俺がお前を英雄にする~あの最弱の女冒険者が実は最強だという事に気がついているのは俺だけらしい~

ジョク・カノサ

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隠し事

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「すまなかった。面倒事に巻き込んだ」

「い、いえ、気にしてないです……」

 フリューゲルが見事な対応を見せた後、あの男は逃亡。そのまま貧民区に居るのもどうかと思い、丁度良い時間なのもあって貧民区を出た俺達は昼飯を求めて歩いていた。

「それにしても良い動きだったじゃないか。すっ転んだ俺なんかよりよっぽど見事だった。俺との遊びじゃ、ああいうのはする気が起きなかったか?」

「……気づいたら、体が勝手に動いてました。オーウィンさんにはあんな事出来ません」

「ふむ」

 俺とあの男、遊びと本番。俺との遊びには危険は無く、あの男には明確に人を害する目的があった。

「自身の身に迫る危険には容赦無く対応出来る、か。お前の才能は大量のマナだけに留まらないみたいだな。訓練の飲み込み、上達の速度も中々に早い」

「あの」

「ん?」

「あ、足、怪我してるんですか?さっきだけじゃなくて、あの時も……」

「バレたか。ほら」

 立ち止まり、裾を上げて右足の足首辺りを露出させる。そこには俺の夢を奪った忌々しい古傷がくっきりと刻まれている。

「これがまた面倒でな。力むとさっきみたいに力が抜けるんだ」

「……なんで、そんな足で冒険者なんて続けるんですか」

「夢を諦めきれなかったから。……力が抜けるっていってもな、毎回なる訳じゃない。基本は普通に動ける。それがまた意地悪なんだ。まだやれるんじゃないかって、思っちまう。でもまあ、白金等級は無理だわな」

「!それって」

「お前なら成れるって言ったよな。あれがそのまま俺の夢だ。……諦めなくて良かったよ。あの日あの森のあの場所に冒険者として俺は居た。だからお前という宝物に出会えた。これがお前に言いたかった事だ」

 今までこの事はフリューゲルには言わなかった。フリューゲルなら成れると思うと同時に、他人に勝手に夢を託すなんて恥ずべき事だとも俺は思ってしまったから。

「何で。今それを……」

「お前に対する俺の真剣さを知ってもらいたかった。それに、お前の隠し事を聞こうとしてるのに俺だけ何も明かさないのは公平じゃない」

「……ず、ずるい」

「はは、それくらい聞きたいって事だ」

 俺が話した、だからお前も話してくれ。公平どころか脅しみたいなものだ。

「……分かり、ました」




 ☆




「金か」

 フリューゲルが隠していた悩みは単純な話だった。家族が求めている金。

 丁度良く見つけた出店で買ったパンに肉を挟んだ物を出店の脇でお互いに食べながら、フリューゲルに相槌を打つ。

「あ、あの時と同じくらいの量を持ってこれないのかって」

「……あれは特別だ。正式にクエストが作られる前に、偶然とはいえ犠牲者も出さず迅速に討伐したからあの量なんだ」

「……ですよね」

 家族へと差し出したアーマードベアの討伐報酬。それと同じ量の金を継続的に求めている、という話だった。

「あれでも結構な量だ。本当にそれだけの量が必要なのか?」

「母が言うには……」

「辛抱してくれ、と言うしかないな。焦らなくてもいずれお前は大量の金が稼げるようになるんだ。それまでの辛抱。何なら、俺が少しは助けてやれるが……」

「ぜっ、絶対言うと思ってました!ダメです!今だってこうして奢ってもらってるのに、これ以上は……」

「まあ、俺もそこまで金がある訳じゃない。あの量を継続的にはどっちにしろ無理だ。……そもそも、何でお前が勘定に入ってない」

「へ?」

「今日だってそうだ。俺が払わなきゃコレだって買えない量の金しかお前は持ってない。いくら家族の為のとはいえ、お前の分が少なすぎる」

「……」

 安物の剣とボロボロの服。以前のフリューゲルが身に付けていた物だ。

 今思えばアレは新調しなかったんじゃない、出来なかったんだ。

「その家族の為に、お前はそこまでしなくちゃいけないのか?」

「……はい」

「そうか」

 フリューゲルがそう言うのであればそうなのだろう。流石に家族云々への干渉は俺には出来ない。

「じゃあ帰ったら言ってやれ。今に稼ぐようになる、だから待てってな」

「……はい!」

「良し、食い終わったらまた訓練だ。今日はマナの扱い方を中心にいこう」

 しばらく無言で、食事を続ける時間が続く。

「なあ、俺はお前に勝手に夢を押し付けてる。それでも、良いか?」

「……オーウィンさんには貰ってばっかりなんです。私も、少しくらいは返したいです」

「……ありがとう」
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