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第5章:見捨てられた魔導師と、氷の戦乙女
暗黒魔法
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5-2
「ここは……エリアちゃんのお家?」
回復薬(ポーション)を飲ませたが、まだ精神的なショックでふらふらしているリリスが、広々としたリビングを見て目を丸くする。
「そうだよリリス、さあいらっしゃい。まずは汚れを落としましょう」
お風呂好きになったエリアが、すぐにお湯の用意をする。
「リリス、一緒に入ろう。シンジが作ったシャンプー、すっごくいい匂いなんだよ」
「エリアちゃん、これは何?」
「こっちのボトルがシャンプーで、こっちの透明なのがリンスだよ」
「シャンプー? リンス?」
少し前の俺とエリアのやり取りが、浴室で繰り返されていた。
脱衣所で待機している俺の耳に、最初は戸惑っていたリリスの声が、次第に明るいものへと変わっていくのが聞こえた。キャッキャという水音と笑い声。それは、彼女が人間としての尊厳を取り戻していく音でもあった。
一時間後。
リビングに戻ってきたリリスは、別人のようになっていた。
泥と脂で固まり、顔を隠すように垂れ下がっていた黒髪は、『濡羽色(ぬればいろ)』という言葉が相応しい、しっとりとした艶やかなロングヘアに変わっている。
エリアに薄く化粧をしてもらった顔立ちは、陶器のように白く、切れ長の目が印象的な日本人形のような美女だった。
「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございました……」
リリスが消え入りそうな声で頭を下げる。だが、その声には以前のような怯えだけではなく、微かな温かみが混じっていた。
「リリス、ちょっとこっち向いて」
俺は手招きして、彼女の美しい黒髪に手を伸ばした。
「ひっ……」
一瞬身を強張らせたリリスだが、エリアが「大丈夫」と微笑むのを見て、じっと我慢してくれた。
俺は彼女の髪を左右に分け、少し高い位置で結ぶ『ツインテール』にした。前髪は整え、横髪を残す『インテーク』を作ることで、彼女の小顔をより引き立たせる。
結び目には、フォレストボアの皮をなめし、ミモザに似た植物で鮮やかな赤に染色したレザーリボンを結んだ。
「よし、できた。鏡を見てごらん」
リリスがおそるおそる鏡を覗き込む。
「……っ! これが……私?」
そこには、物語に出てくる魔女っ子のような、しかし可憐で愛らしい少女がいた。
「すごく可愛いよ、リリス」
俺の言葉に、リリスは顔を真っ赤にして、リボンの端をいじった。
「さて、ここからが本番だ」
俺は操作パネルを開き、彼女をパーティ『ブレイブ・ハート』に招待した。
【システム通知:パーティメンバー『リリス』が加入しました】
【勇者の加護により、メンバーの状態異常『男の力』を上書きします】
「えっ……?」
リリスが自分の身体を見下ろす。
「な、なに……これ? 体の奥から、魔力が……溢れてくる。体が熱い……」
ドクン、ドクンと脈打つ魔力の鼓動。今まで細い管でしか汲み出せなかった魔力が、大河のように体中を駆け巡る感覚。
「リリス、ステータスを見て」
彼女が震える指でステータスウィンドウを開く。
そこにあった『見習い魔法使い』の文字は消え、代わりに黄金に輝く文字が刻まれていた。
職業:上級魔導師(ハイ・ウィザード)/死霊術師(ネクロマンサー)
さらに、本来なら男性上級魔法使い系には習得不可能とされる『暗黒魔法』のスキルツリーが解放されている。
「私が……上級職? 嘘、こんなの……夢……?」
「夢じゃない。得体のしれない呪いに勝手に限界を決められていただけだ。これから君の本来の力を出せるようになる」
俺は『無限収納』から、一本の杖を取り出した。
以前、武器屋で上級魔法使いの杖を予備で買っておいたものだ。ミスリルの柄に、属性魔法を増幅する大きな紫のサファイアが埋め込まれている。
「これを君に。前の杖は折れちゃったからな」
「こ、こんな高価なもの、持てません! 使いこなせるとは思いません、私なんかじゃ……」
「持ってみて。今の君なら、きっと相棒になってくれる」
リリスがおそるおそる杖を握ると、サファイアが彼女の膨大な魔力に呼応し、妖しくも美しい紫色の光を放った。
「軽い……。魔力が、手足のように繋がってる……」
リリスは杖を胸に抱きしめ、また涙ぐんだ。だが今度の涙は、恐怖ではなく、歓喜と感謝の涙だった。
その夜、リリスは鏡の前で何度も自分の新しいローブ姿とツインテールを確認していた。リボンを外したりつけ直したり、何度も何度も。
エリアが隣で、姉のように笑いかけている。
「可愛くなったね、リリス」
「……うん。ありがとう、エリアちゃん。ありがとう、シンジ……さん」
少しだけ、彼女の心に自信の灯がともったようだった。
偶然の出会い。いや、これは必然だったのかもしれない。この歪んだ世界で、俺は探していたものを見つけることができている。
「ここは……エリアちゃんのお家?」
回復薬(ポーション)を飲ませたが、まだ精神的なショックでふらふらしているリリスが、広々としたリビングを見て目を丸くする。
「そうだよリリス、さあいらっしゃい。まずは汚れを落としましょう」
お風呂好きになったエリアが、すぐにお湯の用意をする。
「リリス、一緒に入ろう。シンジが作ったシャンプー、すっごくいい匂いなんだよ」
「エリアちゃん、これは何?」
「こっちのボトルがシャンプーで、こっちの透明なのがリンスだよ」
「シャンプー? リンス?」
少し前の俺とエリアのやり取りが、浴室で繰り返されていた。
脱衣所で待機している俺の耳に、最初は戸惑っていたリリスの声が、次第に明るいものへと変わっていくのが聞こえた。キャッキャという水音と笑い声。それは、彼女が人間としての尊厳を取り戻していく音でもあった。
一時間後。
リビングに戻ってきたリリスは、別人のようになっていた。
泥と脂で固まり、顔を隠すように垂れ下がっていた黒髪は、『濡羽色(ぬればいろ)』という言葉が相応しい、しっとりとした艶やかなロングヘアに変わっている。
エリアに薄く化粧をしてもらった顔立ちは、陶器のように白く、切れ長の目が印象的な日本人形のような美女だった。
「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございました……」
リリスが消え入りそうな声で頭を下げる。だが、その声には以前のような怯えだけではなく、微かな温かみが混じっていた。
「リリス、ちょっとこっち向いて」
俺は手招きして、彼女の美しい黒髪に手を伸ばした。
「ひっ……」
一瞬身を強張らせたリリスだが、エリアが「大丈夫」と微笑むのを見て、じっと我慢してくれた。
俺は彼女の髪を左右に分け、少し高い位置で結ぶ『ツインテール』にした。前髪は整え、横髪を残す『インテーク』を作ることで、彼女の小顔をより引き立たせる。
結び目には、フォレストボアの皮をなめし、ミモザに似た植物で鮮やかな赤に染色したレザーリボンを結んだ。
「よし、できた。鏡を見てごらん」
リリスがおそるおそる鏡を覗き込む。
「……っ! これが……私?」
そこには、物語に出てくる魔女っ子のような、しかし可憐で愛らしい少女がいた。
「すごく可愛いよ、リリス」
俺の言葉に、リリスは顔を真っ赤にして、リボンの端をいじった。
「さて、ここからが本番だ」
俺は操作パネルを開き、彼女をパーティ『ブレイブ・ハート』に招待した。
【システム通知:パーティメンバー『リリス』が加入しました】
【勇者の加護により、メンバーの状態異常『男の力』を上書きします】
「えっ……?」
リリスが自分の身体を見下ろす。
「な、なに……これ? 体の奥から、魔力が……溢れてくる。体が熱い……」
ドクン、ドクンと脈打つ魔力の鼓動。今まで細い管でしか汲み出せなかった魔力が、大河のように体中を駆け巡る感覚。
「リリス、ステータスを見て」
彼女が震える指でステータスウィンドウを開く。
そこにあった『見習い魔法使い』の文字は消え、代わりに黄金に輝く文字が刻まれていた。
職業:上級魔導師(ハイ・ウィザード)/死霊術師(ネクロマンサー)
さらに、本来なら男性上級魔法使い系には習得不可能とされる『暗黒魔法』のスキルツリーが解放されている。
「私が……上級職? 嘘、こんなの……夢……?」
「夢じゃない。得体のしれない呪いに勝手に限界を決められていただけだ。これから君の本来の力を出せるようになる」
俺は『無限収納』から、一本の杖を取り出した。
以前、武器屋で上級魔法使いの杖を予備で買っておいたものだ。ミスリルの柄に、属性魔法を増幅する大きな紫のサファイアが埋め込まれている。
「これを君に。前の杖は折れちゃったからな」
「こ、こんな高価なもの、持てません! 使いこなせるとは思いません、私なんかじゃ……」
「持ってみて。今の君なら、きっと相棒になってくれる」
リリスがおそるおそる杖を握ると、サファイアが彼女の膨大な魔力に呼応し、妖しくも美しい紫色の光を放った。
「軽い……。魔力が、手足のように繋がってる……」
リリスは杖を胸に抱きしめ、また涙ぐんだ。だが今度の涙は、恐怖ではなく、歓喜と感謝の涙だった。
その夜、リリスは鏡の前で何度も自分の新しいローブ姿とツインテールを確認していた。リボンを外したりつけ直したり、何度も何度も。
エリアが隣で、姉のように笑いかけている。
「可愛くなったね、リリス」
「……うん。ありがとう、エリアちゃん。ありがとう、シンジ……さん」
少しだけ、彼女の心に自信の灯がともったようだった。
偶然の出会い。いや、これは必然だったのかもしれない。この歪んだ世界で、俺は探していたものを見つけることができている。
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