誰かが望んだ楽園の迷い人

AI異世界小説家

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第13章:狂気の正義と、壊れた男たちの向かう先

留置所の人たち

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13-3
だが、その空気は、鉄格子の向こうからの声によって凍りついた。
「……おい、そこの兄ちゃん」
 声をかけてきたのは、一番近くの独房にいた男だった。
 彼は元Sランク冒険者で、巨漢の戦士だ。彼は鉄格子を掴み、ギラギラした目でこちらを見ていた。
「なんだ?」
 俺が警戒して答えると、男はニヤリと笑った。
「へへ……その女たちは、男に歯向かわないんだな? ちゃんと男の躾が行き届いてるじゃないか、娼館の女たちか?」
 男の視線が、グレースの太ももや、エリアの胸元をねっとりと舐め回す。
「いいなぁ、羨ましいぜ。娼館の女を連れてる男はたくさんいたからな。なあ、その女を俺に一晩貸してくれよ」
 時が止まった気がした。
 グレースの身体が強張り、リリスが震えだす。
「……どこをどう見たら、娼館の女を連れてたあのぶっとんだ冒険者達と同じに見えるんだ?」
 俺は努めて冷静に聞き返した。男の思考回路を知りたかった。
「どういう意味も何も、女だろ? この際どうでもいい、俺のパーティーにも夜の世話をさせる女たちが2人いたんだ。俺は娼館の女はあまり好きじゃなかったけど、どんな女だって女は共有財産みたいなもんじゃねぇか。もしかして娼館の女達がいなくなったって聞いていたが、あんた一人で三人も囲うなんて何処かにもっと連れて行ったんじゃないのか? 俺たちはここにいきなり入れられたから、ずっと禁欲生活なんだ。どんな女でもこの際我慢するさ、服を脱がせて、こっちによこしてくれよ」
 男はそれが当然の権利であるかのように語り続ける。
「娼館の女なんて履いて捨てるほどいるんだ。ちょっと無茶したって構わないだろ?」
 男は恍惚とした表情で、当然のことのように言う。
 それは、グレースやエリアたちが最も忌み嫌い、トラウマとなっている記憶そのものだった。
「……誰が娼館の女だって? ここの男たちはどこまでおかしいんだ!」
 静かな、しかし絶対零度のような声が響いた。
 エリアだ。
 俺の背中から離れた彼女は、ゆっくりと鉄格子に歩み寄った。
 その青い瞳は、ハイライトが消え失せ、底なしの憎悪に染まっている。
「あ? なんだ姉ちゃん、俺に指名されたのが嬉し……」
「黙れ、汚物が」
 エリアの全身から、凄まじい殺気が噴き出した。
「ひッ!?」
 男が腰を抜かして後ずさる。Sランク冒険者だったはずの男が、ただの殺気だけで怯えている。
「誰が……誰が、お前なんかの慰み者になるものですか。誰が、共有財産ですって?」
 エリアが鉄格子を掴む。ミシミシと、鋼鉄の格子が悲鳴を上げて歪んでいく。
「私たちは、シンジに助けてもらったのよ。心も体も、すべてシンジだけに捧げているの。お前みたいな蛆虫に、指一本触れさせるものですか……!!」
「エ、エリア、落ち着け!」
 俺は慌ててエリアの肩を抱いた。このままでは彼女は格子を引きちぎって、男を惨殺しかねない。
「放してくださいシンジ様! こいつ……こいつだけは、生かしておけません! 私たちの尊厳を、また踏みにじろうと……!」
「落ち着け! 殺したら、俺たちが彼らと同じになってしまう!」
「でもっ……!」
 エリアの目から、悔し涙が溢れ出した。
 グレースとリリスも、震えながら俺に寄り添っている。彼女たちもまた、男の言葉に深く傷つき、同時に激しい怒りを覚えていた。
「……おい、聞いたか今の」
 独房の奥から、別の男の声がした。
「『シンジだけに捧げている』だってよ。……なんだ、結局あの女たちも、あの兄ちゃんの奴隷なんじゃねぇか」
「なんだよ、紛らわしい! 要するにあの兄ちゃんが独り占めしてるだけかよ!」
「おい兄ちゃん! 同じ男なら分け合えよ! 何が起きたのか知らないが女たちが反抗的過ぎる! 俺達が直してやるよ」
 留置所中の男たちが、再び騒ぎ出した。彼らはエリアの言葉を、「何らかの呪いにかかってしまった女たちを真司が独り占めにしている」と都合よく解釈したのだ。彼らの辞書に「自由恋愛」や「女性との対話」という言葉はない。あるのは「所有」のみ。
 まあ自由恋愛をしたこともないのだから、偏った思考になってしまうのかも知れないが……。
 俺はエリアを抱きしめ、男たちを睨み据えた。
「……お前たちには、エリアやグレースを見て俺が娼館から連れてきたと思っているのか?」
 俺の声に男たちは誰も答えなかった。だが、俺は確信した。
 これは教育がされていないのだ。恋愛をこの世界の男たちは知らないのだ、知っているのは所有ということだけだ。
 3000年かけて醸成された、洗脳だ。確か暗黒魔法にマインドコントロール系の魔法があったはずだ。限定的なものじゃない。勇者でさえどうにもできないものなんだ。
 薬で治るような生易しいものではない。彼らの根底にある「恋愛の形」そのものを叩き壊さない限り、この地獄は終わらない。
          ***
 その夜。
 事態は最悪の方向へと転がり始めた。
 王都の郊外、かつては魔物討伐の拠点だった森林地帯に、無数の松明が揺れていた。
 集まっているのは、ギルドを追い出された男たち、留置所から脱走した者、そして近隣の町から流れてきた「女性をもとに戻す」を信奉する男たち。
留置所はもともと女を収監するために作られていたので、たくさんの男の上級冒険者を長い間閉じ込めておくことなどできなかった。上級冒険者のスキルを使えば魔法耐性もないあんな留置所、少し時間をかければすぐに抜け出せた。留置所からの脱走者達は流れ者となりその松明に集まっていった。
 その数、およそ二千五百。
 彼らはボロボロの装備を身に纏いながらも、その瞳には異様な高揚感を宿していた。
 中心に立つのは、元ギルドマスターの男と、Sランク冒険者の隻眼の大男・ガルドだ。
 ギルドマスターは演説をして士気をあげていた。
「同志諸君! 見よ、あの王都の惨状を!」
 彼が指差す先には、魔法の明かりが灯るグランヴェルの街並みが見える。
「女たちが我が物顔で歩き、男の言うことを聞かなくなり、勝手に女たちだけで生活を初めた。城の女たちも半分ほどが本来の役割をやらずに勝手をしてるという。我々の権利を不当に奪っている! ここにSランク冒険者のガルドもいる!」
 隻眼の大男がギルドマスターの横に並ぶと、周りから歓声が上がる。
「そうだ! 言うことを聞かない女を許すな!」
「我々は立ち上がらねばならない! 聖なる戦いだ! 『男権回復軍』の結成だ!」
 オオオオオッ! という野太い歓声が森を震わせる。
「作戦を伝える! 今夜未明、王都へ一斉突撃をかける! 狙うは『治安維持部隊』の詰め所、そして女たちを俺達の力でもとに戻すんだ!」
「勇者が魔王を倒してからおかしくなったんだ、勇者もなにか事情を知ってるはずだ捕まえろ!」
「異世界の勇者にこの世界のほんとうの女の姿を見せれば、洗脳は解けるはずだ!」
「女たちを捕獲せよ! 一人残らず捕らえ、我々のアジトへ連れ帰り、徹底的に教育的指導を行うのだ!!」
 彼らは本気だった。本当に女たちがおかしくなったと思っているのだ。
 魔物を倒すためや町を守るために磨き上げた剣技や魔法を、かつての仲間であった女性たちに向けることに、何のためらいも持っていなかった。
 彼らにとって、女たちは「男の世話を男の望むとおりに何でもする存在」なのだから。
 同時刻。治安維持部隊詰め所。
「……シンジ、大変です」
 偵察に出ていたミアが、顔面蒼白で飛び込んできた。
「森の方から、大勢の男たちが向かってきてる。武装してる……数は二千五百以上!」
「なんだって!?」
 リビングでくつろいでいたグレースたちが飛び起きる。
「魔物じゃないの? 人間なの?」
「うん……元冒険者の連合軍。旗印を掲げてる。『男権回復』って……」
 その言葉に、部屋の空気が重く淀んだ。
 魔物相手なら、何も迷うことはない。だが、相手は人間だ。しかも、狂っているとはいえ、元は同じ街で暮らしていた人々だ。
「シンジ様、どうしますか?」
 リースが俺を見る。聖騎士としての彼女は、民に剣を向けることに葛藤しているようだった。
 だが、俺は決断しなければならない。
「……迎撃するよ。なんだよ二千五百って、もう戦国時代の戦じゃねーか」
 俺は立ち上がった。
「彼らはもう、話し合いでどうにかなる段階を超えている。放っておけば、街の女性たちが襲われ、再びあの地獄のような日々が戻ってくる」
 俺は全員の顔を見渡した。
「制圧を最優先にする。だが、向こうは殺す気で来るだろう。……自分の身を守ることを躊躇うな。彼らは今、魔物よりもたちが悪い『人間の皮を被った獣』だ。まあ攻めてきてる奴らも同じこと思ってるのが皮肉なんだけどな」
「……はい!」
 エリアが剣を抜く。
「行きましょう。私たちの楽園を、二度と汚させはしない」
 リリスが杖を握りしめる。
「守ってみせる。私の、大切な場所を」
 セレニティが祈りを捧げ、クロエが救護班の準備に走る。
 月明かりの下、男たちの軍勢が王都の城壁に迫る。
 対するは、勇者と戦乙女たち率いる治安維持部隊。
 かつて背中を預け合った男女が、互いの存亡と尊厳を懸けて殺し合う、最も醜く、最も悲しい戦争が始まろうとしていた。
「突撃ィィィッ!! 女どもを分からせてやれェェッ!!」
「撃てぇぇぇっ!!」
 男たちの怒号と、ミアの号令による魔法の斉射が交錯する。
 爆発音、悲鳴、そして剣戟の音。
 グランヴェルの夜は、血と狂気に染まろうとしていた。
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