奪われたはずの婚約者に激しく求められています?

ROSE

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シャロン 4 奪われたい 1

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 そろそろ眠ろうかと、読み物の手を止めて灯りを消そうとした瞬間だった。
 窓を叩くような音が響く。
 風が強いのだろうか。
 そう考え、それにしては音の間隔が不自然な気がした。
 人?
 そう言えば、エイミーが戸締まりに気をつけろと言っていた気がする。
 怖くなった。誰かを呼ぼうかとも思ったが、この時間に騒ぎ立ててなにもなければまた問題になるかもしれない。
 シャロンは手近にあった辞書を手に、警戒して窓に近づいた。
 するとまた叩く音がする。

「シャロン、俺だ。開けてくれ」

 目に入った姿に驚き、言葉が出ない。
 どうしてシャロンの婚約者は窓の外に居るのだろう。ここは二階だ。もちろん、階段も梯子もない。
「……か、壁を登ったのですか? 殿下……」
 万が一落下して怪我などしたらどうするつもりだろう。仮にも我が国の王位継承者だというのに……下手をすれば即死だ。
 シャロンは慌てて窓を開ける。
 彼の護衛はなにをしているのだろう。
 どうせ気配を探ることすら出来ないけれど、一応辺りを見回してみる。
「なんだ? 誰か探しているのか?」
 入ってきた殿下はむすっと不機嫌そうな様子を見せる。
「……殿下の護衛の方はいらっしゃらないのですか? この時間に……」
「ん? 邪魔だったから気絶させてきた」
 あっさりとそう告げる彼に、シャロンは言葉を失った。
 一体なにを考えているのだろう。仮にも王位継承者だというのに。
 確かに殿下は人並み以上になんでも出来るお方かもしれない。
 けれども、万が一シャロンの兄たちが彼を害そうとした場合、止められる人間がいない。
 護衛騎士がいたところで止められる気もしないが、有事の際は盾程度の役には立つはずだ。
「……お前のそれは、驚いているという解釈でいいのか?」
 呆れたような声で現実に引き戻される。
「え? あ……はい。とても、驚きました」
 どうして窓からだとか、護衛の人はどうなってしまうのだとかたくさん考えることはある。
 けれども、殿下の姿に安堵したのもまた事実だった。
「あの……殿下、その……」
 突然クラウド夫人の授業がなくなってしまったことが気になっている。
 けれども、どう訊ねればいいのか、シャロンは言葉を探せなかった。
 すると、殿下の両腕に包まれる。
「お前はなにも心配するな。全部俺に任せろ」
 ぎゅっと抱きしめる力強い腕が、普段の彼とは違いとても逞しく感じられる。
「……はい」
 伝わる温もりが、鼓動が、じんわりと幸福を生み出す。
「ずっとお前に会いたかった。どうしてエイミーにパイを渡したんだ? あいつ、俺の前で見せびらかしながら食べていたぞ?」
 拗ねた様な声にやはり普段の殿下だろうかと思う。
「作りすぎてしまったので……」
「だったら俺に持って来い。ミートパイは大好物だ」
 その声色は、少しだけ照れた少年を思わせる。
「ですが……殿下に手料理を渡すなど……」
「……うるさい。お前の作るパイが大好物なんだ。黙って俺の為に焼け」
 ぎゅっと力を込められ、困惑する。
 これは、子供の駄々と同じだ。
「……私、殿下にはお渡ししていなかったと思うのですが……」
「……ジェフリーが弁当に持って来ていただろ」
 確かに作りすぎたものはいつも兄たちに持たせている。
 正直、二人とももうパイを見ればうんざりするほど食べ飽きているはずだ。それでも付き合ってくれる二人には感謝しなくてはいけない。
「貴族の娘の趣味が料理というのは珍しいとは思うが、お前の手料理ならいつでも大歓迎だ。毒を盛られたって最後まで食べる」
「盛りません」
 むしろ盛って欲しいとでも言うような勢いだった。
 どうやらいつもの調子の殿下に戻っているらしい。
「あの、クラウド夫人がもう来ないというのは……やはり、私はもう殿下の婚約者に相応しくないということなのでしょうか?」
 一度投獄された身だ。それも受け入れなくてはいけない。
「は? なにを言ってる。俺がお前以外と結婚するはずないだろ」
 バカなことをいうなと、殿下の両手がシャロンの頬を包んだ。
「お前と結婚出来ないなら、お前を殺して僕も死ぬ」
 真っ直ぐ見つめる瞳は、どこまでが本気なのだろう。
 けれどもその言葉が妙に魅力的に感じられた。
「はい……殿下になら、殺されても構いません」
 殿下の隣に他の誰かが経つところを見るのは苦しい。
 その苦しみを与えられるくらいならば、命を奪われる方がずっといい。
 そんな心を見透かされたのか、殿下の瞳が僅かに翳る。
「どうしたら……お前の全てが手に入る?」
 大きな指が、シャロンの唇を撫でた。
 たったそれだけの行為が背筋をぞくぞくさせてしまう。
「どうしても、お前の心が手に入らない気がする。どうして……気持ちにずれを感じるのだろうな」
 優しく、唇が触れる。
 敏感な唇は、それだけで声が漏れてしまいそうだった。
「シャロン……触れるだけでもそんな表情かおになるのか?」
「あ、あまり……見ないで下さい」
 恥ずかしい。
 唇から手は離れたはずなのに、視線を向けられるだけで鼓動が速くなる。
「その……私のような……はしたない女では……」
 殿下に相応しくない。
 そう、口にしようとすると空気を奪われたかのように呼吸が苦しくなる。
「はしたない? 構うものか。俺はそんなお前がいいと言っている」
 今度は乱暴に顎を引かれ、それでも優しく唇を啄まれる。
 二度、三度と触れあう度に全身がもどかしい感覚になる。
 ただ、触れあっているだけのはずなのに、シャロンは自分の足で立てなくなるほど力が抜け始めた。
「殿下ぁ……私……へんになりそうです……」
 ふらついた体を支えられる。
「ああ……すごく可愛い」
 頬に触れた唇が、ちゅっと小さな音を立てたと思うと、シャロンの体がふわりと浮き上がった。
 抱えられたのだと気づくまで、少し時間が掛かったのは頭がふわふわしているせいだ。
 殿下はそのままシャロンのベッドへ進む。
 つまり、そういうことなのだろうか。
 まだ、心の準備ができていない。
 けれど、体の熱が求めている気がする。
 シャロンはぎゅっと彼の首に手を回す。
 体を密着させればどきどきとした鼓動が互いに伝わり合う。
 求めているのはシャロンだけではないはずだった。
 


 

 
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