上 下
2 / 13

恋の硝煙と人生ゲーム

しおりを挟む
あれから夜になり、僕は寝てしまった。
「ふふ、あの子は寝たようね」
そう話しているのは、香恋だった。
「ふぅ、あの子ったら私のこと愛してくれない」
カタカタッ
「これで、良しっと」

―パソコン画面、ファイル82。
ピー、ピー、ピー。
腕輪のようなものから音が鳴る。
香恋は、その腕輪をスライドして通話する。
そう、この機械は通話記録を残さず連絡出来るのだ。
「はい、Code3了解」
「ふふ、忙しくなりそうね」

「ふ、ふぁ、よく寝た」
「んん?」
「ここは?」
そうか、俺は昨日病院に運ばれてそしてベッドに縛られて
今に至ると。
そして謎は紋章だ。
物理的には消えないのは実証済み。
思案しても無駄か。

「ふふ、寝られた?ダーリン」
そうこう考えていると、香恋が病室に入ってきた。
「寝られるわけない、なんだよこの手錠」

「まぁまぁ、落ち着いてダーリン」
メイド服のスカートを揺らしながら答える。
「あなたにお話があります」
そう言って彼女は、僕の手錠を外す。
「こっちに来て、ダーリン」
そう言って案内されたのは医務室だった。
そして、関係ないが彼女は着ているメイド服の上から白衣を羽織った。
「おい、ここ使って大丈夫なの?」
「大丈夫よ」
彼女はクールな口調で言う。

「というか、いつもの口調じゃ無いですね」
僕は率直だが、正論を彼女に言った。

「ふぅ、あなた普通この歳であんな声出すと思う?」
いや、実際に出していたのだが。
そう思いつつ心にしまった。

「これは、あなたの人生そのものが関わってくるわ」
あまりのスケールの大きさに息をのむ。
「どうゆうこと?」
彼女に訊く。

「あなた雌ブタ、コホンッ」
「美玲さんに触れられて、あなたは倒れた」
「そしてあの雌ブタ、ゴホンッ」
「あなたの記憶の美玲さんの記憶が無くなっていた」
あざとく咳き込みながらも、彼女は説明を続ける。

「そう、紋章は恋愛禁止の象徴のような物なの」
「恋い焦がれるほど、あなたの記憶がリセットするわ」
「つまり言い換えると、私が君に好意を持っていたとしよう」
「すると、君は紋章が痛む事は無い」
「あくまで、君自身が好意を持った時点で傷が痛む」
「紋章の説明は、今の時点ではこんな所ね」
「どう分かったかしら」
彼女はどや顔で言う。
「その顔はわかっていないようね」
「わかりやすいにも、ほどがあるわ」
「はぁ」
そう言って彼女は深いため息をついた。

「ご主人様?おわかりいただけましたか~」
うっとうしい口調と、馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「はぁい、じゃあ、この口調で次の説明するね。ご主人?」
馬鹿にするように笑う。
「その前に移動しようか」
彼女はパチンッと指を鳴らした。

「…何も起こらないのですが」首をかしげ彼女に向けて言う。
「むぅぅぅ」
彼女はふくれ面をして声をあげていた。
「予定と違うじゃない」
彼女は赤面して椅子に座る。
「恥ずかしい、恥ずかしすぎるわ」
そう言い彼女は手で顔を隠す。

「いつも、あんな恥ずかしい台詞言っているくせに、何で恥ずかしいの?」
彼女に問う。
「あれは、コスプレのキャラのバイトしていたから、恥ずかしさはないの」
「まぁ、いいわ」
彼女は白衣を羽織ってブランド物のバックを背負い部屋のドアを開ける。
「こっちへ来なさい」
そういい、僕を誘導する。
気にせず僕は診察室を出る。
「ふふ」
彼女が急に笑い出したと思えば、抱きついてきた。
白衣が揺れて柔軟剤の匂いが香る。
そして、香りは僕の鼻をくすぐる。
リラックスしたのかだんだん眠く…。
バタッ

「っふふ、さて移送させますか」
「こちら、chord3移送をお願いします」

「…」
うん?周りが騒がしいような?
眼を開けよう、そう思うが体が言うことを利かない。
目を開けると、何かのカプセルに僕は入れられていた。
目を開くと水のような液体が眼に入って前が薄らとしか見えない。
「ゴボッ、ゴボッ」
しゃべろうとしたら液体を飲み込んでしまった。
??「いかん、カプセルを開けろ」
??「了解」
「ゲホッゴホッ」
液体を飲み込んでむせかえっていると、カプセルの前にいた人物が背中をさする。

「か、香恋?」
そう、僕が見たのは間違いなく、香恋だった。
「ふふ、大丈夫?」
香恋は微笑しながら一瞥する。
「大丈夫か?君?」
のぶとい声の人が後ろから声を掛ける。
??「おっと、驚かせてしまったかな」
私の名は「chord2、通称ポルティ・ローラス」
ローラス「ローラスって呼んでくれたまえ」
彼は葉巻の灰を灰皿に落とす。
「ローラス?chord2?ってなに?」
僕は率直な思いを言葉に紡いだ。

ローラス「君は少々察しが悪いようだな」
ローラス「良いだろう、まずは私たちのことではなく、この世界のことについて話そう」
そう言って彼は、部屋の電気を落とした。
ドスッ
鈍い音がした。
「いて、」
彼は、ダンディな声とは裏腹にドジな一面を見せる。

香恋「相変わらず、ドジですね」
ローラス「まあ、そう言うな」
彼は説明を続ける。

この世界は知っての通り君だけ恋愛禁止だ。
ここで、疑問生まれる。
なぜ、自分だけなのか?
それは、まだ私には分からない。

そして第二の疑問、それは4文字のスマホに映し出された出来事。
あれは、君がメモを目にした瞬間起こった出来事だ。
これは、予想が出来ている。
メモの文面から見て、一度君は美玲に恋をした。
それは、紛れのない事実だと思う。
しかし、君は恋をしたこと自体忘れていたわけだ。
つまり、これが何を意味するかというと、君はあの出来事を前に経験したと言うこと。

一回目は美玲の記憶をなくし、2回目は紋章が出来た。「しかし記憶はなぜか消えていない」
そして、今回病院に運ばれた3回目美玲の記憶の抹消。
しかし、病室では美玲に触れられたのにも関わらず何も起こらなかった。
おそらく、ある状況下になると君の紋章が反応する。
それが、私の考えた仮説だ。
どうだろう。

香恋「zzz... 」
ローラス「おい、起きろよ香恋」
ローラス「せっかく俺が説明頑張ったのに」
香恋「ふぁぁ、終わりましたか?」
香恋「おっさん説明遅いっすよ」
ローラス「おじさん傷つくよ」
香恋「キモッ」
ローラスはその場に固まり動かなくなってしまった。

「言い過ぎだよ香恋、おじさん固まっちゃたんだけど」
僕が言うと彼女は一歩下がった。
「だって、あたしが好きなのはあなただけだもん」
彼女は、いたずらに笑む。
「いや、全く理由にならないのだが」

しばらくして、ローラスがまた説明を始めた。
それで、僕が今使ってるchordは、名前を端的に言う為の物なんだ。
そして、私と彼女は組織に所属している。
その組織名は、トスティア。

我が組織は、その紋章を探っているんだ。
君が、紋章の出る前の行動は限られていた。
紋章について図書館やインターネットを駆使して調べたりする。

「そしてある日、霧傘という女がこの隠れ家もとい本部を訪ねてきた」
隠れ家設定なのか?そう思いつつ、話を聞く。
「霧傘は、ある書物を置いて立ち去った」

その書物は、紋章について事細かに書いてあった。
その書物をすべて読み終わったとき、背筋が凍ったよ。
紋章を在りし時、世界の終演は近づき、自身を滅ぼす。

つまり、紋章を持つ者は世界を滅ぼし自分自身を滅ぼす。
私の解釈は上にあるとおりだ。
「君は、このままでは死んでしまう」
「だから、うちの組織に入らないか」
「一緒に生きる道を探そう」
とんとん拍子に彼は僕を勧誘する。

だが僕は死の宣告をされ、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
呆然と立ち尽くしていると、香恋が後ろから抱きついてきた。

「心配しないで、私が君を死なせやしないから」
いつも、ふざけ混じりだが今回は本気で心配しているようだ。
甘く良い香りが、鼻をつつく。
そして、リラックスする。

しばらく経ってローラスが言った。
「お二人さん、良い感じな所悪いんだけど」
「選択してくれないかな」
「君は組織に入る?」
しおりを挟む

処理中です...