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出会い
序 雷雨の夜
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激しい雷雨の夜だった。
追手を巻き、ふらつく足でなんとか灯りの方へ向かい力尽きた。
失血が激しかった。脇腹に食らった一撃はあと少しずれていれば致命傷だった。
簡易的な応急処置は済ませたが完全な止血はできていない。不思議と痛みを感じないのはまだ興奮状態が続いているからなのだろう。
ラファーガは必死に足を進める。
仲間ともはぐれてしまった。
朦朧とする意識の中、人影が目に入った気がした。
それに安堵してしまったのだろう。
とうとう彼は力尽き、意識を失った。
次に目が覚めた時、ラファーガは貧しい部屋の中で寝かされていた。
粗末な寝台は硬く、お世辞にも寝心地がよいとは言えない。
少し遠くでパチパチと暖炉の音が響く。
いったい、ここはどこだ?
ゆっくりと辺りを見渡せば、椅子に腰掛けたまま眠っている女性が目に入った。服装からして修道女のように見える。
銀の髪に暖炉の灯りが映え、幻想的な色に染まって見えた。
なんて美しい人なのだろうと息を飲む。
どれほど眠っていたのかはわからないが、おそらく彼女が手当てをしてくれたのだろう。そして自分の寝所を貸してくれたのだ。
途端に申し訳ない気分になる。
女性の寝床を奪ってしまった。そのせいで彼女は椅子に腰掛けたまま眠っている。
どうみてもこの建物は修道院には見えない。
教会だったのだろうか。
起き上がろうとしたが、体に力が入らない。無理をすれば転倒して彼女を起こしてしまうだろう。
そう考えたが、喉の渇きを覚える。
水。
水が欲しい。
しかし勝手の知らない場所だ。
周囲を視線で探る。
その瞬間、雷鳴が轟いた。
椅子に腰掛けて眠っていた彼女がびくりと跳ねる。
「やだ……寝てしまったのね……」
彼女は欠伸をしながら目を擦る。
初めて耳にした声は柔らかく、どこか温かさを感じるものだった。
「あら? お目覚めでしたか?」
彼女はラファーガに気がついた様子で接近してきた。
「み……水を……」
掠れた声が出た。一体どれほどの時間眠っていたのだろう。
彼女はゆったりとした動きで、枕元の水差しから木のカップに水を注ぎ、ラファーガの口元まで運んだ。
「ゆっくり飲んでください」
名乗るよりも先に要求を口にしたラファーガの無礼さを気にも留めていない様子で、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
まさに聖女だ。
神が与えてくれた奇跡だと思った。
「まだあまり喋らない方がいいです。もう少し休んでいてください」
「しかし、ここはあなたの寝床では?」
「ごめんなさい。ここしか寝台がなくて。どうぞよくなるまではここをお使いください」
他人の寝床を使わされていることを不快に思っていると誤解されてしまったようで、ラファーガは申し訳なさでいっぱいになる。
「灯りがあると眠りにくいですね。消します」
水差しの隣に置かれていた燭台の炎に火消しを被せようとする彼女に、待ってと声をかける。
「そのままにして下さい」
「そう、ですか。暗い場所は苦手ですか?」
気遣いを感じる。
蝋燭が消えたところで暖炉の灯りが部屋を照らしているのだが、それでも少しでも明るい場所で彼女の顔を見たかった。
女神の彫刻のように白く滑らかな肌。女神像は彼女を元に作られたのではないかと言うほど整った顔立ちで目元は慈愛に溢れているように思えた。
間違いなく、彼女はラファーガの命の恩人だ。
「側に居てくださいますか?」
怪我で心細くなっているだけだと自分に言い聞かせ、甘えてみれば彼女は小さく「はい」と返事をした。そして椅子を寝台の側に運び、優しく手を握ってくれる。
「朝までここに居ます。安心してお休み下さい」
修道女の器を借りた女神が居る。
温かな手に安心したのだろう。
ゆっくりと目を閉じたラファーガは、そのまま深い眠りに落ちた。
追手を巻き、ふらつく足でなんとか灯りの方へ向かい力尽きた。
失血が激しかった。脇腹に食らった一撃はあと少しずれていれば致命傷だった。
簡易的な応急処置は済ませたが完全な止血はできていない。不思議と痛みを感じないのはまだ興奮状態が続いているからなのだろう。
ラファーガは必死に足を進める。
仲間ともはぐれてしまった。
朦朧とする意識の中、人影が目に入った気がした。
それに安堵してしまったのだろう。
とうとう彼は力尽き、意識を失った。
次に目が覚めた時、ラファーガは貧しい部屋の中で寝かされていた。
粗末な寝台は硬く、お世辞にも寝心地がよいとは言えない。
少し遠くでパチパチと暖炉の音が響く。
いったい、ここはどこだ?
ゆっくりと辺りを見渡せば、椅子に腰掛けたまま眠っている女性が目に入った。服装からして修道女のように見える。
銀の髪に暖炉の灯りが映え、幻想的な色に染まって見えた。
なんて美しい人なのだろうと息を飲む。
どれほど眠っていたのかはわからないが、おそらく彼女が手当てをしてくれたのだろう。そして自分の寝所を貸してくれたのだ。
途端に申し訳ない気分になる。
女性の寝床を奪ってしまった。そのせいで彼女は椅子に腰掛けたまま眠っている。
どうみてもこの建物は修道院には見えない。
教会だったのだろうか。
起き上がろうとしたが、体に力が入らない。無理をすれば転倒して彼女を起こしてしまうだろう。
そう考えたが、喉の渇きを覚える。
水。
水が欲しい。
しかし勝手の知らない場所だ。
周囲を視線で探る。
その瞬間、雷鳴が轟いた。
椅子に腰掛けて眠っていた彼女がびくりと跳ねる。
「やだ……寝てしまったのね……」
彼女は欠伸をしながら目を擦る。
初めて耳にした声は柔らかく、どこか温かさを感じるものだった。
「あら? お目覚めでしたか?」
彼女はラファーガに気がついた様子で接近してきた。
「み……水を……」
掠れた声が出た。一体どれほどの時間眠っていたのだろう。
彼女はゆったりとした動きで、枕元の水差しから木のカップに水を注ぎ、ラファーガの口元まで運んだ。
「ゆっくり飲んでください」
名乗るよりも先に要求を口にしたラファーガの無礼さを気にも留めていない様子で、甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
まさに聖女だ。
神が与えてくれた奇跡だと思った。
「まだあまり喋らない方がいいです。もう少し休んでいてください」
「しかし、ここはあなたの寝床では?」
「ごめんなさい。ここしか寝台がなくて。どうぞよくなるまではここをお使いください」
他人の寝床を使わされていることを不快に思っていると誤解されてしまったようで、ラファーガは申し訳なさでいっぱいになる。
「灯りがあると眠りにくいですね。消します」
水差しの隣に置かれていた燭台の炎に火消しを被せようとする彼女に、待ってと声をかける。
「そのままにして下さい」
「そう、ですか。暗い場所は苦手ですか?」
気遣いを感じる。
蝋燭が消えたところで暖炉の灯りが部屋を照らしているのだが、それでも少しでも明るい場所で彼女の顔を見たかった。
女神の彫刻のように白く滑らかな肌。女神像は彼女を元に作られたのではないかと言うほど整った顔立ちで目元は慈愛に溢れているように思えた。
間違いなく、彼女はラファーガの命の恩人だ。
「側に居てくださいますか?」
怪我で心細くなっているだけだと自分に言い聞かせ、甘えてみれば彼女は小さく「はい」と返事をした。そして椅子を寝台の側に運び、優しく手を握ってくれる。
「朝までここに居ます。安心してお休み下さい」
修道女の器を借りた女神が居る。
温かな手に安心したのだろう。
ゆっくりと目を閉じたラファーガは、そのまま深い眠りに落ちた。
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