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3 どうかしていた2
しおりを挟むたぶん夢を見た。
スノーグローブ。
どうしてあんな物を贈ってしまったのか未だに理解出来ない。
あの時の私はどうかしていた。
アルジャン様の誕生日になにか贈り物をしなくてはと考え、アルジャン様のような方は普通の品物を喜ばないだろうと気がついてしまう。
一般的な婚約者への贈り物は、きっと彼にとって退屈だ。かといって異国の珍しい品を探したところで、彼は自分の欲しいものはすぐに手にしてしまうだろう。
リリーひとりを連れ、街へ出た。文房具店や洋品店を眺めても流行だとかそう言って物はさっぱりわからない。なにより、ありふれた品を贈ってしまったらきっとアルジャン様に失望されてしまうだろう。
どの店でもなにも買うことが出来ず、辿り着いた雑貨店でそれが目に入った。
球体の中に閉じ込められたピアニスト。
オルゴール仕掛けのスノーグローブだった。
アルジャン様はなんでも出来てしまうお方だけれど、ピアノの腕も素晴らしい。いつも堂々としているのに、切ない恋の曲が呼吸を忘れさせる美しさで演奏される光景が脳内に焼きついている。
単に教養のひとつとして。課題曲だったのかもしれない。けれども確かに届かない誰かへの想いを感じさせる演奏だった。
アルジャン様には誰か大切な人がいるのかもしれない。
そう、考えながら手に取ったスノーグローブ。オルゴールのネジを回せばあの時の曲が流れる。
雪の中で演奏するピアニストを閉じ込めた透明な球体がほんのり青く染まった気がした。
きれい。
不思議と目を奪われる。
そして、気がつけば購入していた。
「あ、あの……これ……その……」
頑張って選んだつもりなんです。
震える手で包みを差し出した。
「ほぅ? 俺の婚約者はどんな面白い物を選んでくれたのだろうな?」
鋭い視線に吐きそうな程緊張してしまう。
そして、彼は乱暴に包み紙を破き、中身を取り出した。
「……ん? なんだ? これは?」
純粋な疑問の表情を向けられ、困惑する。
アルジャン様ほどのお方がスノーグローブの存在を知らないはずがない。きっとどんな意図でこれを贈ったかを気にしているのだろう。
問題は、私自身がその理由を把握出来ていないことだ。
「そ、その……スノーグローブ……です」
この反応はきっと失敗だ。どんな罵り言葉が飛んでくるだろうか。
思わず体が縮こまる。
「……そうか」
覚悟を決めて続きを待った。
けれども、アルジャン様はなにも口にしない。
「……貰っておく」
一体どうしたのだろう。
アルジャン様から気を遣われてしまったような気がした。
どうしてあんな物を選んでしまったのだろう。
後悔しながら有名店の焼き菓子を譲り渡す。
冷や汗がひどかった。
お茶の味も感じなかったはずだ。
そして、強い緊張の後の記憶は消え去っている。
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