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しおりを挟む触れたら、壊れてしまうと思った。
僕なんかが触れてしまったら、その綺麗な透明色が、濁ってしまうと思った。
「す、好きだ、倉本」
僕の淡い恋心は、雨とともに消えてなくなっていった。
四月、新学期。僕は、高校三年生になった。
今まで目立つことなく、平和に過ごしてきた。二年間、奇跡的に同じクラスで、こんな僕と楽しく話してくれる友達の佐藤と波のない、穏やかな日々を過ごしてきた。そして、今、三年生。今年もまた、同じクラスになれるのではないかと期待していた。
でも、神様はやっぱり優しくなかった。油断した僕を嘲笑うかのように、ひとつ番号の離れたクラスにされてしまった。あぁ、どうしよう。朝のホームルームまでの時間も、授業中のやり取りも、昼休みも、もう佐藤とは過ごせないのだ。
佐藤はひどく残念そうにしていた。でも正直なところ、嬉しかっただろう。こんな僕と一緒に過ごさなければいけないという呪縛から解き放たれる。誰にでも優しい彼なら、新しいクラスで僕よりずっと面白い友達ができて、最後の一年を存分に味わうのだろう。
僕は、また一からだ。いや、もう一からなんていらない。一人の方が、ずっと楽なのかもしれない。
今朝、二年ぶりに一人で登校した。その時だって、大好きなアニメの主題歌を聴いて、比較的楽しい通学時間だった。僕には、一人がお似合いなんだ、きっと。
「ホームルーム始めるぞー」
あぁ、本当に、勘弁してくれ。
教壇に現れたガタイのいいその人は、ザ・体育会系の原田先生だ。僕はこの先生が苦手だ。
「三年二組の担任になった原田だ。お前ら、最後の一年なんだからな。クラス一丸となって、なんでも積極的に挑戦しろな!」
こういうところが、苦手だ。クラス一丸なんて、できるわけがない。僕がいるんだから。僕がいる、それだけでクラスのピラミッドは崩れていく。僕にはこのクラスの一軍のみんなを支えられるほどの強さはない。
最悪な一年の開幕となってしまうようだ。
「じゃあまず、自己紹介から始めるか」
僕が一番嫌いなセリフかもしれない。自己紹介なんて、しなくていい。僕を知りたい人なんかいないのだから。とはいっても、着々とそれは進み、ついに僕の番となってしまった。
「次、あーっと、木田」
「は、はいっ、き、木田悠人です。一年間よろしくお願いします。」
大量の視線を向けられている感じに胸がザワついている。
「おい木田、趣味はねーの?趣味は。みんな言ってただろ」
原田先生は鼻で笑うように言う。
「しゅ、趣味は、あ……ありません」
「趣味ねーって、つまんねーな」
教室が嫌な賑やかさになっているのを感じた。先生を中心として一軍が笑っている声が聞こえる。
「木田くん、ノリ悪ー」
「ねー、リュックにつけてるそれは?なんかのキャラっしょ?趣味じゃないんだ」
女子が僕の方を向いて指をさしている。最悪だ。こんな僕がアニオタだと公言したら笑われると思って隠したつもりなのに、通学用のリュックに推しの缶バッチをつけているのを忘れていた。もう消えてしまいたい。一発目から最悪な出だしだ。
軽くパニックになってしまった僕は何も言えずにそのまま座ってしまった。嫌な視線と言葉が刺さってくる。死んでしまいたい。僕をいなかったことにして進んでいってほしい。
「……あー、じゃあ次行くか。倉本!」
僕の後ろでイスを引いている音がする。
「倉本蓮、よろしくお願いしまーす」
彼はそう言うとすぐにイスに座った。
「おーい、倉本。お前も趣味ねーのかよ」
原田先生はまたかといったような感じで笑った。
「あー、趣味、ない」
「ねぇ待って、倉本おもしろすぎ」
「木田くんの真似?センスある」
また一軍のみんなが笑い始めた。僕は心が苦しくなった。こんな風にネタにされて、馬鹿にされて。息ができそうにないほど、苦しくなった。
「別になんもおもしろくねーだろ、まじで趣味ねんだわ。てか、趣味があったとしても言いたくねーなら言わんでいいだろ」
クラスの空気が少し固まった。女子が「え?」とその嫌な笑顔のまま倉本に聞き返す。
「木田の気持ち考えろや、まじでつまんねぇ」
僕は咄嗟に振り返ってしまった。瞬間、倉本と目が合った。
「何?」
倉本の目は思っていたより冷たかった。僕は怯んで、「いや……」とだけ言い残し元の位置に戻ってしまった。
倉本は今、僕を助けてくれたのだろうか。なんで……。
「ねぇー、倉本ってめっちゃ優しいんだね、木田のことまで気にしてあげるとか」
女子が言う。倉本はため息をついた。僕は、さらにテンパってしまい、頭が真っ白になっていた。
「じゃあ、ホームルームは以上。次、教科書取りに行くから音楽室となりの空き教室まで行けなー」
チャイムと同時に原田先生が言う。クラスのみんなが倉本の元に集まっていた。
「倉本、うちの名前覚えた?」
「あ?聞いてない」
「ノリ悪ー、てかめっちゃイケメンじゃん!」
「だるいわ」
倉本は冷たかった。このクラスに馴染む努力すらしないのだ。
すると倉本は急に立ち出した。
「え、どこ行くの?」
「教科書」
それだけ言って彼は廊下に出ていってしまった。僕はそれでハッとして、彼の後ろ姿を追いかけるようにして廊下に出ていった。
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