上 下
7 / 13

昔話と旅路の途中

しおりを挟む

ローラス「…じゃあな相棒」
そう言い残し、彼は400キロ出ている車両の窓から出て行った。
あいつ死ぬぞ。
そう思うだろうが、彼は電車が高所の橋にさしかかった頃に、ハンググライダーで外に出た。

一方、床に倒れ込むヴェスターは、微動と動かず腹部から血がにじんでいた。
「…」

一人の人影がヴェスターの目の前に立つ、
「あなた動かないけど、まだ息をしている」
ヴェスターの脈を測ってそう言った。

「ふふ、渋い顔」
そう言ってヴェスターの顔を横に向ける。

「ふぅ、私はネラスの守護者イメルダ」
「我が名において、彼に命を吹き込み給え」
辺りが光に包まれ、ヴェスターの体を包む。
光は満ち、視界はホワイトアウトするほど明るい。

「…遠くから水のしたたる音がする」
綺麗な音だ。
そう思った俺ヴェスターは、上体を起こした。
そして、腹部に手を当てる。
すると、血がにじんでいたはずの腹部は、何事もなかったように元の状態になっていた。
さて、ここはどこだろう。
そう思い周りを見渡す。

俺が立っているのは、蓮の葉のような所だった。
そして、前方を見てみる。
前方には蓮の葉のような物が点々水の上に浮かんでいた。
しかし、走って届く距離ではないので動けない。

その間、俺は不安だけが募る。
先輩や美玲は守れたのだろうか?
そんな不安が頭を駆け巡る。
俺は焦燥感に駆られていた。
苛立ちを隠せない。
不安を感じると誰もが苛立ちを覚える。
それと同じだ。

「ふぅ、仕方が無い一服するか」
そう思いポケットに手を掛ける。
あれ?俺の煙草は?
ポケットに入れたはずの煙草はどこかに消えていた。
ついでに言うとライターも。
「クソッ」

苛立ちの余り蓮の葉を叩いた。
蓮の葉の叩いた所から水に振動が伝わり、それが波紋となった。
波紋は、次第に中心へと広がっていった。
そして、中心に行くと波紋が消え、そこから渦が発生した。
その渦は、水を下に吸い込み渦は俺を飲みこんだ。

不思議と水におぼれているのに息が出来る。
そう思った瞬間、下に引きずり込まれるような重力を感じた。
そして、意識はしばし暗転した。

しばらくして、また目が覚めた。
「あなた、少しは落ち着きなさい」
そう優しくも、透き通った声の女性の声がした。
その声に振り返ると、水面の水が彼女飲み込んだ。
しばらくして、シャボン玉のように彼女を包んでいた。
その水の透明度は高く、繊細に彼女の顔が見えるほどだ。

「そんなことより、先輩や美玲は無事なんですか?」
少し怒り気味で彼女に言った。

「…あなた、自分の事をまず心配したら?」
彼女は質問には答えないでそう言った。
それも笑顔で。

「どういう意味だ?」
そう聞くと彼女は、水を操りスクリーンを作り出した。
そして、鏡のように自分を映し出した。

「あなたは、ローラスに撃たれて、腹部に命中した」
「問題はその後、あなたはローラスにネラスの使用が確認されたの」
「そう、彼はネラスの使い手」

「だが、ここで疑問が生じる」
「なんで、年齢制限があるのにローラスが使えるのか」
「ネラスを使える人間は共通点がある」
「それは、まず年齢制限18~20才の間」
「しかし、香恋とローラスは例外」
「例外は、ファイル82の二章に書いてある、ネラスの取得方法を行った可能性があるの」
「まあ、このことを端的に言うならば、思春期に選ばれた人間が使えるようになる力なの」
「それで、力の使える者の選び方は私の母が勝手に決めたの」

「え、」
衝撃的な発言に沈黙する。
頭の整理が付かないヴェスターであった。


一方、その頃香恋が運転する車内では、気まずい空気が流れていた。
たとえるなら、結婚相手の両親に娘さんをくださいという感じに気まずい。
「…」
無言になってしまう。

「それより、弟とか言っていたけど、本当なの?」
最初に口を開いたのは美玲だった。
しばし間を置き、香恋が答える。

「私には、生き別れた弟がいるの」
「親が事故死してから、私はローラスに拾われたわ」
「そして弟は、母の叔母に拾われた」

「私は親戚にお金がないからと拾われず、施設に入れられていた」
「その時、ローラスが施設から私を引き取ってくれたの」
「そして私は親戚を憎んだ、そして弟も」
「とにかく、憎かった」
「憎悪の気持ちが抑えられないほどね」

「そして私は、ローラスに言われて組織(トスティア)入ったわ」
「ローラスに、今まで育てて貰った恩返しをしようと組織に入ったの」
「でも、組織に入って気がついたの」
「組織は政府非公認組織で、違法作業を厭わない集団だったってね」
「そして、私たち組織の目的はネラス(紋章)の使い手を探して利用する事」
「世界を支配する為にね」
「政治、経済、戦力保有全て手に入れる為にね」

「そしてある日、ネラスの使い手(主人公)を見つけたの」
「そして、それは私のよく知る人物だった」
「そう、生き別れた弟だったの」

「私、最初はとても憎かった」
「私を引き取らず、弟だけ引き取ったからね」
「でも、それは弟を見たら変わったわ」
「見た目は少し大人びていたけれど、かっこよくなっていたわ」
「そう、弟の成長した姿を見ていたらどうでも良くなっていたわ」
「身内は、弟くんしかいないからね」

「そう思ったら、なんか憎しみは消えていたの」
「そこから、彼への愛情が生まれた」
「家族としてのね」
「だから、いくら私が弟に復讐をしようと企んでも、愛情に邪魔されて出来ないの」

「んで、ローラスを裏切ったって訳」
「そう、今までひどいことしてごめんね」
「あと、美玲も」
そう言って彼女は謝罪する。
美玲は、謝られたのに動揺していた。


「というか、車両が離れたんだ?」
そう僕が聞く。
「それは、ヴェスターがあなたたちを守るための爆弾が爆発したからよ」
香恋はそう答える。

「ヴェスターがあらかじめ仕掛けておいたと推測されるわ」
香恋は、真剣な顔で言う。
「そうだから、あなたたちを結果的に守った事になる」
「で?ヴェスターはその後どうなった?」
僕は問い詰めるように香恋に聞く。

香恋「…分らない」
香恋「あの後、私はまずあなたたちが乗っている前の車両に車を併走させていたの」
「そこで見たのは、ヴェスターが倒れていた景色だった」
「そして、間もなく爆発がして車両が切り離されたわ」
「だから、ヴェスターは…」
香恋はそう言って沈黙した。

「…それを聴いた僕はショックのあまり周りが暗くなって見えた」
「嘘だ、そんな」
その言葉を最後に言葉を失ってしまった。
どうして自分は失うのだろう。
そう、僕は家族を失った事故の事と重ね合わせていた。
「あの日、家に帰ると多田呆然と立っている姉が居た」
その姉の前にいたのは、親戚のお祖母さんだった。
「あのね、お母さんとお父さんは…」
優しいはずのおばあちゃんの声がそのときは冷たく感じた。

「…」
そんなことが僕の頭の中を巡る。
しばらくして沈黙に気づいた香恋が言った。
「弟は私が守るわ、親の代わりに葉なら無いだろうけど」
「それでも、精一杯頑張るから」
「だから、私と一緒に頑張ろう、弟君」
そして、俺たちの乗せた車は紗那市にさしかかったのであった。


カフェのおじさん「私の名はフェイ・カディア」
今日も喫茶店の写真立てを見る。
そこに写るのは一人の女性。

「…人生いつかは終焉を迎える」
「私はもうそろそろ迎えが来るだろう」
そう思いながら、いつも生活をしている。
インターの近くにある山間のこの喫茶店でね。
しかし、一人この喫茶店を営んでいるのにも訳がある。
それは、私が若かりし頃だった。

ピアノの音色が聞こえる。
ピアノを弾いているのは、佳人な女性だった。
清らかな旋律を奏でる音に見惚れて居たのはカディアだった。
彼女が鍵盤を叩く度にピアノの弦が音を奏で、その音は部屋に響き渡りより一層美しさが増す。

彼女は演奏を終えると、結んでいた髪を振り解いて、ふぅとため息をついた。
「どうだった?」
そう聞くのは私の妻、顔はかなり美しいと思う。
何せ、包容力のある胸の造形美といったら…。
「ちょっとー、胸視線がいっているんですけど」
そう言って、僕の頬をつねる。

話が変わるが、私には妻が居る。
ここは私の家だ。
今は妻と二人で暮らしている。
まだ、息子、娘いない。
まぁ、これからと言うことで。

自慢ではないが、かなり広い家だと思う。
家は円錐のような建物で、かなり個性的な家だと思う。
まぁ、この町自体個性的な家が建ち並んでいるわけだが。
この幸せな時間が永遠に続けば良いのに。
そう思う。

まぁ、そんな楽しい時間は過ぎ去るわけで、息子が出来た。
息子が一人出来ると妻の態度は変わるもので、毎日息子のお世話係だ。
まぁ、息子の世話はいい。
正直かわいいし。
でも、一番問題なのが彼女態度だ。
夫は手伝って同然むしろ何も言わなくてもやれ、そんな目線を送ってくる。
あの楽しかった日々は簡単に失われて、夕方までは仕事そして帰ってこれば私をゴミ扱い。
「…」
正直、耐えがたい。
そんなある日、俺は休みに一人でドライブに出かけた。
高速に乗り、インターを降りると山の木々が生い茂る場所を見つけた。
ここは、都会の空気と違い透き通っていた。
そんなとき、ふと思いついた
ここで、喫茶店を開こう。

これがきっかけで、俺は彼女に一生苦労しないだけのお金を残し、山奥で喫茶店を開いた。
人生どうなるかわかんないとは、このことだろう。

ふとしたことで、ここまで私は喫茶店を営んできた。
ずいぶん、年をとったものだな。
そう言い、誰も居ないカウンターに腰掛ける。
「人生、悔いの無いように…か」

そう言って持っていた写真をカウンターの上に置いた。
そして、服装を着替え私はお気に入りのつばの長いハットを深く被り、喫茶店外に出た。
青い空、森から聞こえるのはウグイスの鳴き声。
綺麗な水が綺麗な音色をたてる。

一言で言えば、ここは田舎だ。
さて、近くの電車の駅まで歩くか。
そう言って、私は駅に向かって歩くのであった。
しおりを挟む

処理中です...