きょうもにぼしをおおもうけ!

ROSE

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ことのはじまり

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 どうして私が店長猫、たいやきさんに雇われているかというと、話せば長くなってしまう。
 きっかけは憎き毛皮、もとい一匹の白猫だ。
 そいつの名はシュガー。
 大志兄ちゃん下僕飼い猫主人だ。

 大志ひろし兄ちゃんは国会議員だ。見た目と外面がよく祖父の基盤もある。若手イケメン議員として奥様方からの支持も厚い。それが表向きの顔。
 裏の顔は猫狂信者だ。
 猫のことと支持率のことしか考えていないあの男は残念ながら私のいとこで、黙っていればイケメン。猫を前にすると残念としか表現できない。
 特に飼い猫のシュガーちゃんには下僕として尽くしている。
 問題のシュガー。憎き毛皮。
 高飛車な態度の白猫。
 もうすぐ一歳のメインクーン。しろふわの毛は毎日丁寧にブラッシングされ、私の食事よりもずっと豪華な高級キャットフードを毎日与えられている。毛並みもシルエットも美しいメス猫。通称大志の恋人。
 三十過ぎても恋人のひとりもいない大志を親戚中が心配していたが、あの猫にメロメロすぎる姿を見て更に心配するようになった。
 お見合いまでは上手くいく。けれども絶対に自宅に招きたがらないし、デートだって定時できっかり切り上げようとする。そんな態度で上手く行くはずがない。結果いつも大志が振られるのだ。
 趣味は票集め、本業はお猫様の奴隷。本人がそう言っているほど、猫のことと有権者に媚びることしか考えていない。つまり彼の頭の中には「恋愛」という物が存在しないのだ。存在したとしても有権者向けのパフォーマンスの一部でしかないのだろう。
 大志のことはどうでもいい。
 問題はシュガー。あの毛皮だ。

 あの日、私はバイトとして、大志兄ちゃんの家に行った。猫の世話係だ。
 大志兄ちゃんが遠方に視察へ出かける間、シュガーちゃんの世話をして欲しいと頼まれた。
 猫は嫌いではなかったし、仕事内容も楽な上にバイト代がよかったので快諾した。それが間違いだった。
 仕事内容はとっても簡単。トイレの掃除と決まった時間にレトルトパックみたいな容器に入った取っ手も高級なフードをあげるだけ。遊びはシュガーちゃんが勝手に私を玩具にするから自分から相手をしなくてもいいなんてものすごく失礼なことを言われた。
 そしてその通り。
 あの猫はとっても高飛車だった。
 フルオーダーの高級ソファーを我が物顔で使用していると言うよりは、大志がシュガーちゃんの為にオーダーしたのであろう革張りのソファーで寛いでいる猫。
 彼女がじっと私を見た。まるで値踏みするような視線で、気分が悪い。
 まさか猫がそんなことをするはずがない。その時はそう思って高級フードを指定されていた場所に運んだ。
 その時だ。
 声が響いた。

「あら、ちょうどいいわ」

 女性の声だった。落ち着いた大人の色気がある女性の声に聞こえた。
 高飛車な印象で、私よりも年上と言われても納得するような声。
 一体どこから声がしたのだろう。
 思わず周囲を見渡したけれど、ここには私とシュガーちゃんしかいない。
 猫が喋った?
 そんな馬鹿な。
 思わずじっとシュガーちゃんを見る。
 スピーカーはどこだろう。
 首輪代わりのスカーフの裏にでも隠して大志が悪戯しているのだろうか。
「悪く思わないで頂戴ね。下僕を守るのは主人の役目なの」
 今度こそ、その声がシュガーちゃんの口から漏らされた物だと理解した。
 一体なにを言っているのだろう。
 意味がわからない。
 どうして猫が喋っている? それに下僕って……間違いなく大志のことだろう。

「ばいばい」

 前足がパシュッと私の顔を叩いた。
 そしてそこで意識が途絶えた。



 次に意識が覚醒したとき、私は知らない空間にいた。
 映画やゲームの世界にありそうな、長閑のどかな田舎風景が広がっている。
 今は何月だろう。
 そう、疑問に思った。何しろ蝉の鳴き声が騒がしいのだ。
 大志兄ちゃんの無駄に高級すぎるマンションに居たはずなのに、あの神経質なほどに整いすぎた部屋は跡形もない。
 夢だ。
 これはきっと夢に違いない。
 とりあえず、とチュートリアルのように周囲を散策してみることにした。
 見れば見るほど不思議な空間だ。
 どう見たって田舎風景で畑も田んぼもある。それなのに電柱の一本も見当たらず、電線すらない。なによりトラクターだとかそう言った車両の一つも見当たらない。近代的な建築物も。
 なんというか、ものすごく昔の田舎風景に見えてしまう。
 なんだここは。
 どれほどの時間歩いたかわからない。
 ようやく一軒の商店らしき建物に遭遇した。絵本の挿絵でしか見たことがないような建物だ。
「すみませーん、だれかいませんかー?」
 諦め半分に声を張り上げた。
「はいはい、いらっしゃいませー」
 予想外に返事があった。子供の様な高さの声が、妙に低い位置から響いた気がした。子供が店番をしていたのだろうか。
「あれま! めずらしい。にんげんのおきゃくさん!」
 驚いたような声の主を探そうと、足下に視線を向ければ服を着た虎猫が居た。どうやら声の主はこの猫だったらしい。
 猫が喋った? 最近は猫が喋るのが流行なのだろうか。
 猫はニットにシャツといったちょっとお洒落な格好をしている。
「あの、ここ、どこですか?」
 猫に訊ねるのもおかしな話だけれど、猫が話している時点でおかしいのだからと訊ねてみる。
「どこ? さあ?」
 猫は首を傾げるだけだった。
 それから少しだけ考えた様子でゆっくりと口を開く。
「ここはどこでもあってどこでもないばしょ」
 不思議な返答をされてしまった。
「えっと……家に帰りたいのだけど」
 どうしてか、その時の私は猫とそのまま会話を続けてしまった。
 大志なら喜んで目の前の猫の下僕になるだろう。けれども私は猫が嫌いになったばかりだった。
 だから、目の前の猫とどう接するべきか悩んだ。
「はて? こまったなぁ。にんげんがくることじたいめずらしいから……とりあえず、かえるまでうちにいる?」
 まったくこちらを警戒していない様子であっさりとそんな言葉をかけられた。
「にんげんのおきゃくさんはめずらしいから、あばれたり、わるさをしないならかんげいするよ。ちょうどてがたりなかったし」
 そう言って、猫は「こっち」と建物の奥へ案内してくれた。

 これが店長猫、たいやきさんと私、みさきの出会いだ。
 正直、待遇はよくわからない。
 けれど日払いでお給料を貰えるし、寝床は保証されている。
 制服も支給してくれたから、最低限の生活は送れているのだ。
 そのせいだろうか。
 私は猫を嫌いと断言できない。
 他の猫はさておき、たいやきさんのことは尊敬しているのだから。
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