誰かが望んだ楽園の迷い人

AI異世界小説家

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第7章:黒の尖塔に蠢く悪意と、異世界規格外の休日

魔物領の事情

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7-1
王都グランヴェルから遥か北西、人が立ち入らぬ険しい岩山の地下深く。
そこは、腐った卵の臭い――硫黄の瘴気と、生き血の鉄錆びた臭いが混ざり合う、魔王軍の前線基地『黒の尖塔』の最下層。
「グギャ、ギャッ……アグッ……!」
断末魔すら上げられないほどの圧力が、空間そのものを歪めていた。
闇に浮かぶのは、十数体のレッサーデーモンとガーゴイルたち。本来ならば人間を容易く引き裂く上位の魔物たちが、まるで玩具のように見えない巨大な手で鷲掴みにされ、空中で藻掻いている。
その視線の先、黒曜石を削り出して作られた禍々しい玉座に、一人の怪物が座していた。
漆黒のローブの奥には肉体がない。あるのは冷たく白骨化した頭蓋と、眼窩の奥で揺らめく紅蓮の鬼火のみ。
魔王軍幹部、『悪魔神官(デーモン・プリースト)』。
その骨だけの指が指揮者のタクトのように軽く振られるたび、空中の魔物たちの四肢が、音を立ててねじ切れていく。
「モウシワケ……ゴザイマセン、アクマ……シンカン、サマ……」
「弁明は聞き飽きた。貴様らの声帯は、無能を嘆くためにあるのではない」
カチリ、と顎の骨が鳴る音が、洞窟内に冷徹に響いた。
「たかが女だ。それも、護衛もつけずに逃げ惑う無力な見習い神官一人だぞ? それを捕らえられぬどころか、なぜグレーターデーモンほどの個体が討ち取られたのだ? 答えろ」
悪魔神官が指を弾く。
バヂンッ!!
火花と共に、ガーゴイルの一体が内側から破裂し、汚らわしい肉片となって石畳に飛び散った。
「ヒィッ!? ワ、ワカリマセン……! グギャー!」
「……興ざめだ。失せろ。次はないと思え。例の女は王都グランヴェル周辺に潜伏している。草の根を分けてでも探し出し、その首を我が祭壇に捧げよ!」
「ハ、ハハァッ!!」
生き残った魔物たちが、蜘蛛の子を散らすように闇へと消えていく。
静寂が戻った空間で、悪魔神官は手元の水晶玉を覗き込み、不快げに骨の指で肘掛けを叩いた。

「解せぬ……」
水晶玉には、王都グランヴェルの地図が浮かび上がり、その郊外の一点に、目が焼けるほどの『純白の光』が輝いている。
それは、通常の人間が持つ魂の輝きとは一線を画していた。
「この忌々しいほどに清浄な気配……。王都から漂ってくるこの波動は、間違いなく『上級神官』の器を持つ者のそれだ。だが、おかしい」
悪魔神官は背後の祭壇へ視線を移す。そこには、直径2メートルほどの漆黒の宝珠が、ドロドロとした闇を吐き出しながら渦巻いていた。
『呪いの宝珠』。
魔界と人間界の理(ことわり)を書き換えた、禁断のアーティファクト。
「この宝珠が世界を覆って以来、女という生き物は魔力を練り上げることができず、聖なる加護も受けられぬ『下級』に成り下がったはずだ。男どもは女を道具として扱い、有能な神官職は男が独占するも、奴らは女の上級神官のような浄化の力は持たぬ。そうやって、我ら魔族にとって都合の良い『楽園』を作り上げたというのに」
眼窩の赤い光が、激しく明滅する。
「グレーターデーモンを消し飛ばしたのは、偶然通りがかったSランク冒険者か? いや、今の人間界にそれほどの使い手がいるとは思えん。……もしや、この『光』の主がやったというのか? たかが下級の女のはずだが?」
未知の脅威。
数千年続いた魔族の優位性が、揺らごうとしている。
悪魔神官の虚ろな眼窩に、明確な殺意が宿った。
「新たな勇者の誕生か、あるいは突然変異か……いずれにせよ、芽は早めに摘まねばならん。この楽園を、下等な人間に壊されてたまるものか」
闇の中で、骨の指がギリギリと音を立てて握りしめられた。
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