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第5章:見捨てられた魔導師と、氷の戦乙女
2人目の勇者パーティー
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5-1
エリアが魔法剣士として覚醒し、ミアたちに「美」という名の革命をもたらしてから数日が過ぎた。
俺とエリアは順調に依頼をこなし、ギルド内でも少しずつだが「あの二人組は侮れない」という認識が広まりつつあった。もちろん、まだ多くの男たちは「女に何ができる」「どうせ男が裏で操っている」と高を括っているようだが。
そんなある日の朝。
ギルドの重い扉が乱暴に開かれ、血相を変えた男たち数人が転がり込んできた。
「くそっ、はぁ、はぁ……オークジェネラルがいるなんて聞いてねぇぞ!」
「あんな辺境に群れを作ってやがった! 逃げるので精一杯だったぜ」
男たちの鎧はボロボロで、何人かは深手を負っている。
その会話を聞いていた別の冒険者が、顔をしかめて尋ねた。
「おい、お前ら。パーティにいた魔法使いの女……リリスはどうした? 姿が見えないが」
その問いに、リーダー格の男が悪びれもせずに唾を吐き捨てた。
「あ? あんな役立たず、連れて帰れるわけねぇだろ! 初級魔法を数発撃っただけで『魔力切れです』なんて泣き言を言いやがって動けなくなったんだ。だから、囮になってもらったよ」
「囮だと?」
「ああ。今頃オークに美味しく喰われてるだろうさ。こんなことなら、リリスをもっと徹底的に『躾』て、夜の相手だけでもさせておけばよかったぜ。ったく、損したわ」
その言葉に、ギルドが一瞬静まり返った。
だが、それは非難の沈黙ではない。「ああ、またか」「運が悪かったな」という、諦めと無関心の沈黙だった。
この世界では、女の冒険者は消耗品だ。男の盾になり、囮になり、使い潰されるのが「普通」なのだ。
リリス。
俺も何度か見かけたことがある。黒髪の長い、いつも怯えたように背を丸めている見習い魔法使いの少女だ。大きな荷物を背負わされ、男たちの後ろを影のように歩いていた姿が脳裏をよぎる。
俺の腹の底から、どす黒い怒りが湧き上がった。
女神に与えられたチート能力や、異世界転生の浮かれた気分など一瞬で吹き飛ぶほどの、純粋な義憤。
「エリア、行くぞ」
「はい、シンジ!」
俺の短い言葉に、エリアは即座に反応した。彼女の青い瞳にも、俺と同じ怒りの炎が宿っていた。
俺たちは振り返ることなく、ギルドを飛び出した。
場所は、街から少し離れた岩場にあるオークの簡易拠点。
俺たちが到着した時、そこは地獄の様相を呈していた。
粗末な柵に囲まれた広場で、一人の少女がへたり込んでいる。
ボロボロのローブはさらに引き裂かれ、護身用の木の杖は無惨に折れていた。
周囲には十体近い豚の顔をした魔物、オーク。そしてその中心には、一際巨大な体躯を持ち、錆びた大剣を担いだオークジェネラルが、下卑た笑い声を上げながら包囲網を狭めていた。
「い、いや……こないで……」
「ブヒヒヒッ! 女、女だ!」
「柔らかい肉だ、喰うぞ、犯すぞ!」
リリスの声は震え、絶望に染まっている。
俺は遠目から彼女の状態を確認した。
「ステータス・チェック」
【名前:リリス 状態:魔力枯渇(MP0/15)、男の力(呪)】
やはりだ。状態異常『男の力』による制限で、魔力タンクの上限が極端に低く、すぐにガス欠を起こしてしまうのだ。
オークの一体が、涎を垂らしながら棍棒を振り上げた。
リリスが悲鳴を上げ、顔を覆う。
「させないっ!!」
俺が動くより早く、隣から金色の閃光が走った。
「……え?」
リリスがおそるおそる顔を上げる。
その視線の先には、朝日に輝くミスリルの胸当てを纏い、青白い光を帯びた剣を構えるエリアが立っていた。
「エリア、ちゃん……?」
「リリス、伏せて!」
エリアの剣が閃く。
「凍てつけ……『アイス・エンチャント』!」
ミスリルの剣が、振り下ろされたオークの棍棒を受け止めた瞬間、爆発的な冷気が発生した。
「ブギィッ!?」
オークの右腕が一瞬で凍りつき、衝撃で粉々に砕け散る。
リリスは呆然とそれを見ていた。
(魔力が……剣から溢れている? これは魔法剣? ……なんで、女性なのに……)
女性は魔法を剣に纏わせることなどできない。魔力制御が暴走してしまうからだ。それはこの世界の常識であり、絶対の理のはずだった。
「ふっ!」
エリアは流れるような動きで剣を返し、次のオークの首を刎ねる。その剣筋は美しく、まるで戦場に咲いた氷の花のように舞う。
だが、敵は多い。部下がやられたことに激昂したオークジェネラルが、怒号を上げ、巨大な剣を振り回して突っ込んできた。
「グガアアアァッ!」
「『視界遮断(ブラインド)』! 『勇者の加護(シールド)』!」
俺はジェネラルの視界を奪う闇の魔法を放った。続けて、エリアに向けて勇者の防御魔法をかける。
「グッ!? ヌグオオオッ!」
視界を黒い霧に奪われ、狂ったように剣を振り回すジェネラル。その錆びた大きなブロードソードの切っ先が、回避しようとしたエリアの肩を掠めた。
ガギィン!
甲高い音と共に、エリアの体を包むように六角形の光の盾が出現し、ジェネラルの剛剣を弾き返した。
体制を崩すジェネラル。
「今だ、エリア!」
「はいっ! ……氷よ、貫け! 『アイス・バレット』!」
エリアが剣先を突き出すと、空中に無数の氷の礫(つぶて)が出現した。
それはマシンガンのようにジェネラルに殺到し、分厚い脂肪と皮膚を貫き、蜂の巣にしていく。
「ゴ、ガ……ッ!?」
動きが鈍ったジェネラルに、エリアが肉薄する。
「はああぁっ!」
氷の魔力を最大まで高めた一撃が、ジェネラルの巨体を斜めに切り裂いた。
断面から血が噴き出ることはない。全てが瞬時に凍りついたからだ。
巨大な氷像と化したオークジェネラルが、朝日を浴びてキラキラと輝きながら、音を立てて崩れ去った。
静寂が戻る。
エリアは剣を納め、震えるリリスの元へ駆け寄った。
「リリス、怪我はない?」
「エ、エリア……様? 戦乙女、様……?」
リリスには現実感がなかった。
目の前にいる、太陽のように輝く女性が、以前自分と同じように薄汚れた服を着て、男に怯えていたあのエリアだとは信じられなかったのだ。
「ううん、エリアだよ。怖かったね、もう大丈夫」
エリアが優しく抱きしめると、リリスの張り詰めていた糸が切れ、瞳から涙が溢れ出した。
「う、うわぁぁぁん! 怖かったよぉ……! 死ぬかと思ったぁ……!」
「ごめんね、遅くなって。もう絶対に一人にはさせないから」
俺が近づくと、リリスはビクリと肩を震わせてエリアの後ろに隠れた。
極度の男性恐怖症。無理もない、たった今、信頼していた仲間の男たちに見捨てられ、殺されかけたのだから。
「大丈夫、シンジは優しい人だから。私を救ってくれたの」
エリアの懸命な説得で、リリスはどうにか俺の存在を受け入れてくれた。
俺たちは、心身ともに消耗しきったリリスを連れて、王都の俺の家へと帰った。
エリアが魔法剣士として覚醒し、ミアたちに「美」という名の革命をもたらしてから数日が過ぎた。
俺とエリアは順調に依頼をこなし、ギルド内でも少しずつだが「あの二人組は侮れない」という認識が広まりつつあった。もちろん、まだ多くの男たちは「女に何ができる」「どうせ男が裏で操っている」と高を括っているようだが。
そんなある日の朝。
ギルドの重い扉が乱暴に開かれ、血相を変えた男たち数人が転がり込んできた。
「くそっ、はぁ、はぁ……オークジェネラルがいるなんて聞いてねぇぞ!」
「あんな辺境に群れを作ってやがった! 逃げるので精一杯だったぜ」
男たちの鎧はボロボロで、何人かは深手を負っている。
その会話を聞いていた別の冒険者が、顔をしかめて尋ねた。
「おい、お前ら。パーティにいた魔法使いの女……リリスはどうした? 姿が見えないが」
その問いに、リーダー格の男が悪びれもせずに唾を吐き捨てた。
「あ? あんな役立たず、連れて帰れるわけねぇだろ! 初級魔法を数発撃っただけで『魔力切れです』なんて泣き言を言いやがって動けなくなったんだ。だから、囮になってもらったよ」
「囮だと?」
「ああ。今頃オークに美味しく喰われてるだろうさ。こんなことなら、リリスをもっと徹底的に『躾』て、夜の相手だけでもさせておけばよかったぜ。ったく、損したわ」
その言葉に、ギルドが一瞬静まり返った。
だが、それは非難の沈黙ではない。「ああ、またか」「運が悪かったな」という、諦めと無関心の沈黙だった。
この世界では、女の冒険者は消耗品だ。男の盾になり、囮になり、使い潰されるのが「普通」なのだ。
リリス。
俺も何度か見かけたことがある。黒髪の長い、いつも怯えたように背を丸めている見習い魔法使いの少女だ。大きな荷物を背負わされ、男たちの後ろを影のように歩いていた姿が脳裏をよぎる。
俺の腹の底から、どす黒い怒りが湧き上がった。
女神に与えられたチート能力や、異世界転生の浮かれた気分など一瞬で吹き飛ぶほどの、純粋な義憤。
「エリア、行くぞ」
「はい、シンジ!」
俺の短い言葉に、エリアは即座に反応した。彼女の青い瞳にも、俺と同じ怒りの炎が宿っていた。
俺たちは振り返ることなく、ギルドを飛び出した。
場所は、街から少し離れた岩場にあるオークの簡易拠点。
俺たちが到着した時、そこは地獄の様相を呈していた。
粗末な柵に囲まれた広場で、一人の少女がへたり込んでいる。
ボロボロのローブはさらに引き裂かれ、護身用の木の杖は無惨に折れていた。
周囲には十体近い豚の顔をした魔物、オーク。そしてその中心には、一際巨大な体躯を持ち、錆びた大剣を担いだオークジェネラルが、下卑た笑い声を上げながら包囲網を狭めていた。
「い、いや……こないで……」
「ブヒヒヒッ! 女、女だ!」
「柔らかい肉だ、喰うぞ、犯すぞ!」
リリスの声は震え、絶望に染まっている。
俺は遠目から彼女の状態を確認した。
「ステータス・チェック」
【名前:リリス 状態:魔力枯渇(MP0/15)、男の力(呪)】
やはりだ。状態異常『男の力』による制限で、魔力タンクの上限が極端に低く、すぐにガス欠を起こしてしまうのだ。
オークの一体が、涎を垂らしながら棍棒を振り上げた。
リリスが悲鳴を上げ、顔を覆う。
「させないっ!!」
俺が動くより早く、隣から金色の閃光が走った。
「……え?」
リリスがおそるおそる顔を上げる。
その視線の先には、朝日に輝くミスリルの胸当てを纏い、青白い光を帯びた剣を構えるエリアが立っていた。
「エリア、ちゃん……?」
「リリス、伏せて!」
エリアの剣が閃く。
「凍てつけ……『アイス・エンチャント』!」
ミスリルの剣が、振り下ろされたオークの棍棒を受け止めた瞬間、爆発的な冷気が発生した。
「ブギィッ!?」
オークの右腕が一瞬で凍りつき、衝撃で粉々に砕け散る。
リリスは呆然とそれを見ていた。
(魔力が……剣から溢れている? これは魔法剣? ……なんで、女性なのに……)
女性は魔法を剣に纏わせることなどできない。魔力制御が暴走してしまうからだ。それはこの世界の常識であり、絶対の理のはずだった。
「ふっ!」
エリアは流れるような動きで剣を返し、次のオークの首を刎ねる。その剣筋は美しく、まるで戦場に咲いた氷の花のように舞う。
だが、敵は多い。部下がやられたことに激昂したオークジェネラルが、怒号を上げ、巨大な剣を振り回して突っ込んできた。
「グガアアアァッ!」
「『視界遮断(ブラインド)』! 『勇者の加護(シールド)』!」
俺はジェネラルの視界を奪う闇の魔法を放った。続けて、エリアに向けて勇者の防御魔法をかける。
「グッ!? ヌグオオオッ!」
視界を黒い霧に奪われ、狂ったように剣を振り回すジェネラル。その錆びた大きなブロードソードの切っ先が、回避しようとしたエリアの肩を掠めた。
ガギィン!
甲高い音と共に、エリアの体を包むように六角形の光の盾が出現し、ジェネラルの剛剣を弾き返した。
体制を崩すジェネラル。
「今だ、エリア!」
「はいっ! ……氷よ、貫け! 『アイス・バレット』!」
エリアが剣先を突き出すと、空中に無数の氷の礫(つぶて)が出現した。
それはマシンガンのようにジェネラルに殺到し、分厚い脂肪と皮膚を貫き、蜂の巣にしていく。
「ゴ、ガ……ッ!?」
動きが鈍ったジェネラルに、エリアが肉薄する。
「はああぁっ!」
氷の魔力を最大まで高めた一撃が、ジェネラルの巨体を斜めに切り裂いた。
断面から血が噴き出ることはない。全てが瞬時に凍りついたからだ。
巨大な氷像と化したオークジェネラルが、朝日を浴びてキラキラと輝きながら、音を立てて崩れ去った。
静寂が戻る。
エリアは剣を納め、震えるリリスの元へ駆け寄った。
「リリス、怪我はない?」
「エ、エリア……様? 戦乙女、様……?」
リリスには現実感がなかった。
目の前にいる、太陽のように輝く女性が、以前自分と同じように薄汚れた服を着て、男に怯えていたあのエリアだとは信じられなかったのだ。
「ううん、エリアだよ。怖かったね、もう大丈夫」
エリアが優しく抱きしめると、リリスの張り詰めていた糸が切れ、瞳から涙が溢れ出した。
「う、うわぁぁぁん! 怖かったよぉ……! 死ぬかと思ったぁ……!」
「ごめんね、遅くなって。もう絶対に一人にはさせないから」
俺が近づくと、リリスはビクリと肩を震わせてエリアの後ろに隠れた。
極度の男性恐怖症。無理もない、たった今、信頼していた仲間の男たちに見捨てられ、殺されかけたのだから。
「大丈夫、シンジは優しい人だから。私を救ってくれたの」
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