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第6話 ある皇国副騎士団長の決意
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何事かと視線を送るエルジオ。
すると前方から、一台の馬車がこちらに向かってくるのが見えた。
質素な馬車だった。
全体的に薄汚れていて手入れもされておらず、引き手もドードー。あきらかに安価で手配したとわかるもので、少なくとも高貴な人間が乗るような代物ではなかった。
しかしエルジオはそれをひと目見ただけで、それに聖女が乗っていることを確信してしまった。
なぜならその馬車からは、信じられぬほどの純白の魔力――聖女しか持ちえぬ魔力がにじみだしていたからだ。
それだけではない。
騎士たちが声をあげたように、その馬車が通りすぎたあと、そのあふれでる純白の魔力によって、瘴気で枯れていた花々が咲きほこり、黒くすすけているような樹々が青々と色づき、森が活力を取りもどしていたのだ。
(浄化……されとるんか!?)
馬車が通ってきたその道からは淀んだ瘴気は払われ、まるで花道のように花が咲きみだれていた。
視線をめぐらせると、その馬車にはユーステイン王国の紋章がはっきりとあしらわれている。十中八九、今回ユーステインからアンデルブルクへと譲渡される聖女の馬車だろう。
(信じ、られん……)
Eランクの聖女と聞き、せめて田畑や森の一角だけでも浄化してもらえれば御の字と思っていた。それだけでも役目を果たしてもらえれば、いまよりはこの国もマシになるだろうから。
だがこれはそんなレベルではない。
力の桁が違う。
この馬車に乗りながら、しかも馬車の走る速度に合わせ、森をまたたくまに浄化してしまっているのだ。それこそエルジオがEランクの聖女が一日に浄化してくれるだろうと想定していた範囲を、まばたきをするほどの時間で浄化してしまっている。
(これが……真の聖女の、力なんか)
完全に、侮っていた。
Eランクだからこの程度だろうと聖女というものを甘く見積もりすぎていた。自分はなんと愚かだったのか。
「……!?」
エルジオが驚愕しているうちに、馬車は騎士団の前にやってくる。
御者が当惑した様子で馬車をとめると、ドードーが走りたりないとでも言うように、独特の甲高い鳴き声をあげる。しかしふだんならば耳障りだと感じていただろうその鳴き声が、エルジオはまったく気にならなかった。
馬車のなかから出てきたその少女に目を奪われていたからだ。
「ん……もうついたのかな?」
鮮やかに色づいた花弁のような艷やかな唇からそんな言葉をつむぎ、少女はゆっくりと馬車から降りたった。
いや――降臨した、と言ったほうが適切かもしれない。そう思ってしまうほどに少女の姿は神々しかったのだ。
(この御方が……聖女アリシア、さま)
その少女のあまりにまぶしい姿についつい目を細めてしまう。
まず目につくのは、あきらかに人間離れしたその膨大な純白の魔力。
それだけで少女が神かそれに類したなにがしかから選ばれた特別な存在、あるいは神そのもののような存在だというのが明白だった。
そして同時に、馬車から漏れだしていたそのすさまじいまでの魔力が、少女の持っている魔力のほんの一欠片にすぎなかったという事実をエルジオはそこでようやく理解する。
(美しい……)
そして世界屈指の芸術家が全霊をかけてつくったようなその美貌も、少女の神々しさに拍車をかけていた。
純白の魔力に劣らぬほどの白皙の肌、腰まで伸びた梳かす必要もないぐらいに艷やかな髪、そして年齢相応と思われる幼い少女のかわいらしさと、苦労人のごとき大人びた美しさが同居した天使のような面差し――よくよく見れば装い自体は安っぽく薄汚れた衣なのだが、その簡素さすらも少女の美貌を引きたてている調味料に見えた。
(もしやこの御方こそ……ぼくが生涯お仕えすべき御方、なんか)
自然とみずから膝をおり、少女の前にひざまずいてしまった自分に気づき、エルジオはそんなことを思う。
少女を目にしたその瞬間、眼前のこの少女にはひざまずかねばならない――それが自然の摂理なのだという感覚が、心の奥底から湧きあがってきたのだ。
それは圧倒的カリスマである“吸血帝”と初めて相まみえたときと似ていた――否、それ以上の感覚だった。
今日ここに至るまで、聖女というものが単なる特別な力を持ったひとりの人間にすぎないとエルシオは思っていた。自分と大差ないちっぽけな人間なのだと思っていた。
しかし、それは勘違いだったのだ。
このアリシアという少女をひと目見ただけでわかった。それはあきらかに違う。神か天使か――とにかく、自分が仕えるべき圧倒的上位存在なのだ。そう思ってしまった。
(守らねばならない)
エルジオは少女のその無垢で華奢な手に触れたとき、決意した。
それは天啓のようなものだった。
彼女こそがこの国の――いや、この世界の希望の光だ。だからたとえこの命に替えても、この生涯のすべてを投げうってでも、守らねばならない。絶対に守るのだと。
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はい!そのせいでひたすら自己評価低すぎるんですけど、見守ってやってくださると幸いです……!
道中、モコちゃんが一緒で良かった🥺。
ですねですね!
作者もモコちゃん欲しいです!!!笑