17 / 38
第6章:贄(にえ)の巫女と、勇者の決断
女の見習い神官
しおりを挟む
6-2
俺たちは乗り合い馬車をチャーターし、御者に金貨を握らせて馬を飛ばさせた。
その日の夜には、目的の町の近くに到着した。
町は、死んだように静まり返っていた。明かりもついていない。まるで、何かが通り過ぎるのを息を潜めて待っているかのようだ。
「ステータス・サーチ」
俺の探知スキルが、町の中を徘徊する不吉な魔力の反応を捉える。
「いるな……下級デーモンが十体。町の広場に向かってる」
そして、その中心には――微弱だが、清廉な魔力を持つ人間(女)の反応が一つ。
「急ぐぞ!」
俺たちは夜の町を疾走した。
角を曲がると、広場の古びた井戸が見えた。
そこに、一人の女性が縛り付けられていた。
歳は20歳くらいか。月明かりに照らされた赤みがかった金髪は埃にまみれ、着ている白い神官服はボロボロだ。
「……ッ!」
俺は駆け寄り、彼女を縛る太い縄に手をかけた。
彼女が顔を上げる。その瞳は、死を受け入れたように虚ろで、光がなかった。
「……何をしているのですか? 離れてください」
「助けに来たんだ。じっとしてろ」
「無駄です。私は……忌み子として神官の家系に生まれました。魔王軍が求めているのは私の血と魂です。私さえ犠牲になれば、この町は……父は助かるのです」
淡々とした口調が、逆に彼女の絶望の深さを物語っていた。
父親が、実の娘を売ったのか。町を守るという大義名分のもとに。
「ふざけるな。そんな理不尽な取引、俺が破棄してやる」
俺は短剣で縄を断ち切った。
支えを失った彼女が崩れ落ちるのを抱き止める。軽い。何も食べていないのだろうか。
「名前は?」
「……セレニティ、です」
「セレニティ、一緒に逃げるぞ。いや、戦うんだ。君の命は、君だけのものだ」
その時、闇の向こうから、蝙蝠の翼を生やした異形の怪物たちが現れた。
「ギギギギ……ニエ、ニエ……」
レッサーデーモンとガーゴイル。オークなんかよりも遥かに格上の、知能を持った魔族だ。その数、十体以上。さらに奥には、一際巨大な影――グレーターデーモンが腕組みをしてこちらを見下ろしている。
「ひっ……!」
セレニティが俺の腕にしがみつく。
「逃げてください! あなた達まで殺されてしまいます!」
「逃げないよ。俺たちは『ブレイブ・ハート』。君を助けに来た勇者パーティだ」
俺は地面に手を突き、大地に眠る魔力脈に干渉した。
「大地よ、我が意に従い巨人を成せ! 『サモン・ストーンゴーレム』!」
ズズズズ……ッ!
石畳が隆起し、身長三メートルを超える岩の巨人が出現した。その質量に、デーモンたちが一瞬たじろぐ。
「ギィッ!?」
デーモンたちが怯む隙に、俺は叫んだ。
「エリア、リリス、やれ!!」
「はいっ! 風よ、刃となりて敵を切り刻め! 『ストーム・エンチャント』!」
エリアが跳躍する。
剣に纏わせたのは、目に見えない真空の嵐。
彼女がデーモンの群れの中を疾風のように駆け抜けると、すれ違いざまに二体のデーモンの身体に無数の亀裂が走った。
「ギシャアアアッ!」
遅れて噴き出す黒い血液。エリアの剣速と風の刃は、魔族の硬い皮膚をも紙のように切り裂く。
「闇よ、深淵より来たりて敵を穿て……『シャドー・ランス』!」
リリスの詠唱が響く。
彼女の杖から放たれたのは、漆黒の槍。それはゴーレムと取っ組み合いをしていたデーモンの胸板を貫通した。
「ギャッ……!」
闇の魔力は傷口を腐食させ、再生能力を封じる。デーモンは断末魔と共に黒い霧となって消滅した。
さらに、上空を飛び回るガーゴイルを的確に狙い撃ち、撃ち落としていく。
「視界遮断(ブラインド)!」
俺も支援魔法を放つが、やはり魔族にはレジストされ、数秒で効果が切れる。
「ちっ、効きが悪いな!」
ゴーレムの腕が一本砕かれる。だが、その隙にエリアが背後に回り込んでいた。
「はあっ!」
真空の刃がデーモンの首を刎ねる。
連携。
エリアが切り込み、リリスが援護し、俺とゴーレムが守る。
グレーターデーモンが業を煮やして炎の魔法を放とうとしたが、リリスの『サイレンス(沈黙)』がそれを封じ、エリアの魔法剣『アイス・エンチャント』がその巨体を氷漬けにして粉砕した。
本来なら上級冒険者パーティでも全滅しかねない数を、俺たちはほぼ無傷で制圧した。
最後の一体が地面に落ちたところをゴーレムに踏み潰され、戦いは終わった。
月明かりの下、静寂が戻る。
「……信じられない」
セレニティが呆然と呟く。
「周りの神官達も見捨て、国も見捨てた私を……どうして……」
「ギルドの依頼に貼ってあったんだよ。気になったから周りの冒険者に聞いたんだ、どうもおかしい依頼だったからな。」
俺が何だったんだと問いかけるような視線でセレニティを見ると、彼女の目から堰を切ったように大粒の涙がこぼれ落ちた。
俺たちはとりあえず、安全確保のために町の外へ移動した。
セレニティの家はもうない。父親も町の人々も、彼女を守らなかった。帰る場所などないのだ。
俺たちは乗り合い馬車をチャーターし、御者に金貨を握らせて馬を飛ばさせた。
その日の夜には、目的の町の近くに到着した。
町は、死んだように静まり返っていた。明かりもついていない。まるで、何かが通り過ぎるのを息を潜めて待っているかのようだ。
「ステータス・サーチ」
俺の探知スキルが、町の中を徘徊する不吉な魔力の反応を捉える。
「いるな……下級デーモンが十体。町の広場に向かってる」
そして、その中心には――微弱だが、清廉な魔力を持つ人間(女)の反応が一つ。
「急ぐぞ!」
俺たちは夜の町を疾走した。
角を曲がると、広場の古びた井戸が見えた。
そこに、一人の女性が縛り付けられていた。
歳は20歳くらいか。月明かりに照らされた赤みがかった金髪は埃にまみれ、着ている白い神官服はボロボロだ。
「……ッ!」
俺は駆け寄り、彼女を縛る太い縄に手をかけた。
彼女が顔を上げる。その瞳は、死を受け入れたように虚ろで、光がなかった。
「……何をしているのですか? 離れてください」
「助けに来たんだ。じっとしてろ」
「無駄です。私は……忌み子として神官の家系に生まれました。魔王軍が求めているのは私の血と魂です。私さえ犠牲になれば、この町は……父は助かるのです」
淡々とした口調が、逆に彼女の絶望の深さを物語っていた。
父親が、実の娘を売ったのか。町を守るという大義名分のもとに。
「ふざけるな。そんな理不尽な取引、俺が破棄してやる」
俺は短剣で縄を断ち切った。
支えを失った彼女が崩れ落ちるのを抱き止める。軽い。何も食べていないのだろうか。
「名前は?」
「……セレニティ、です」
「セレニティ、一緒に逃げるぞ。いや、戦うんだ。君の命は、君だけのものだ」
その時、闇の向こうから、蝙蝠の翼を生やした異形の怪物たちが現れた。
「ギギギギ……ニエ、ニエ……」
レッサーデーモンとガーゴイル。オークなんかよりも遥かに格上の、知能を持った魔族だ。その数、十体以上。さらに奥には、一際巨大な影――グレーターデーモンが腕組みをしてこちらを見下ろしている。
「ひっ……!」
セレニティが俺の腕にしがみつく。
「逃げてください! あなた達まで殺されてしまいます!」
「逃げないよ。俺たちは『ブレイブ・ハート』。君を助けに来た勇者パーティだ」
俺は地面に手を突き、大地に眠る魔力脈に干渉した。
「大地よ、我が意に従い巨人を成せ! 『サモン・ストーンゴーレム』!」
ズズズズ……ッ!
石畳が隆起し、身長三メートルを超える岩の巨人が出現した。その質量に、デーモンたちが一瞬たじろぐ。
「ギィッ!?」
デーモンたちが怯む隙に、俺は叫んだ。
「エリア、リリス、やれ!!」
「はいっ! 風よ、刃となりて敵を切り刻め! 『ストーム・エンチャント』!」
エリアが跳躍する。
剣に纏わせたのは、目に見えない真空の嵐。
彼女がデーモンの群れの中を疾風のように駆け抜けると、すれ違いざまに二体のデーモンの身体に無数の亀裂が走った。
「ギシャアアアッ!」
遅れて噴き出す黒い血液。エリアの剣速と風の刃は、魔族の硬い皮膚をも紙のように切り裂く。
「闇よ、深淵より来たりて敵を穿て……『シャドー・ランス』!」
リリスの詠唱が響く。
彼女の杖から放たれたのは、漆黒の槍。それはゴーレムと取っ組み合いをしていたデーモンの胸板を貫通した。
「ギャッ……!」
闇の魔力は傷口を腐食させ、再生能力を封じる。デーモンは断末魔と共に黒い霧となって消滅した。
さらに、上空を飛び回るガーゴイルを的確に狙い撃ち、撃ち落としていく。
「視界遮断(ブラインド)!」
俺も支援魔法を放つが、やはり魔族にはレジストされ、数秒で効果が切れる。
「ちっ、効きが悪いな!」
ゴーレムの腕が一本砕かれる。だが、その隙にエリアが背後に回り込んでいた。
「はあっ!」
真空の刃がデーモンの首を刎ねる。
連携。
エリアが切り込み、リリスが援護し、俺とゴーレムが守る。
グレーターデーモンが業を煮やして炎の魔法を放とうとしたが、リリスの『サイレンス(沈黙)』がそれを封じ、エリアの魔法剣『アイス・エンチャント』がその巨体を氷漬けにして粉砕した。
本来なら上級冒険者パーティでも全滅しかねない数を、俺たちはほぼ無傷で制圧した。
最後の一体が地面に落ちたところをゴーレムに踏み潰され、戦いは終わった。
月明かりの下、静寂が戻る。
「……信じられない」
セレニティが呆然と呟く。
「周りの神官達も見捨て、国も見捨てた私を……どうして……」
「ギルドの依頼に貼ってあったんだよ。気になったから周りの冒険者に聞いたんだ、どうもおかしい依頼だったからな。」
俺が何だったんだと問いかけるような視線でセレニティを見ると、彼女の目から堰を切ったように大粒の涙がこぼれ落ちた。
俺たちはとりあえず、安全確保のために町の外へ移動した。
セレニティの家はもうない。父親も町の人々も、彼女を守らなかった。帰る場所などないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

