それでも【運び屋】は剣を握る~ハズレ職を手に入れてしまった俺達だけど、努力と絆で最強パーティーへと成り上がる!~

一ノ瀬つむぎ

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第一章 その魔女はコーンスープが苦手

初めての相棒と作者凸

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「おはよう。いるか?」

 一つ深呼吸をしてからドアをノック。そして魔女へと呼びかけると、彼女は玄関に一番近い窓から顔をのぞかせた。

「お、おはよう」
「よし。今日は死なずに挨拶ができたな」

 冗談めかしてそんなことを言うと、彼女はあたふたと申し訳なさそうに慌てだすものだから面白い。

「冗談だからそんなに気にしないで。準備できたら今日も外で訓練しようよ」
「あ、うん。すぐ行く……!」

 バタバタと物音が聞こえてくる魔女の城を離れて、昨日と同じ桟橋で本を広げる。
 ボロボロだし、内容に問題がありそうだしで、魔女狩り日記は部屋に置いてきた。
 しばらくそこで待っていると、支度を終えたであろう魔女がやってくる。
 皴一つない紺のワンピースは、魔女の白髪と綺麗なコントラストを作り出していた。

 直視しにくい可憐さから視線を本に移しつつ、俺は平静を装って今日の予定を伝える。

「今日も制御の練習を行う。頑張りたまえ、魔女さん」

 なんだかんだ素直な彼女のことだから、すぐに頷いて特訓を始めると思ったのだが。

「友達は、名前で呼ぶ……」

 なんてことを言ってくる。

「名前?あぁ、そういえば呼んだことないかも」
 なんなら直接聞いたこともなかったが……。
「ない……。ラトナって、呼んでほしい」

 やや頬を染めながら、魔女……ラトナはそう言った。

 しかし、情けないとは思うのだが、そういわれて名前で呼ぶのはなんとも恥ずかしい。だから照れ隠しの意味も込めて、俺は少し意地悪なことを言ってしまう。

「じゃあ、もう少し制御ができるようになったらな」

 すると彼女は食いついてくる。

「どのくらい??」

 そうだな……。
 俺は両手を最大限広げると、彼女の前に示して見せた。

「このくらいまで水球を縮められたらかな。できるか?」
「……頑張ってみる」

 この程度なら、強い魔導士なら作り出せるレベルだと思っての提案だった。

 そしてすぐさま頭上に規格外の大きさの水球を生み出してからの圧縮作業にかかる。
 だが……。

「昨日より、開始時点の大きさが縮んでるか?」

 いや、これはあれか。太ってる奴ほど痩せやすいみたいなものか。
 一日ちょっとの訓練で魔力を制御できるなら、魔女狩りなんて起こらないもんな……。

 それから何度か水を被りつつ、ゆっくりと時間は流れていく。
 だが、まだまだ魔女を名前で呼ぶことはできなさそうだった。

 ★

 また明日と手を振りあって別れた後、俺は仕事を終わった報告を済ませて武器屋へとやってきていた。
 なにせ今日は給料日だったのだ。
 まだ働いて三日ではあるが、給料日はもれなくやってくる。
 月一回と、週一回、選択式の給料日で週一ペースを選んだのは正解だった。

 運び屋の給料は労力で上下するから、危険な魔女エリアは給料も高い。

 三日とは思えないほどの金額に浮足立った俺は、こうして相棒を探して武器屋へと顔を出したわけだ。

 手にぶら下げた給料。その額7万ミリス。一般的な平民の月給は30万ミリス程度だから、相当割のいい仕事だろう。
 死ぬことを除けば、友人と魔法の勉強をするだけの仕事なのだから。

「いらっしゃい。何をお探しで?」

 しばらく武具を眺めていると、店員と思われる少女がやってきた。
 日に焼けた肌が特徴の、ボーイッシュな少女だった。
 俺は自分が求める物を伝える。

「戦闘職じゃない自分の筋力でも扱えて、決定打を与えられる武器がいいんですが」
「なるほど。予算は?」

 おそらく脳内で武器を選定しているのだろう。明らかに何かを考えるようなポーズを取りつつ、彼女はそう尋ねる。
 食費などにも給料を充てなければならないから、半分は残しておきたいな。

「出せて4万までですね……」
「うーん……。あ、このエストックとかどうです?」

 彼女が持ってきたのは細身のエストック。
 刺突に特化した武器で、青白い刀身は確かに高い貫通力と殺傷能力を秘めていそうだった。

「おいくらですか?」

 安かったら買おうと思って尋ねると驚きの価格が。

「なんと2万5千ミリスとなっております」
「買った!」

 即決だった。
 実際、自分に合う武器を見つけるにもある程度は使い込む必要があるのだから、安く色んな種類の武器を買う必要がある。俺にくよくよ迷っている時間はないのだった。

 鞘と吊り縄も着けてもらって受け取ると、なかなか様になってきた気がした。
 明日から、魔法の特訓をするラトナの隣で俺も訓練に励むとしよう。

 エストック片手にスキップで街を進む俺は、ちょっと不気味だったかもしれない。

 

 宿に戻ってきた俺は、ベッド横の棚にエストックを置いて代わりに本を取る。
 今日もハーブティーを飲みながら読書と行こうじゃないか。

 【魔女狩り日記 七日目】

 ルルが「乗り物を作っちゃえばいいんじゃない?」なんて閃いてくれたものだから、私達の旅は更に楽なものとなっていた。

 原理は知らないが勝手に進んでくれる馬車風の何かに乗って、森の中を走り続けることしばらく、そして平原を進むこと三日。私達は大きな町へとやってきていた。
 どうやら【ラグナット】と言う都市らしい。

「入ってみる?」

 まだエミリス教団の監視下からは離れられてはいないが、ルルが街を見る目があまりにも輝いて見えたものだから、そんな風に声をかけてみた。

「行きたい!」

 予想通りの返事が速攻で帰ってくる。

 魔女狩りは何より優先される行為だというのは分かっていた。だから国を渡るなりしなければルルが追われている現状は変わらない。
 そんな状況で街に入って、魔女だとばれないプランは正直なかった。
 でも、ばれたとしても逃げ出す作戦はあった。

 だから私達は街へと……。

「ハルさん!ハルさんはいらっしゃいますか!?」

 宿の戸の外からそんな声が聞こえてきて本から顔を上げる。どこか聞いたことのある気がする男の声だった。
 本を置いて扉を開ける。
 夜の急な来客だったから、扉を半開きにして、相手の様子を窺うように顔をのぞかせた。

「えっと、図書館の方でしたっけ?」

 そうして見えたのはやや中性的なイケメンの顔。俺の記憶が正しいなら、一緒に本を探してくれた図書館の司書だったはず。だが、家なんてもちろん教えてないし、なんなら名前すら伝えてなかったはず。

「はい、そうです!エクスと申します!……それで、実は急ぎの用事がありまして」
「あ、ハルです。えっと、用事ですか?」
「ええ。ハルさんは【魔女狩り日記】という書物に心当たりはありませんか?」

 とそんなことを言うエクス。
 心当たりというか、借りてるな。
 一度部屋に戻って取ってくると、エクスはすぐさま俺の手からそれを奪い取った。

「これですこれです!すみません、これは本来貸し出し禁止の本だったんです」

 話を聞けば、大事に保管しなければならないこの【魔女狩り日記】が何らかの手違いで一般の本に並んでしまったのだとか。
 しかしながら読みかけていたものだから、続きが気になってしまう。

「えっと、じゃあもう読めないんですか?」

 無理を言っているのは分かっているが、聞くだけ聞いておきたかった。

「申し訳ありませんが、貸し出すことは……」
「そうですか……」

 お互いぺこぺこと頭を下げ合っていると、横合いから今度こそ聞きなれない声が割り込んできた。

「まあ、待ちなさいな」

 声の方を見れば、フードを被った人物が。声の具合からして若い女性だとは思うが……。
 目深にフードを被って顔を隠したまま、彼女は言葉をつづけた。

「その本は貸し出せないけど、それについて話す事はできるわ。どうせくだらない理由で禁書指定されてるだけだしね」
「本当ですか?というか、禁書指定?」

 そう。とフードは頷く。

「宗教事情のうんちゃらってやつよ。まあ、話すなとは言われてないから聞きたいなら好きなだけ語らせてもらうわ」
「なるほど……。その、あなたはこの本に詳しいんですか?」

 こんなことを言うくらいだから、読み切ったことがあるのだろうか。
 しかし、フードの返答は思いもよらぬものだった。

「いやいや、詳しいどころじゃないわよ。それ書いたの、私だからね」

 そう言って、彼女はフードをパサリと外した。

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