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矢田健司② 山吹と僕と天音さんと……
第2話ひねくれ者捜索
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思い立ったのはいいが、そう簡単に見つかるわけがないのだ。
天音さんに連絡すればいいと思うだろう?なんなら山吹に連絡すればいいと思うだろう?しかし残念ながらこの二人の連絡先は持っていない。
何故か?天音さんには聞きにくかったから。
山吹は……わかるだろう?
天音さんと山吹が佐間荘で話しているなんて事はないとは思うが、念の為に奴の家へと行ってみることにした。まあおそらく居ないのだろうがな……。
佐間荘208号室に到着し、ドアをノックしてみたがやはり反応がない。
階段を降りて駐輪場を確認すると、奴の乗っているオンボロ自転車がない。
徒歩ではなく自転車を使ったという事はそれなりに遠い場所という事だ。
天音さんと一緒なのだからカフェというのも考えたが、あの男に限ってはそんなわけが無い。
少し考えて、一つだけ心当たりを見つけ出した。歩いて行くには遠く、目的地は最寄りのバス停からは多少離れている。その為に、自転車で行った方がバスより少しだけ早く着く。
佐間荘最寄りのバス停を確認すると次のバスは1時間後である。これなら歩いて行った方が速い。
佐間荘から40分歩いたところ。少し小高い丘の上に鈴白公園というこの町で一番大きな公園がある。
その公園の園内には展望塔があるのだが、なぜか殆ど人が出入りしない。そのためこのひねくれ者はよくこの場所でひねくれたことを考えているのだ。
ここまで来るのでへとへとだ。展望スペースまではエレベーターで上がる事ができるから助かる。
展望スペースからは街並みが一望でき、双眼鏡が各方角に設置されている。
エレベーターホールから右に回ってみると山吹を見つけた。
どうやら天音さんと話し込んでいるようだ。
「やはりここだったか。ハズレなくて助かった」
「あれ?矢田さんじゃないですか?随分とお疲れですね」
「ほう?君自ら私を訪ねてくるとはな。珍しいことがあるではないか」
僕が話しかけると二人とも僕に気づいて声をかける。
確かに僕から山吹を訪ねることは今までなかったからこういう反応をされても仕方がない。
「はぁ、本当なら会いたくもないのだが、今回は用がある」
「ほう?なんだね?言ってみたまえ」
「今度SF小説を書く。その為のネタをよこしてほしい」
「ほう、それで汗水垂らして私の元まで歩いて来たという訳だな?…….いいだろう!任せてくれたまえ矢田氏よ!今日は君に私の素晴らしい話を存分に聞かせてやろう!」
山吹は急に元気になって僕の背中をバンバンと叩いた。僕が話をちゃんと聞くというのが嬉しいらしい。
「やっと矢田さんも山吹さんの話をちゃんと聞く気になったんですね?」
天音さんも天音さんで満面の笑みで僕の背中を叩いてくる。
なんだ?この二人の間に何があったというのだ?
「不本意でしかない!って、痛い!痛いわ!」
腕を振って二人を振り払い距離をとった。
もうこの二人が怖くて仕方がない!
「そう意固地になるなよ君!さあ!そうとなれば我が家に戻ろうではないか!あまりに白熱しすぎてここでは迷惑になりかねないからな!」
「ここで良いだろう!僕は歩き通しで疲れている」
「おいおい、理由はそれだけでは無いぞ。ここには閉まる時間というのがある。18時を回れば誰も入れないのだ」
「なぜそんなに閉まるのが早い?」
「経費削減が理由だそうですよ。予定していたより人が来ないので費用対効果が薄いというか、ほぼ無いそうです」
「つまり、この塔自体が負の遺産という訳かい?天音さん」
「バブル絶頂期に建てたみたいですからね。その時は人もよく訪れたそうですが、まあ、飽きられますよね。別に展望塔からでなくても景色綺麗に見えますから。あとは、心霊スポットにされてしまったというのも理由だとか聞きましたよ」
「成程、世知辛い話だ」
「うむ、そうであるな。そういう訳だ矢田氏よ。我が部屋に移動するぞ」
無理矢理話を切り上げさせて山吹は僕の腕を掴み、エレベーターホールまで引っ張る。この男、意外と力がある。
エレベーターで下まで降りると、山吹は自転車に跨り、先に戻って行った。
天音さん曰く、最寄りの停留所にあと5分でバスが来ると言う。
バス停まで早足で向かわなければ間に合わない。既にパンパンの足には厳しい話だが、これに乗り過ごすと次は1時間後だ。
天音さんの後を追いかけて、なんとかバスに乗り込むことに成功する。限界のぼくは乗車口側の椅子に座り込む。
天音さんは僕の横に座り、手帳を広げた。書き記されているのは小説のネタやプロットだろう。随分とびっしり書かれている。
真剣な表情の彼女に声をかけるのは憚られる。僕はただバスに揺られ、足の疲労を取る事に専念する事にした。
天音さんに連絡すればいいと思うだろう?なんなら山吹に連絡すればいいと思うだろう?しかし残念ながらこの二人の連絡先は持っていない。
何故か?天音さんには聞きにくかったから。
山吹は……わかるだろう?
天音さんと山吹が佐間荘で話しているなんて事はないとは思うが、念の為に奴の家へと行ってみることにした。まあおそらく居ないのだろうがな……。
佐間荘208号室に到着し、ドアをノックしてみたがやはり反応がない。
階段を降りて駐輪場を確認すると、奴の乗っているオンボロ自転車がない。
徒歩ではなく自転車を使ったという事はそれなりに遠い場所という事だ。
天音さんと一緒なのだからカフェというのも考えたが、あの男に限ってはそんなわけが無い。
少し考えて、一つだけ心当たりを見つけ出した。歩いて行くには遠く、目的地は最寄りのバス停からは多少離れている。その為に、自転車で行った方がバスより少しだけ早く着く。
佐間荘最寄りのバス停を確認すると次のバスは1時間後である。これなら歩いて行った方が速い。
佐間荘から40分歩いたところ。少し小高い丘の上に鈴白公園というこの町で一番大きな公園がある。
その公園の園内には展望塔があるのだが、なぜか殆ど人が出入りしない。そのためこのひねくれ者はよくこの場所でひねくれたことを考えているのだ。
ここまで来るのでへとへとだ。展望スペースまではエレベーターで上がる事ができるから助かる。
展望スペースからは街並みが一望でき、双眼鏡が各方角に設置されている。
エレベーターホールから右に回ってみると山吹を見つけた。
どうやら天音さんと話し込んでいるようだ。
「やはりここだったか。ハズレなくて助かった」
「あれ?矢田さんじゃないですか?随分とお疲れですね」
「ほう?君自ら私を訪ねてくるとはな。珍しいことがあるではないか」
僕が話しかけると二人とも僕に気づいて声をかける。
確かに僕から山吹を訪ねることは今までなかったからこういう反応をされても仕方がない。
「はぁ、本当なら会いたくもないのだが、今回は用がある」
「ほう?なんだね?言ってみたまえ」
「今度SF小説を書く。その為のネタをよこしてほしい」
「ほう、それで汗水垂らして私の元まで歩いて来たという訳だな?…….いいだろう!任せてくれたまえ矢田氏よ!今日は君に私の素晴らしい話を存分に聞かせてやろう!」
山吹は急に元気になって僕の背中をバンバンと叩いた。僕が話をちゃんと聞くというのが嬉しいらしい。
「やっと矢田さんも山吹さんの話をちゃんと聞く気になったんですね?」
天音さんも天音さんで満面の笑みで僕の背中を叩いてくる。
なんだ?この二人の間に何があったというのだ?
「不本意でしかない!って、痛い!痛いわ!」
腕を振って二人を振り払い距離をとった。
もうこの二人が怖くて仕方がない!
「そう意固地になるなよ君!さあ!そうとなれば我が家に戻ろうではないか!あまりに白熱しすぎてここでは迷惑になりかねないからな!」
「ここで良いだろう!僕は歩き通しで疲れている」
「おいおい、理由はそれだけでは無いぞ。ここには閉まる時間というのがある。18時を回れば誰も入れないのだ」
「なぜそんなに閉まるのが早い?」
「経費削減が理由だそうですよ。予定していたより人が来ないので費用対効果が薄いというか、ほぼ無いそうです」
「つまり、この塔自体が負の遺産という訳かい?天音さん」
「バブル絶頂期に建てたみたいですからね。その時は人もよく訪れたそうですが、まあ、飽きられますよね。別に展望塔からでなくても景色綺麗に見えますから。あとは、心霊スポットにされてしまったというのも理由だとか聞きましたよ」
「成程、世知辛い話だ」
「うむ、そうであるな。そういう訳だ矢田氏よ。我が部屋に移動するぞ」
無理矢理話を切り上げさせて山吹は僕の腕を掴み、エレベーターホールまで引っ張る。この男、意外と力がある。
エレベーターで下まで降りると、山吹は自転車に跨り、先に戻って行った。
天音さん曰く、最寄りの停留所にあと5分でバスが来ると言う。
バス停まで早足で向かわなければ間に合わない。既にパンパンの足には厳しい話だが、これに乗り過ごすと次は1時間後だ。
天音さんの後を追いかけて、なんとかバスに乗り込むことに成功する。限界のぼくは乗車口側の椅子に座り込む。
天音さんは僕の横に座り、手帳を広げた。書き記されているのは小説のネタやプロットだろう。随分とびっしり書かれている。
真剣な表情の彼女に声をかけるのは憚られる。僕はただバスに揺られ、足の疲労を取る事に専念する事にした。
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