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バハムートを召喚し災厄の竜を瞬殺する

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「サモン・バハムート」

 俺は召喚魔法を発動する。魔法陣が描かれ、一人の少女が現れる。黒髪の少女だ。全身黒塗りで露出度の高い恰好をしている。
 彼女は召喚されるなりに俺に抱きついてきた。

「ご主人様! お久しぶりですっ!」

「ああ……久しいな。バハ子」

「ご主人様! ……なんなんですか? そこの女は。ご主人様の新しい女ですか?」

 バハ子の指している『そこの女』とは当然のようにサラを指す。

「ち、違います! わ、私はランス先生の弟子であり、特別そういう関係ではありません」

 サラは否定する。

「そういう事だ」

「なんだ。だったらいいんですが。だってご主人様はバハ子だけのものですから」

 バハ子は俺をねっとりと見つめてくる。召喚獣に好かれるのは好ましい事ではあるが、バハ子の愛情表現は少し過激だった。唇が触れそうな程に顔を近づけてくる。

「それでご主人様!? 一体バハ子に何のご用件ですか!?」

「ああ。災厄の竜、事ポイズンドラゴンが現れたんだ。倒してくれ」

「了解です。ご主人様のお役に立てる事、誠に光栄に思いますです。それではバハ子の活躍、ご覧くださいませっ」

 バハ子はそう言って、遠方を闊歩しているポイズンドラゴンを見据える。

「竜化(ドラゴンモード)」

 バハ子は竜化する。一瞬のうちに黒い巨大な竜が姿を表す。この巨大な黒竜がバハ子の本来の姿であるバハムートである。

「それじゃ、ご主人様、行ってきますです」

「行ってこい」

「はいです」

 バハムートは飛び立つ。ポイズンドラゴンの様子が変わった。

 ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 巨大な力の出現に対して警戒度が上がったのか。咆哮が響き渡る。

「光栄に思うが良いです。同じ竜種として、このバハムートと闘えるという事を」

 天空からバハムートはポイズンドラゴンを見下ろす。ポイズンドラゴンは翼をたなびかせた。そして飛び立つ。

 空中で行われるのは激しいドッグファイトだ。爪がぶつかり合い、牙による攻撃がその鋼鉄のような皮膚を突き破り、肉を食いちぎる。
 
 恐らくは相手が同じ竜種であるポイズンドラゴンでもなければ一瞬で勝敗は決していた事であろう。

 ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

 という激しい音がする。ポイズンドラゴンが空中での競り合いに負け、地表に叩きつけられたのだ。
 無理もない。例えポイズンドラゴンが相手だとしても、相手は竜種でも最強と勝され、竜の中の王とも言われるあのバハムートなのだ。

「終わりです。塵に返りなさい」

 バハムートの口に闇の光が集まっていく。

「バースト・フレア!」

 放たれた闇の光は凄まじいエネルギー量を持って地表に降り立った。その威力は全てを灰燼とかしてしまう程。

 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 ポイズンドラゴンが断末魔をあげた。しばらく時間が経った時、ポイズンドラゴンは塵になっていたのだ。

 地表に出来ていたのはただのクレーターであった。

 地表に降り立ったバハムートは人の形、元のバハ子に戻り俺に抱きついてくる。

「ご主人様、終わりましたです」

「……ありがとう。バハ子」

 俺はバハ子の頭を撫でた。

「ご主人様の為ですから。お安いご用です。もうご用件は終わりですか?」

「ああ。今日のところはもういいよ。また頼むな、バハ子」

「はいです。いつでもお呼びくださいです。バハ子はご主人様を愛して止まない忠実な召喚獣ですから」

 そう言ってバハ子は元いた虚無空間へと還っていく。

「すごいです! ランス先生! なんて強力な召喚獣でしょうか! あの災厄の竜を一瞬で倒してしまうなんて! すごすぎます!」

「大袈裟だよ。すぐにサラもこれくらい出来るようになる」

「とてもそうは思えません……」

 サラは苦笑いをしていた。

「それじゃあ、リノンに戻るか。明日からは召喚魔法を教えるとしよう」

「はい! よろしくお願いします! ランス先生!」


  ◆

「……なんだったんだ、あれは」

 王子ニグレドは遠くからその様子を見ていた。地上を我が物のように歩き回っていたあの災厄の竜に対して、突如として現れた黒竜は一瞬にして災厄の竜を倒していった。

 あまりに一瞬にして倒していった為、幻か何かを見ていたのではないかと思った。

 だが、地表に出来た巨大なクレーターは間違いなくその黒竜が現実として存在していた事を示していた。

「なんだったんですか!? 王子! あの黒竜は!」

「わからん……全く理解が追いつかない。ただひとつだけ言えるのは世界は広いという事だ。宮廷に閉じこもっているだけでは理解できない事が世界のそこら中にあるのだろう」

「はぁ……世界は広いですね」

「全くだ……とにかくあの黒竜には感謝しなければならないだろう。我々の命も救われ、そして国の滅びを救ったのだ」

 ニグレドはそうあの黒竜に感謝していた。だがこの時まだニグレドはあの黒竜バハムートを召喚したのが、追放された召喚士ランスだという事を知らなかったのである。
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