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1話 ナリゲシの花
朝焼けの町
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翌朝、朝早くに目を覚ますと、窓から朝焼けに染まる街並みを見わたした。
石畳の道の続く先に駅らしき建物を確認できた。この北の大地は広いと聞いていたから、汽車でもないと人や物資の移動も円滑に進めることができないのだろう。移動にかかる時間が短縮できて体力も温存できるというのを考えれば朝一番の汽車に乗せてもらうのが良いだろう。
背負子を背負い、部屋を出ると一階ロビーに挨拶をして宿を出た。
外に出てすぐ、ポケットから取り出した龍神の瞳を上空に投げてみた。瞳は赤く輝いて晴れることを示した。
「うむ、どうやら天気は問題ないらしい。……さて、せっかくだ。すこし街を見て回ろうかね」
朝早い時間とはいえ起きている者はいるだろう。このあたりの気候やナリゲシの事が分かれば少しは手間が省ける。それに日が完全に昇らなければ汽車は発車しないだろうから、時間はたっぷりある。
この町の地理など理解していないので、大きな通りに繋がっている左に歩いてみることにした。大通りに出てみると商店や食事処がずらりと並んでいた。
ふと開いている店を見つけて中に入る。西洋風な外観からは想像できなかったが、店内は木板の床に質素な木製の机に椅子と、どこにでもあるありふれたものだった。
「いらっしゃい」
店内には店主らしき白髪の恰幅のいい男が厨房にいた。野太く威圧感のある声は狭い店内に緊張感を漂わせた。
「開いていると思って入ったのだが、まだ準備中だったかい?」
「いいや。……何が食いたい」
店主は顔をこちらに向けることなく言った。
「米が食えればいいさ」
「……少し待ってろ」
不愛想にそう言って店主は調理を始めた。香ばしい香りがしてくるところからして魚でも焼いているのだろう。
頬杖をついて外の景色を眺めて料理が出てくるのを待つ。町はどんどん明るくなって、人通りも少し出てきた。
「もし、この辺の人は本土からこちらに来たものばかりなのか?」
「大抵はな」
「そうかい。じゃああんたもかい?」
「……そんなところだ」
「なんでまた」
「なんでもいいだろう。……できたぞ」
どうやら、あまり詮索しない方がいいようだ。
出てきたのは白米と焼き魚。手を合わせて「いただきます」と感謝をすると、米を口に運んだ。久しぶりに食べる米はやはり旨い。
「そういえば、随分と早い時間から開けているのだな」
「店に来る奴がいるから開けているだけだ」
「そうかい」
この店主、不愛想ではあるがこちらが聞いたことにはしっかり返す。嘘をつくような人間でもないようだし、いろいろと聞いておくことにした。
「店主、この町の汽車は人も乗れるか?」
「金を出せば乗れる」
「そうか。これからさらに北に行こうと思ていてね。汽車に乗れると分かれば少々気が楽になった」
「北か。炭鉱にでも行くのか?」
「いいや。花を探しに行くのだ」
「おかしな奴だ。花のためにここまで来たのか?」
「訳アリでね。ナリゲシという花だ。知らんかね?」
「知らんな」
「そうかい。そりゃ残念」
やはり、現地の人間に聞かねばナリゲシの花の情報は出てこないようだ。
「この辺の気候はわかるか?」
「さあな。気候なぞ気にしたことがない」
これ以上聞いてもあまり有用な情報は得られやしないだろう。質問を止めてさっさと食事を済ませると金を支払い店を後にした。
さて、このままここに居ても殆どが現地人でないのなら聞き込みをしても仕方がない。すぐに駅に向かい汽車に乗り込むのが良いだろう。
大通りを北に向かって歩いていくと駅らしき建物が見えてきた。
近づくにつれて駅員の姿も見え、どうやら駅であっているらしい。
駅の中は近代的で非常にきれいであった。窓口で朝一の汽車の切符を買った。どうやら出発まであと一刻待てとのことで駅の構内で待ちぼうけをくらうこととなった。
待っている間にもぞろぞろと人が駅へと入ってきた。どうやら早めに来たのは正解だったようだ。下手をすれば朝一の汽車に乗れなかった。瞬く間に客室が埋まってしまったようであった。
ごった返した駅構内で待っていると汽車に乗り込めと駅員が叫ぶのが聞こえた。
「……さて、行きますかね」
背負子を背負いなおすと汽車に乗り込んだ。
石畳の道の続く先に駅らしき建物を確認できた。この北の大地は広いと聞いていたから、汽車でもないと人や物資の移動も円滑に進めることができないのだろう。移動にかかる時間が短縮できて体力も温存できるというのを考えれば朝一番の汽車に乗せてもらうのが良いだろう。
背負子を背負い、部屋を出ると一階ロビーに挨拶をして宿を出た。
外に出てすぐ、ポケットから取り出した龍神の瞳を上空に投げてみた。瞳は赤く輝いて晴れることを示した。
「うむ、どうやら天気は問題ないらしい。……さて、せっかくだ。すこし街を見て回ろうかね」
朝早い時間とはいえ起きている者はいるだろう。このあたりの気候やナリゲシの事が分かれば少しは手間が省ける。それに日が完全に昇らなければ汽車は発車しないだろうから、時間はたっぷりある。
この町の地理など理解していないので、大きな通りに繋がっている左に歩いてみることにした。大通りに出てみると商店や食事処がずらりと並んでいた。
ふと開いている店を見つけて中に入る。西洋風な外観からは想像できなかったが、店内は木板の床に質素な木製の机に椅子と、どこにでもあるありふれたものだった。
「いらっしゃい」
店内には店主らしき白髪の恰幅のいい男が厨房にいた。野太く威圧感のある声は狭い店内に緊張感を漂わせた。
「開いていると思って入ったのだが、まだ準備中だったかい?」
「いいや。……何が食いたい」
店主は顔をこちらに向けることなく言った。
「米が食えればいいさ」
「……少し待ってろ」
不愛想にそう言って店主は調理を始めた。香ばしい香りがしてくるところからして魚でも焼いているのだろう。
頬杖をついて外の景色を眺めて料理が出てくるのを待つ。町はどんどん明るくなって、人通りも少し出てきた。
「もし、この辺の人は本土からこちらに来たものばかりなのか?」
「大抵はな」
「そうかい。じゃああんたもかい?」
「……そんなところだ」
「なんでまた」
「なんでもいいだろう。……できたぞ」
どうやら、あまり詮索しない方がいいようだ。
出てきたのは白米と焼き魚。手を合わせて「いただきます」と感謝をすると、米を口に運んだ。久しぶりに食べる米はやはり旨い。
「そういえば、随分と早い時間から開けているのだな」
「店に来る奴がいるから開けているだけだ」
「そうかい」
この店主、不愛想ではあるがこちらが聞いたことにはしっかり返す。嘘をつくような人間でもないようだし、いろいろと聞いておくことにした。
「店主、この町の汽車は人も乗れるか?」
「金を出せば乗れる」
「そうか。これからさらに北に行こうと思ていてね。汽車に乗れると分かれば少々気が楽になった」
「北か。炭鉱にでも行くのか?」
「いいや。花を探しに行くのだ」
「おかしな奴だ。花のためにここまで来たのか?」
「訳アリでね。ナリゲシという花だ。知らんかね?」
「知らんな」
「そうかい。そりゃ残念」
やはり、現地の人間に聞かねばナリゲシの花の情報は出てこないようだ。
「この辺の気候はわかるか?」
「さあな。気候なぞ気にしたことがない」
これ以上聞いてもあまり有用な情報は得られやしないだろう。質問を止めてさっさと食事を済ませると金を支払い店を後にした。
さて、このままここに居ても殆どが現地人でないのなら聞き込みをしても仕方がない。すぐに駅に向かい汽車に乗り込むのが良いだろう。
大通りを北に向かって歩いていくと駅らしき建物が見えてきた。
近づくにつれて駅員の姿も見え、どうやら駅であっているらしい。
駅の中は近代的で非常にきれいであった。窓口で朝一の汽車の切符を買った。どうやら出発まであと一刻待てとのことで駅の構内で待ちぼうけをくらうこととなった。
待っている間にもぞろぞろと人が駅へと入ってきた。どうやら早めに来たのは正解だったようだ。下手をすれば朝一の汽車に乗れなかった。瞬く間に客室が埋まってしまったようであった。
ごった返した駅構内で待っていると汽車に乗り込めと駅員が叫ぶのが聞こえた。
「……さて、行きますかね」
背負子を背負いなおすと汽車に乗り込んだ。
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