1 / 10

何もできない無能の宮廷召喚士として追放される

しおりを挟む
「貴様のような何もできない無能はクビだ!」

「えっ!?」

 俺の名はランス。ランス・テスタロッサ。

召喚士学院を卒業した後、宮廷召喚士になった召喚士である。

目の前にいるのは俺が仕えている王国リンカーンの王子。名をニグレドという。

「貴様は我と地下迷宮の攻略に出向いた際に、何もしなかったではないか!」

 それは地下迷宮(ダンジョン)攻略が終わり、王国まで戻ってきた時の事だった。

 王子はそう主張してきた。

確かに俺は王国リンカーンにある地下迷宮(ダンジョン)に王子と共に出向いた。

だが、俺は何もしていなかったのではない。

王子達に対して普段使わない支援魔法を使い、影ながら役に立っていたのだ。

 目に見えた攻撃行動をとらなかったのには理由がある。

「お待ちください! 王子! 私は何もしていなかったわけではありません! 王子達の為に支援魔法で影ながら支援を……」

「見苦しい言い訳だ! 貴様は召喚士だろう! なぜ召喚魔法を使って攻撃しなかった!」

 それには理由があった。

俺の召喚魔法ではモンスターは一撃で死んでしまう。

そうなると王子及び他のパーティーメンバーにレベルUPの為の経験値が入らなくなってしまうのだ。

それ故に召喚魔法を控えていたのだ。

だが王子はそれを何もできない無能だと判断したのであった。

「正直に申せ、実は貴様は召喚士などではなく、詐称で宮廷に入ってきたのだろう! 本当は召喚魔法など使えない何もできないただの無能なのだ!」
 
 違うといってどうなる。王子はもはや考えを決め切っていた。ここから考えを覆すのは至難の技であった。

「もうよい! 貴様のような無能の顔は見たくない! 即刻我の前から消えよ!」
  
 王子はそう俺に宣告してくる。

 こうして俺――ランスは問答無用で王国リンカーンを追放処分になったのである。

 王国を追放処分になり俺は途方に暮れていた。行く当てもなく彷徨う。

「これからどうするんだ、俺は……今まで宮廷召喚士として王国の役に立ってきたのに。こんなのはあんまりだ」

 嘆いてもどうしようもなかった。不条理な理由とはいえ、宮廷を追放されてもこれからも人生は続いていくのだ。

そんな時の事であった。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 
 少女の悲鳴が聞こえてきた。

「なんだ?」
「だ、誰か! 助けて! 助けてください!」

 ともかく俺は悲鳴が聞こえてきたところへと向かう。

 道端で少女が襲われていた。
襲われていたのは狼型のモンスター、ワイルドウルフだ。

それも数十匹。厳冬で餌がなかったからか、人里まで降りてきたのであろう。

 ワイルドウルフは少女に今すぐにでも襲い掛かろうとしていた。こんなところ、見捨てられるはずもない。

「出でよ !召喚獣! イフリート!」

 俺はイフリートを召喚した。

出てきたのは真っ赤に身体が燃えた、美少女である。

こいつが俺の召喚獣炎を操る召喚獣イフリートだ。全身が真っ赤に燃えている事を除けば、ただの美少女にしか見えない。

「ご主人様、どういたしました?」

 イフリートはかしずく。

「あそこにワイルドウルフに襲われている女の子がいる! お前の力で助けてやってくれ!」
「了解しました! ご主人様! ご主人様のお役に立てる事、忠実なる僕として幸せに思います!」

 イフリートは構える。

「獄炎(ヘルフレア)!」
 
 ものすごい火柱が立ち、ワイルドウルフを焼き払った。

「「「キャウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンン!」」」

 まるで可愛らしい犬のように、悲鳴をあげてワイルドウルフたちは果てた。

「す、すごい威力です! こんなもの凄い炎他に見た事がありません!」

 少女は目を丸くしていた驚いた様子だった。

「怪我はありませんでしたか?」
 
 俺は彼女に駆け寄る。

改めてみるとすごい美少女だった。

流れるような金髪に青い瞳をした少女。

どことなく気品があり、育ちの良さが窺えた。

彼女が持っているのは召喚士用のスタッツだ。ローブを着ている事から彼女もまた召喚士である事が窺えた。

「は、はい。おかげ様で大丈夫です。無傷でした。ですがあなたが助けに入ってくれなかったら、私の命はなかったかもしれません」

「そうですか。それは良かったです」

 俺は胸を撫でおろす。

「よろしければお名前を教えては頂けないでしょうか?」

「俺の名はランス・テスタロッサです」

「ランス様というのですか。私の名はサラ。サラ・ユグドレシアと申します」

 こうして俺はサラと出会った。

この出会いが俺の運命を大きく変えていく事になるとはその時思ってもいなかったのである。




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...