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風呂場での出来事
しおりを挟むミトラが不死城に住む事になった。不死城が少し賑やかになった。
主に不死城では四人が暮らす事になる。俺とエリザ、それからアルカ、そしてミトラだ。
「……はじめまして。アルカちゃん。私はミトラ。ジルの恋人よ」
ミトラは笑顔で言う。
「はじめまして。アルカです。恋人?」
「こらこら。平然とアルカに嘘を吹き込むな!」
「恋人ではなかったわね! そう私達は夫婦! 永遠に別れる事のない神に祝福された番なのよ!」
「あー……聞いてない」
「アルカちゃんはダンピールだったわね」
「うん。アルカ、ダンピール」
「そう。苦労をしたでしょうね。可哀想に。お姉さんがあなたの痛みを癒してあげるわ! 人も魔族も誰でも、生まれてくる時の種族なんて選べないもの! ああ! 神よ! なぜ神はこの娘にこうまで試練を与えるのであろうか!」
「うん。苦労は確かにした。けど今は平気」
「そうなの?」
「だってジルがアルカでも普通に暮らせる国を創ってくれるって言ってるから」
「ああ。そうだ。俺がアルカを幸せにする」
「うん。ジル、幸せにして」
「ジル、そのセリフは浮気じゃないかしら? プロポーズのセリフ?」
ミトラは怒っていた。
「なぜそうなる。ってか浮気っておかしいだろ」
俺とミトラは付き合っていない。幼馴染だ。こいつの脳内では付き合ってるのか俺達。
「そういえばエリザちゃんは何をしているの?」
「エリザなら料理をしているよ」
「はっ! 料理! ジルに食べさせる料理! だめよ! それは妻である私の役目なんだからっ! 厨房はどこっ!?」
「あっち!」
アルカは指を指す。
「私も行くわ! 妻としてジルに手料理を食べさせるのよ!」
ミトラは厨房へと向かった。
「あーあ」
心配なので俺達も厨房へと向かった。
エリザは料理をしていた。
「エリザちゃん」
「なんですか?」
「私も料理手伝わせてよ」
「大丈夫です。一人で出来ますので」
「そんな事言わないで。私も力になりたいの。ジルに手料理を食べさせたいのよ」
「自己満足ではありませんか」
「いいから!」
「きゃっ!」
エリザは誤って包丁で手を斬った。血が流れる。
「あつ! ごめんなさいっ! 偉大なる神よ! この娘を癒したまえ! 回復魔法(ヒール)!」
「いやああああああああああああああああああああああああああ!」
エリザは悲鳴をあげた。
「熱い! 体が熱いです! 痛いです!」
エリザは転げまわる。
「あらっ。私なんかやっちゃった?」
「くそっ! この馬鹿!」
俺はエリザを抱き起す。
「エリザはアンデッドだ。アンデッドには生者が効くヒールでも逆効果になるんだよ! 死霊術(ネクロマンス)! アンデッドヒール」
俺はアンデッドヒールでエリザを癒した。
「ありがとうございます。ジル様」
「お前は俺の大事な娘だ。それに幼馴染の不始末だ。俺が治すのは当然の事だろ」
「なっ! なによ! 私はジルに良かれと思ってやったのに!」
ミトラは怒った。その後四人で慌ただしい晩飯の時間を過ごす事となる。
それからの事だった。俺達は浴室へ向かう。隣にはエリザとアルカがいた。
「どこ行くの?」
「風呂だが」
「なーんだ。お風呂か……」
ミトラはしばらく頭を悩ませた。一瞬固まっていた。
「エリザちゃんとアルカちゃんとお風呂に入るの?」
「ああ……家族なら当然だろ」
「か、家族なら当然! だったら私も入る!」
「いやお前は幼馴染であって家族じゃないし」
「何を言っているの! 私達は幼馴染であり夫婦! 夫婦なんだから入浴を共にするのも当然よ!」
こうしてミトラは入浴に乱入してきた。
「大きいお風呂ね」
大浴場に入ったミトラはそう感想を漏らした。
「ああ……」
俺は答える。
「ジルも大きくなったわね。立派になっちゃって。昔一緒に入った時はこんなに小さかったのに」
ミトラは俺の下半身をマジマジと見て言う。
「すっかりと大人になっちゃって」
「あ、あんまり見るな! 恥ずかしいだろ!」
「なんで? 昔はよく一緒に入ってたじゃない」
「それは……けど、六歳くらいの頃だろ。お前だって胸なんてぺたんこだったし」
「ん?」
俺は目を逸らしていた。
「どうしたの? ジル?」
見れるわけがなかった。今のミトラは成人女性の体をしているのだ。18歳になっているのだから当然だ。いくら俺でも正気を保てる自信はない。
「もしかして、私の裸みるとおちんちん大きくなっちゃうから我慢してるの?」
「う、うるさい! そうだよ! 悪いかよ! つーか当たり前だろうが! 俺達はもう立派な大人なんだぞっ!」
「ちゃんと見てよジル、私の体」
「うっ」
ミトラは俺の顔を強引に向かせた。目にたわわな乳房が飛び込んでくる。
「胸だって昔よりずっと大きくなったんだよ。それに私、綺麗になったでしょ?」
「自分で言うな。まあ、否定はしないが」
「ジルに好きになって貰えるように頑張ったんだよ。修道学院に通っていた3年間、ジルに会いたかったのにずっと我慢してた。本当はジルにすごい会いたかったんだよ」
「……そうか。それはありがとうな」
「うん。ジルも私に会いたかった」
「勿論、俺も会いたかった」
この流れでお前の事なんか忘れてたとは言えまい。
「……ジル」
「ミトラ」
全裸で見つめあう俺達。おかしな雰囲気だった。ミトラは目を閉じる。ミトラの唇が近づいてくる。
「こほん!」
エリザは咳払いをした。
「よろしいでしょうか、お二人方。私達もいるのですよ」
「アルカもいる。けど続けて良い。別に気にしない」
「ああ。すまない。娘のお前たちがいる前でこんなところ見せられないな」
「……そうそう。ごめんね。子供にはよくないシーン見せるところだった」
「子供ですか……私は」
面白くなさそうにエリザは浴槽に顔を埋めた。
こうして俺達の入浴時間は過ぎていく。しかし俺は甘かった。ミトラの行動がこれで終わると思っていたのだが、当然のように終わるわけがなかったのだ。
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