しよ?どんだけ弱くたって私たちよりは強いってば」
「でもよ、弱点を突ければ勝てるみたいじゃねえか」
「そんなに簡単なら吸血鬼がアンデッドの王と呼ばれることもないでしょう。十分に強いパーティが弱点を上手に突いて、初めて勝てる相手だと思うのだけれど」
「そんなのやってみなきゃわからないだろ」
「やってみてダメだったら私たち全滅よ? 死ぬわよ?
ううん、死ぬだけならまだマシかもね。
安らかな眠りすら許されない闇の眷属に落とされるかもしれないわよ?」
「ん……うーん」
「ふふふ」
二人が静かになるのを見計らっていたのか、精一杯に不敵な笑いを漏らして雰囲気を作りながらアリシアは言う。
「あたしは吸血鬼の弱点をいっぱい知ってるです。十分に勝ち目はあると思うです」
「……たとえば?」
しばし、だまってキャシーと見つめ合ったのちに、ベアトリクスは言葉を発した。
「よくぞ聞いてくれたです! まず――」
アリシア曰く。
○吸血鬼は水に弱い
「吸血鬼はカナヅチなんです!流れる水を飛んで渡ることもできないんです。海や川に突き落としてやれば一発です!」
「おまえ、よくそんなえげつないこと考えるな。てか、このへんどっちもなくないか」
「そうよね。あったとしても、どうやって川までおびき出すの?本人だって弱点であることは重々承知でしょ」
「……えっと、ベアちゃん、魔法で川を出せないです?」
「出せるか!」
○吸血鬼は太陽に弱い
「吸血鬼は朝に弱いんです。太陽の光を浴びると灰になります!」
「でもよ、そのために吸血鬼ってごつい城の奥に籠もって寝てるんだろ?」
「警備のスケルトンもいっぱいいるでしょうね。突入は無理よ」
「城ごとぶっ壊すってんなら可能かもな。ベア子、おまえの魔法――」
「大理石の床でもあれば、嫌がらせに焦げ目付けたり傷つけたりはいけるかも」
「ビミョーに嫌だなそれ」
○吸血鬼は心臓に杭を打たれると死ぬ
「それアタシも死ぬわ」
「私も」
「やった! つまり、大勝利確実じゃないですか!」
「問題は、どうやってそんな超接近戦で勝つかよね」
○吸血鬼はニンニクに弱い
『で?』
「な、なんですか二人で。あ、ベアちゃん」
「悪臭を発する魔法なんてないわよ!!」
○吸血鬼は十字架に弱い
「それアタシも知ってる。有名だよな」
「そのへんの木で作って持って行くですよ」
「あのね、あれは十字架そのものが怖いわけじゃなくて、それを振るうものの信仰心が怖いのよ。要するに聖職者のバックにいる神様を恐れているの。あんたたち、そんな敬虔な信徒だっけ?」
「日曜の礼拝はいつも寝坊して行ってなかったな」
「あたしは、朝の映像水晶を見てました」
「これもボツね」
「あ!ベアちゃん、信仰心を上げる魔法を」
「それ洗脳でしょ!」
○吸血鬼は鏡に映らない
「身だしなみとかどうやって整えてるのかしらね」
「吸血鬼ってオシャレなイメージあるよな。どうやってんだろ」
「現れたらベアちゃんの魔法でヤツの髪の毛をぐっちゃぐちゃにしてやったっらどうでしょう? きっと、気になって戦えなくて、髪を整えたくても鏡で確認できなくて、戦闘力がた落ちです」
「あのさあ、さっきから私に無茶振りばっかりしてない?」
○吸血鬼は招待されないと初めての家には入れない
「これですよ、これが最後の武器です! いいですか? 善戦及ばず撤退することになっても、ヤツの知らないおうちに入ってしまえばそこは安全地帯です。
「その『知らないおうち』はどこにあるわけ?」
「そういやそうだな。吸血鬼の城の近くに民家があるか?」
「フフン、甘いです。城の入り口の前にテントを張っておきましょう。即座に逃げ込めて安心です」
「入れないのは吸血鬼だけで、手下のスケルトンは入れるんじゃないかしら」
「城の真ん前だもんなぁ。骨いっぱいだろうな」
「べ、ベアちゃんの魔法で一夜城を作るです!」
「だぁかぁらぁ! 魔法をなんだと思ってんのあんたは!」
ぱちぱちぱちぱち。焚き火の薪がはぜる。
「お、煮えたぞ」
「わぁい、薬膳粥です!栄養のある草ばっかりです!」
「あのうさぎを仕留められてれば、そんなお坊さんみたいな晩ご飯を食べずに済んだのにね」
「あ、アレは、キャシーが追い立てる方向を間違ったから矢が外れたんですぅ!」
「アタシかよ。てか、ベア子がスリープでもかけておけばよかったんだよ」
「あのねぇ、うさぎまでどれだけ距離があったと思ってんのかな」
「ハフハフうまうま」
「またあんたは一人で先に」
そうして、駆け出しどもの夜は更けていくのだ。
「そだ、もう一つ思い出した。ポマードって聞くと半狂乱になるらしいです!」
「ああ、はいはい。そのあと、100mを4秒で走って追ってくるんでしょ?」
「なんだよそれこわ」
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※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
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