赤毛の行商人

ひぐらしゆうき

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2話 黒鉄の丸薬

黒鉄の丸薬

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 嵐が過ぎ去った後、再び嵐が訪れたのは俺以外の町民には運の悪いことであっただろう。
 つい先日、家を修復し終えた者たちも多くおったのだ。
 いや、それでも直っているだけ良いだろう。今回の嵐は激しい雨は降っているが、川が氾濫するほどではなく、風もそう強くない。雨風をしのげる環境が整っていれば十分だ。
 嵐が来るまでの期間も、晴れ渡る事はなかった。じめじめとした気候でもあったし、期待しても良いかもしれない。
 再び風穴まで登ったのは、以前登った日から8日経った時であった。
 風穴の広場は未だ湿っていて、木々の葉や岩からも水滴が垂れている。
 中央のクヌギの側に背負子を下ろして、濡れて滑る岩場に足をかける。
 一つの風穴の中を覗き込んでから手を突っ込む。穴の中を探ると小さな塊が指に触れた。砂の塊のような触り心地のそれをそっと掴むとゆっくりと風穴から手を引き抜く。
 掴んだそれは胡椒の実より一回り大きな黒い塊であった。指にはまるで炭を握ったような黒いシミがついている。
 俺は背負子まで戻り、手のひらに収まる小さな木箱を取り出した。木箱の中には和紙が敷いてある。そっとそこに塊を置いて観察する。
 塊は歪んだ球形をしていて、小さな何かの集合体のように感じられた。硬くはないし、少し力を加えれば崩れてしまいそうな危うさがあった。
 この形、この色。恐らくこれが幻の天然丸薬。万病を治すとの伝承が残る[黒鉄の丸薬]なのだろう。しかし、どうにもこれが万病に効くとは思えない。むしろ病の元だと言われた方がしっかりとくる。
 何はともあれこれを持ち帰れば堀井氏の依頼は完了だが、まだあるのなら持って帰った方が評価としては高いだろう。
 期待はできないが、手が入る風穴は全て調べる事にする。
 滑る岩場に悪戦苦闘しながら慎重に作業を進めて、全て調べ終える頃には日没が迫っていた。
 その甲斐はあって合計3つの丸薬を入手することに成功した。
 3つの丸薬は容器を分けて保管して、形が崩れないようにする。

 山を降りた時には夜の帳が下りて、暗闇に包まれていた。こんな時間に堀井氏の元へ行くのは失礼だろう。
 俺は背負子の中にある丸薬に気を配り、家への帰路についた。
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