1 / 1
豆腐小僧のおつかい
しおりを挟む
「どうしよう、どうしよう」
豆腐小僧がくるくるとたとた、不安そうに回っています。持っているお盆に乗った豆腐も、豆腐小僧と一緒に、不安そうにぷるぷる揺れます。
実は、豆腐小僧の大好きなお父さん、見越入道が病気になってしまったのです。いつも大きくて強いお父さんが、辛そうにゼイゼイげほげほ、それを見た豆腐小僧はお目々がうるうる、豆腐はぷるぷる。
お父さんの看病をしているお母さんのろくろ首が、ながあい首を伸ばして空の月を見上げて言いました。
「ちょうど今日は満月ね、お薬屋さんがやってるわ」
妖怪のお父さんにも効くお薬を売っている、月のうさぎのお薬屋さんは、満月にしか開いていないのです。
「でも困ったわ。お父さんの看病もしなくてはいけないし、看病しているとお買い物に行けないわね」
お母さんは、長い首をくるくるとひねります。それを聞いた豆腐小僧が、ビシッと手を上げて言いました。
「お母さん、おいらが薬屋さんに行って来る」
「え、豆腐小僧一人で? 本当に大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくるお母さんに、豆腐小僧は胸を叩いて答えます。
「大丈夫、任せて!」
お父さんの一大事、豆腐小僧はちょっと恐い気持ちをぎゅっと押し込んで、凛々しいお目々で言います。お盆の豆腐も、心無しか勇ましく揺れました。
豆腐小僧の初めてのおつかいです。行先は野原にある、月のうさぎの薬屋さん。
野原には何回も行ったことがあるので大丈夫だろうと、豆腐小僧は自分を勇気づけて進んで行きますが、一人で行くのは初めてなのです、どうやら道を間違えたらしく、気付いたら海に出ていました。
豆腐小僧は、どうしようどうしようと、周りをキョロキョロ見回します。お盆の豆腐も、不安そうにぷるんぷるん震えます。
豆腐小僧が困っていると、海の沖の方から何かが来ました。アマビエです。
「かわいい坊や、どうしたの?」
「おいら、うさぎの薬屋さんにお使いに行くんだけど、迷っちゃったの。どうしよう、お父さんの薬が買えない……」
豆腐小僧の目に、うるうる涙があふれて来ました。
「あらあら、それは大変。
じゃあ、わたしが案内してあげるわ。だから、泣かないで」
優しく言うアマビエに、豆腐小僧は涙を拭くと、頷きます。お盆の豆腐も、ぷるんと震えました。
豆腐小僧がアマビエのヒレを握ると、薬屋さんへの道を、アマビエと一緒に歩きます。一人じゃなくなって、豆腐小僧はだんだん元気が出てきました。
アマビエの案内で、無事に野原に着きました。満月の下に、お薬屋さんが見えてきました。
「着いたっ!」
豆腐小僧は嬉しそうです。お盆の豆腐も元気にぷるぷる跳ねました。
「こんばんは!」
勢いよく店に入った豆腐小僧を、うさぎが迎えます。
「こんばんは。どんなお薬をお求めですか?」
「おいらのお父さんが、ゼイゼイげほげほって病気になっちゃったの。だから治すお薬をください」
「まあまあ、それは大変です。すぐお薬を作るので、少し待っていて欲しいのです」
そういうと、うさぎは薬を作り始めました。
しばらくして戻って来ると、お薬を渡してくれました。
「お待たせしました。さあ、このお薬を飲んでゆっくり休めば、きっと元気になりますよ」
薬を受け取った豆腐小僧は、うさぎにお辞儀をして、「ありがとうございます」とお礼を言いました。お盆の豆腐も一緒にぺこりとお辞儀します。そして、案内してくれたアマビエにもぺこり。
「ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました」
そんな豆腐小僧にアマビエが言います。
「どういたしまして。
ねえ、わたしもお家について行って、お父さんのお見舞いをしてもいいかしら?」
豆腐小僧は嬉しくなりました。
「うん、きっとお父さんも喜ぶよ!」
豆腐小僧とアマビエは、うさぎにあいさつをして、アマビエが薬を、豆腐小僧は豆腐の乗ったお盆を持って、ヒレと手を繋いで、お家に帰って行きます。
うさぎと満月が、その背中を見送りました。
豆腐小僧がくるくるとたとた、不安そうに回っています。持っているお盆に乗った豆腐も、豆腐小僧と一緒に、不安そうにぷるぷる揺れます。
実は、豆腐小僧の大好きなお父さん、見越入道が病気になってしまったのです。いつも大きくて強いお父さんが、辛そうにゼイゼイげほげほ、それを見た豆腐小僧はお目々がうるうる、豆腐はぷるぷる。
お父さんの看病をしているお母さんのろくろ首が、ながあい首を伸ばして空の月を見上げて言いました。
「ちょうど今日は満月ね、お薬屋さんがやってるわ」
妖怪のお父さんにも効くお薬を売っている、月のうさぎのお薬屋さんは、満月にしか開いていないのです。
「でも困ったわ。お父さんの看病もしなくてはいけないし、看病しているとお買い物に行けないわね」
お母さんは、長い首をくるくるとひねります。それを聞いた豆腐小僧が、ビシッと手を上げて言いました。
「お母さん、おいらが薬屋さんに行って来る」
「え、豆腐小僧一人で? 本当に大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくるお母さんに、豆腐小僧は胸を叩いて答えます。
「大丈夫、任せて!」
お父さんの一大事、豆腐小僧はちょっと恐い気持ちをぎゅっと押し込んで、凛々しいお目々で言います。お盆の豆腐も、心無しか勇ましく揺れました。
豆腐小僧の初めてのおつかいです。行先は野原にある、月のうさぎの薬屋さん。
野原には何回も行ったことがあるので大丈夫だろうと、豆腐小僧は自分を勇気づけて進んで行きますが、一人で行くのは初めてなのです、どうやら道を間違えたらしく、気付いたら海に出ていました。
豆腐小僧は、どうしようどうしようと、周りをキョロキョロ見回します。お盆の豆腐も、不安そうにぷるんぷるん震えます。
豆腐小僧が困っていると、海の沖の方から何かが来ました。アマビエです。
「かわいい坊や、どうしたの?」
「おいら、うさぎの薬屋さんにお使いに行くんだけど、迷っちゃったの。どうしよう、お父さんの薬が買えない……」
豆腐小僧の目に、うるうる涙があふれて来ました。
「あらあら、それは大変。
じゃあ、わたしが案内してあげるわ。だから、泣かないで」
優しく言うアマビエに、豆腐小僧は涙を拭くと、頷きます。お盆の豆腐も、ぷるんと震えました。
豆腐小僧がアマビエのヒレを握ると、薬屋さんへの道を、アマビエと一緒に歩きます。一人じゃなくなって、豆腐小僧はだんだん元気が出てきました。
アマビエの案内で、無事に野原に着きました。満月の下に、お薬屋さんが見えてきました。
「着いたっ!」
豆腐小僧は嬉しそうです。お盆の豆腐も元気にぷるぷる跳ねました。
「こんばんは!」
勢いよく店に入った豆腐小僧を、うさぎが迎えます。
「こんばんは。どんなお薬をお求めですか?」
「おいらのお父さんが、ゼイゼイげほげほって病気になっちゃったの。だから治すお薬をください」
「まあまあ、それは大変です。すぐお薬を作るので、少し待っていて欲しいのです」
そういうと、うさぎは薬を作り始めました。
しばらくして戻って来ると、お薬を渡してくれました。
「お待たせしました。さあ、このお薬を飲んでゆっくり休めば、きっと元気になりますよ」
薬を受け取った豆腐小僧は、うさぎにお辞儀をして、「ありがとうございます」とお礼を言いました。お盆の豆腐も一緒にぺこりとお辞儀します。そして、案内してくれたアマビエにもぺこり。
「ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました」
そんな豆腐小僧にアマビエが言います。
「どういたしまして。
ねえ、わたしもお家について行って、お父さんのお見舞いをしてもいいかしら?」
豆腐小僧は嬉しくなりました。
「うん、きっとお父さんも喜ぶよ!」
豆腐小僧とアマビエは、うさぎにあいさつをして、アマビエが薬を、豆腐小僧は豆腐の乗ったお盆を持って、ヒレと手を繋いで、お家に帰って行きます。
うさぎと満月が、その背中を見送りました。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる