誰かが望んだ楽園の迷い人

AI異世界小説家

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第9章:崩れゆく日常と、禁忌の領域への道標

魔物たちの使命2

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9-1
「ほら、シンジ。あーん」
「いや、エリア。自分で食べられるから……」
「ダメです。ほら、ミアたちが見てますよ? 私たちの仲の良さをしっかりと見せつけておかないと、すぐに泥棒猫が寄ってくるんですから」
王都郊外の森。木漏れ日が差し込む『クリエイト・ハウス』の広々としたウッドデッキで、甘ったるい声が響いていた。
エリアがフォークに刺した極上のロース肉――特製ダレが絡んで艶めくそれを、俺の口元に突き出している。
彼女の美しい金髪は、今朝俺がセットしたシニヨンヘアーだ。首筋の白さが際立ち、少し火照った頬が愛らしい。
「うう……いいなぁ。私もシンジさんに『あーん』ってしてもらいたい……」
「ちょっとグレース、抜け駆けはずるいわよ! あんただけズルイ!」
デッキの下、庭で洗濯物を干す手伝いをしてくれていたミアやグレースたちが、手を止めてこちらをチラチラと見ている。
最近、彼女たちのパーティは頻繁にここに遊びに来るようになった。安全な狩り場で力をつけ、俺が提供した女性たちでも使える装備や現代アレンジした食事のおかげで、彼女たちの表情にはかつての陰りはなく、年相応の明るさが戻っていた。
平和だ。
美女たちに囲まれ、美味しい肉を食べ、他愛のない話で笑い合う。
だが、俺は知っている。この世界の呪いはそんなに甘くない。この平和は、薄氷の上に成り立っているのだと。
その時だった。
『警告。敵対的反応ヲ多数感知。セキュリティ・システム、起動』
無機質な機械音声と共に、庭の物置としてカモフラージュしていた格納庫が展開し、銀色のボディを持つ機械人形(オートマタ)が飛び出した。
同時に、俺の索敵スキルがホロコンソール上で警鐘を鳴らす。
ズドォォォォォン!!
「キャアアアッ!?」
「な、なに!? 空から……悪魔!?」
爆発音と共に、庭の芝生が捲れ上がる。
悲鳴を上げて逃げ惑うミアたちの上空を、黒い影が覆い尽くした。
以前遭遇したレッサーデーモンとガーゴイルの群れだ。だが、様子が明らかにおかしい。
彼らの体からは、ドロドロとした黒い粘液のような脂汗が滴り落ち、目は狂ったように充血し、口からは泡を吹いている。
それは獲物を狩る捕食者の目ではない。何かに追われ、恐怖に駆られた敗残兵の姿だった。
「グオオオッ! 女ダ……女ノ首ヲ持ッテ帰ラネバ……!!」
「『悪魔神官(アクマシンカン)』様ニ殺サレル!! 殺サレルクライナラ、殺ス!!」
十数体のレッサーデーモンたちが、統率も何もなく、ただ叫びながら特攻してくる。
クリエイト・ハウスの結界がビリビリと震える。
「追い詰められた獣か……。だが、俺の庭で暴れることは許さん! みんな、迎撃だ!」
俺の声に、エリア、リリス、セレニティが即座に反応した。
彼女たちはもう、守られるだけの存在ではない。
「了解です! 行きます!」
エリアが腰に差したミスリルの長剣を抜く。
刀身が彼女の魔力に呼応し、周囲の空気が一瞬で凍てついた。
「もう逃がしません! 氷結の刃よ、舞い踊れ! 『ブリザード・ダンス』!」
エリアが剣を一閃させると、真夏のような日差しが遮断され、猛烈な吹雪が発生した。
突っ込んできたレッサーデーモン数体が、「ガギョッ!?」と悲鳴を上げる間もなく、空中でカチコチの氷像へと変わっていく。
物理法則を無視した瞬間冷凍。落下した氷像が地面で砕け散る。
「逃げる場所なんてないよ……。闇よ、重力となりて圧し潰せ……『グラビティ・プレス』!」
リリスが可愛らしい杖を掲げると、地上に漆黒の球体が出現した。
そこから発生する超重力の触手数本が、空を飛ぶガーゴイルたちを捕まえていき地面へと叩きつける。
グシャアッ!
トマトが潰れるような音を立てて、数体のガーゴイルがペシャンコになった。
「オオオッ! 邪魔ヲスルナァッ! コレデハ……コレデハ神官様ニ顔向ケデキヌゥゥ!!」
残ったレッサーデーモンとガーゴイルが、ヤケクソになりながら巨大な爪を振りかざし、エリアに向かって強襲してくる。
その必死さは哀れですらあったが、彼女たちに手を出すなら慈悲はない。
「あなたの相手は私です。……邪悪なる者よ、聖なる光に焼かれなさい」
二人の前に静かに歩み出たのは、セレニティだった。
頭上のティアラと、最高級ミスリルの杖が共鳴し、彼女の周囲に黄金の粒子が舞う。
「女神の威光、ここに顕現せよ――『ホーリー・ライト』!」
カッッッ!!!
太陽が地上に降りたかのような、圧倒的な閃光が森全体を包み込んだ。

それは単なる明かりではない。不浄な存在を原子レベルで分解する、絶対浄化の奔流だ。
「ギャアアアアアッ!? 熱イッ! 痛イ、痛イィィ! 体ガ、溶ケテシマウ!」
光を浴びたレッサーデーモンたちの肉体が、早送りの映像のようにしぼんでいく。
皮膚がひび割れ、筋肉が萎縮し、体内の魔力が光によって蒸発させられていく。
数秒後、光が収まった地面に転がっていたのは、数百年も放置されたかのように干からびた、ミイラのような残骸だった。
「……これが、上級神官の力……?」
ミアたちが腰を抜かして震えている。
だが、まだ終わっていない。最後の一体が、這いつくばりながら俺の方へ手を伸ばしてきた。
「ア、アクマ……シンカン、サマ……オ許シ、ヲ……」
「トドメだ! 『次元斬(ディメンション・スラッシュ)』!」
俺は手にした剣を無造作に振るった。
刀身から放たれたのは、空間そのものを断ち切る不可視の斬撃。
干からびたデーモンの身体が、抵抗なく左右に両断され、黒い灰となって風に溶けた。
戦闘終了。
俺は剣を納め、すぐさま灰になったデーモンの跡を見下ろした。
今の奴らは、二度も口にした。『悪魔神官(デーモン・プリースト)』と。
明らかに勝てない勝負だったのに決死の勝負を挑んできていた。もう役目を果たすためだけにここまで着たようにも見えた。
「……悪魔神官そいつが、なにか知っているのは間違いないな」
俺の中で、確信めいたものが走る。
女を執拗に狙う理由。不自然なまでに強力な魔物の徘徊。すべてが一本の線で繋がろうとしていた。
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