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記憶の欠片と一蹴の接敵

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「組織に入ります」
僕は、現状が少しでも良くなろうと考えていた。
「まぁ、今日は帰って寝るといいよ」
そう言ってローラスは、香恋に表まで案内させた。

「ふぅ、行ったか」
ローラスは、カプセルの横にあるデスクに腰掛ける。
あいつの紋章を調べたがやはり…。
まあ、とりあえず床に溢れた検査液を掃除しなければ。
「ああ、腰痛になりそう明日」


香恋に表まで見送られた僕は家の帰る道を考えながら帰っていた。
「ねぇ、先輩」
不意に後ろから話しかけられた。
その人物は、美玲だった。
名前以外は、何も知らないが。

「先輩、そのお話があります」
無視して進もうとするが、彼女は僕の進む道を塞ぐ。
「なんだ?」
「私のこと嫌いですか?」
「唐突な質問だった」
ここで、好きと言ったらまた記憶を失うのかもしれない。

「嫌い」
僕は、そう言った。
彼女は、その場で固まった。
僕は、気にすることなく立ち去った。
不思議と罪の意識は感じない。
おそらく、彼女の名前以上の事を知らないからだ。


しばらくして、家に着き床についた。
ムシムシと暑いこの時期、電車のクーラに煽られて少し気が休まるが、それでも汗ばんでくる。そんな夏の様な暑さが続く日々に少し物足りなさを感じていた。

何故だろう?
答えは簡単だ。現実は面白くない。
突然、何を言い出すかと思うだろう。
だが、現実はそんなものだ。

そして今、午前5時30分電車の中で一人寂しく電車に揺られている。
スマホを開いてもやることがないので、僕は景色をただ傍観していた。
傍観し始めて1時間、隣町に着くと女性が一人乗ってきた。
女性は空いている席があるのにも関わらず、僕の隣の席に座った。
そして、何も話す訳でも無く数分が立った。

ドサッ
急に音がしたと思えば、女性が僕に寄りかかってきた。
相当疲れているのか元の姿勢に戻してあげても起きない。

ドサッ
電車が揺れまた僕に寄りかかる。
そして、彼女は僕の太ももに頭を埋めた。
側から見れば俺が悪いやつだ。
彼女の髪が揺れ、態勢を起こしたと思った。

ドサッ
次は太ももではなく、僕の急所に当たった。
「ングッ」
我慢するが痛みは耐え切れない。
「んぎゃぁぁっ」
痛みのあまり叫んだ。

「ん?」
彼女は目を瞬きしながら僕の方を見る。
「うるさい」
そう言って、僕の頬をつねる。
「痛い痛い」
痛みは、また僕に襲いかかる。
しばらくして、僕の頬を離す。
痛みはしばらくして引き、彼女は膨れっ面をしていた。

「それより、あなたは誰ですか?」
彼女は、疑問を投げかける。
「こっちが、聞きたいのですが?」
そう訊くと彼女は、揺れる電車の中心立って言った。

「私はこの世界では神、いや神の代行者と言うべきでしょうか?」
彼女が始めると、時間が停止した様に見えた。
今まで揺れていた電車が、ピタッと止まり。
つり革は斜めになって真っ直ぐに戻らない。
そして、つり革を触るとすり抜けた。

「ふふ、時間は今停止させました」
彼女は、不気味に少し笑っていた。
どうこう言わせる前に彼女の口が開く。

「あなたも、私と一緒にこちらのサイドに来てもらいましょう」

彼女が棒を振りかざすと、音のない空間に一つの音が紛れ込む。
そして、彼女の創造したこの空間は歪み一点の渦が現れた。
その渦は、ブラックホールの様に静かに僕を吸い込んだ。


次に目が覚めると、そこは静かな空間だった。
見渡す限り真っ白で、建物内のようだった。
その建物は、西洋風の教会のようでとても美しい。
白を基調とした色使いで、とてもシンプルがしかしそこには神聖さを感じさせる。

「そう言えば、あなた年は?」
彼女は、手を顎に近づき頬ずりする。
「16歳」
そう僕が答えると、彼女は苦笑した。
「私は15歳で年下だったのですね」
「じゃあ、先輩って呼びますね」
「私、名前言ってなかったですよね」
「私の名前は、霧傘美玲」
「以後、よろしくおねがいしますね、先輩」
そう言って、僕の顔の前に顔を出だす。
これが、美玲との出会い。
この頃は、まだ紋章のことなど知るよしもない。

「…夢か」
何か美玲の夢を見ていたような。
香恋にLI○Nしてみるか。
そう、昨日帰り際にLI○N交換をしたのであった。
スマホをベッドの横のテーブルから出して、うつ伏せの状態になる。

スマホ画面、名前、香恋コスプレイヤー始めました。
垢名を見て苦笑してしまうのは僕だけだろうか?
まあ良い。

「気になることがある」
既読
「はーぁい?何ですか?」
文字でもうざい文字は変わらない。
そう思いつつ返信する。

「夢で美玲の夢を見たのだけれど」
「記憶をなくしたはずなのに、何で?」

既読
「それは、興味深いわね」
「おそらく、あなた自身の記憶の断片が夢に影響したと考えるのが妥当ね」
「記憶は、一時的に紋章によって消された」
「でもそれは、完全ではないの」
「今のところ紋章の消し方は分からない」

「だから、その記憶の断片が見せているとは断定は出来ないわ」
「まぁ、それより明日またうちの研究練に来てくれるかな?」
「あれって研究する施設だったのですか?」
「そう言って居なかったかしら?」
そこで、2回目の眠気に襲われベッドに横になった。

美玲「・・・」
私は、彼の言ったことに固まっていた。
嫌い…、その言葉を真に受けていたのだ。
「はぁ、あの女に騙されているのかな?」
「本当に悪い女…」
「私の邪魔をする者は許さない」
「許さない、許さない、許さない」

ガシャッ
拳銃のトリガーを引いて彼女は不敵に笑う。
「ふふ、この銃ただの銃じゃ無いの、私の紋章の力を利用して具現化した銃」
「つまり、銃以外にも短剣長剣など使える」
「まぁ、私は使い慣れた銃を使うのだけど」
「紋章、いやこう言うべきかネラス」
「本当は紋章ではなく、ネラスって言う」
「私か、その組織とやらの人間しか知らないのだけれどね」
「まあ雑談は、言いあの子を騙す者は許さない」
そう言って彼女は住宅街の壁を蹴り、高く飛んで勢いよく走って行った。


次の日、僕は目覚ましの音で起きた。
「眠い、だが今日は昨日の場所に来てくれと香恋に言われていたから向かわなければ」

自宅を出て、数分真夏の太陽がじりじりと照りつける。
暑さに、体の重さと体内温度が上がっていくのを感じる。
毎日ニュースでは、ここ数年に無い猛暑、危険すぎる暑さなどと言っている。
そんなけだるい暑さの中、昨日の場所まで僕は歩く。
歩き始めて10分が経過した。

暑さのせいで異音が聞こえるようになってきた。
金属と金属がこすり合うような音に耳を痛める。
しばらくしてその音はだんだん近づいてくる。
不快だ、不快だ。
そう思うほどに音は大きくなっていく。 

ついに音の現況が現れた。
キイィィィ、ガシャ。
二人の女が僕の目の前に降ってきた。
それも家の屋根から。
二人の内、片方まず服装は、鎧みたいな物を纏っていて中世的なデザインで武器は剣。

そして、もう片方はナイフと銃を使っている。
彼女らの顔を見てみると、どこかで見たことのあるような顔だった。
「って、香恋と美鈴?」
「なんで、戦っているんだ?」

「この雌豚を倒すためよ」
そう香恋が言った。
「本当に悪い女ね」
「私の先輩を取るなんて」
そう美鈴が言う。
この場は、修羅場の様相をていしていた。

しばしの沈黙の後、美鈴が動いた。
香恋の方に縦横を向けた。
合図なしに彼女らは戦闘を始める。
パシュンッ
銃を撃ったのは美鈴だった。
弾道は香恋の頬をわずかにずれて長い髪をふりほどいた。

「ッチ」
と同時に香恋が舌打ちする。
そして、香恋も動く。
香恋は、剣を振りかざし美鈴の顔をめがけて振りかざした。
その瞬間を見逃すまいと、美鈴がかがんだ体制になった。
そして、ナイフを目も止まらぬ速さで出した。

ドスッ
鈍い音が響いた。
ナイフは、彼女の腕に刺さっていた。
だが彼女は、余裕の笑みを浮かべていた。
「擬態か」
そう、香恋擬態使いと呼ばれていたのだ。

ここで、ローラスの豆知識のコーナー「擬態は造語です」
擬態とは、忍者などが使う身代わりの術のようなものです。
身代わりを出し、それを触れたものに煙幕をまきます。
つまり体さえ触れなければ、何も起こらないということですね。
以上、豆知識のコーナーでした。

戦況は、美鈴の方が優勢だと思われたが、ここで香恋は擬態?を使った。
この術のようなものを使った瞬間、彼女はその場から消えた。
擬態の方は、その場で爆発し煙幕をまいた。

美鈴の視点から見えるのは、白い煙幕で先は何も見えない。
美鈴は、その煙幕に畏怖していた。
彼女は、煙幕自体に恐怖したわけではなく、トラウマを訪仏とさせていたからだ。

思い出したくない過去を彼女は思い出す。
追われるようにそれは迫ってくる。
不快だ、不快だ、不快だ。
そう思うたびに、それは近づいてきた。

「嫌い、私のせいで彼が…」
「ふふふ、なんでだろうおかしい私」
彼女の理性は、音を立てて消えていった。
そして垣間見えるのは、狂乱の笑み。

一方そうとは知らず彼女は、攻めの一手を与えようと慎重に剣を振りかざしていた。
「はぁぁぁっ」
威勢良い声で、香恋は健穂振りかざした。

キィィンッ
甲高い音が響き渡った。
確かに剣を振りかざしたはずだが剣が貫通しない。
「ふふふ」
美鈴は、想像を超える速さでナイフを使い防いでいたのだ。

「なんて速さだ」
そう思っていると、香恋が僕を抱えて煙幕を再度投げた。

抱えたまま彼女は、住宅の屋根を飛んでいた。
彼女を見ると彼女は口を開いた。

「分が悪いので、このまま逃げます」
そう言って彼女はしばらく住宅の屋根を飛び続けた。
そして空き地に飛び降りて、木の棒で半円を描いた。
何を遊びだしたかと思ったが違うらしい。
香恋は、僕に向かって言った。

「ここに、寝ころびなさい」
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