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五年後
50 迫られる選択
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「で? その神とやらに体を貸していると?」
カルロスにリリアンヌから聞いた事情を話すと、彼は信じられないと言う表情を見せる。
「ああ、神が力を授けるとも話していた。以前、リリアンヌに聖者の印のようなものが浮かび上がるところを目撃したが、それが神が与えた力なのかもしれない」
本物の聖者の印であれば帝国の系譜であるはずだ。そして、リリアンヌの出自を考えれば帝国の血を受け継いでいるので本物である可能性を捨てきれない。
しかし、リリアンヌの話によると器になる代償として力を与えられるのだという。
「……これは、私の仮説だが……古の聖者も神の器だったのではないだろうか?」
聖者の印は血筋に宿るのではなく、本人が望んで神を受け入れたことによって授かるものだとすれば長い歴史の中に片手で数えられる程度の聖者しか目撃されていないことも納得できる。
高貴な血筋の者が印を得れば記録に残るが、平民であればよほど噂が広がらない限り記録にも残らないだろう。
ただ、不可解なのは神が与えた力があの怪力である可能性だ。どうも一般的な奇跡とかけはなれている気がする。リリアンヌが崇める神がそういった破壊方向の神なのか、リリアンヌがあのような怪力を望んだのか……いや、怪力は白魔法の応用による肉体強化なのであればさほど不自然ではない。
問題は、リリアンヌの素手に対する拘りの方だろうか。
神はなにかを代償にリリアンヌの望む力を与えているのだろうか。
考え込んだところで結論は出ない。
「神の器という話が本当だとして……リリアンヌの肉体を使ったモノは自らを神の使者と表現したのだろう? だとすれば、神は別に存在するのだろうし、神の使者は他にも存在する可能性があるのではないか?」
カルロスの問いはラファーガ自身も考えた可能性だ。
「……この考え方自体、教会からすれば異端だろうな。リリアンヌが修道院とは合わなかったという理由をようやく理解出来た気がするよ」
崇める神が違う。それどころかリリアンヌは神の声を聞くことができた。教会の教えとは違う話をする神の。
そこまで考え、リリアンヌが肌を隠したがる理由を理解してしまった気がした。
そう。異端者の印。
ラファーガはあの模様に見覚えがあった。
「……私は信心深い方ではなかったが……近頃はなにを信じればよいのかわからなくなってきたよ」
リリアンヌが時折気にするように触れる左肩……。
一瞬、彼女の肌を見てしまったときに目に入ったのは確かにあの印だった。
否定したい。
けれども、ここまで来て否定できるだけの要素を集めることができない。
「……帝国では……リリアンヌは邪教徒ということに……なるのだろう?」
「帝国では? 王国でも同じ扱いだろう。そして、同じ神を崇めはじめたお前も。問題は……近頃の事件と関わりがあるか。その部分ではないのか?」
カルロスはきっぱりと、ラファーガも邪教徒だと言い切っている。しかし、彼にとっては崇める神自体はどうでもいいらしい。
「私は宗教などどうでもいい。利用できるのであれば利用する。その程度の存在だ。王国のように教会が力を持ちすぎるのであれば排除するべきだと考えるが、帝国ではそこまでの勢いはない。問題視するほどではない。しかし……神という存在を利用して帝国に害なす存在であればその神ごと排除する必要も出てくる」
個人の狂信であれば大事にするほどではない。その個人を排除すればいい。
ただ、集団狂信であれば大きな問題になる。
「リリアンヌは一連の事件とは無関係だ」
ラファーガは断言した。
しかし、胸の奥ではそう信じ切ることができない。
リリアンヌの肉体を神の使者と名乗る存在が操っている現場を目撃してしまったのだ。事件の時に同じことが起きていないとは言い切れない。
それでも、リリアンヌが無断で屋敷を出ることはなかった。
「彼女はずっとあの村に居たのだ。それに帝都までの道中は常に私と一緒だ。帝都に着いてからは殆ど屋敷で過ごしている。リリアンヌが事件と関わるようなことはないだろう」
「私もリリアンヌが事件を起こしたなどとは考えていない。しかし、邪教徒と同じ神を崇めている可能性は排除できない」
カルロスの言葉を否定する材料を必死に探し、ラファーガはリリアンヌの言葉を思い出す。
「それはありえない。リリアンヌは、我が神の他に神は存在しないのだと断言していた。つまり、邪教徒たちはリリアンヌにとって崇めてはいけない存在を崇めているということだ」
たとえどちらも帝国にとっての邪教であろうと、リリアンヌが崇めている神は例の邪教徒の崇めている神と同じではない。
そして、リリアンヌの崇めている神はラファーガを見つけ接触しようとしている。
本能が危険を知らせる踏み込んではいけないこの先はきっと『神』と触れる可能性のある領域だ。
「リリアンヌもまた味方によれば狂信者だ。その彼女が別の神だと言うのであればある種の説得力はあるかもしれないな」
カルロスは考えるような仕草で僅かに頷いた。
「しかし、ラファーガ……お前も動き方を考えなければいけない。あれを娶るのであれば信仰を棄てさせる程度のことをしなければ、お前の立場も危うくなるだろう」
事件の早期解決。それが一番だとはカルロスも考えているだろう。けれどもそれ以上に『神』との決別が必要なのだと告げている。
ラファーガは今、選択を迫られている。
つまり、リリアンヌの意思を尊重するべきか、己の立場を守るべきか。
「……少し考える時間が欲しい」
「まあ、今すぐに結論は出ないだろう。だが……残された時間はそれほど多くはないぞ」
釘を刺すようなカルロスの言葉が痛い。
「ああ、わかっている。少しひとりになる時間が欲しい」
そう答えたのは逃げなのか、立ち向かう準備なのか。
ラファーガ自身わからないまま、思考の渦に飲み込まれていった。
カルロスにリリアンヌから聞いた事情を話すと、彼は信じられないと言う表情を見せる。
「ああ、神が力を授けるとも話していた。以前、リリアンヌに聖者の印のようなものが浮かび上がるところを目撃したが、それが神が与えた力なのかもしれない」
本物の聖者の印であれば帝国の系譜であるはずだ。そして、リリアンヌの出自を考えれば帝国の血を受け継いでいるので本物である可能性を捨てきれない。
しかし、リリアンヌの話によると器になる代償として力を与えられるのだという。
「……これは、私の仮説だが……古の聖者も神の器だったのではないだろうか?」
聖者の印は血筋に宿るのではなく、本人が望んで神を受け入れたことによって授かるものだとすれば長い歴史の中に片手で数えられる程度の聖者しか目撃されていないことも納得できる。
高貴な血筋の者が印を得れば記録に残るが、平民であればよほど噂が広がらない限り記録にも残らないだろう。
ただ、不可解なのは神が与えた力があの怪力である可能性だ。どうも一般的な奇跡とかけはなれている気がする。リリアンヌが崇める神がそういった破壊方向の神なのか、リリアンヌがあのような怪力を望んだのか……いや、怪力は白魔法の応用による肉体強化なのであればさほど不自然ではない。
問題は、リリアンヌの素手に対する拘りの方だろうか。
神はなにかを代償にリリアンヌの望む力を与えているのだろうか。
考え込んだところで結論は出ない。
「神の器という話が本当だとして……リリアンヌの肉体を使ったモノは自らを神の使者と表現したのだろう? だとすれば、神は別に存在するのだろうし、神の使者は他にも存在する可能性があるのではないか?」
カルロスの問いはラファーガ自身も考えた可能性だ。
「……この考え方自体、教会からすれば異端だろうな。リリアンヌが修道院とは合わなかったという理由をようやく理解出来た気がするよ」
崇める神が違う。それどころかリリアンヌは神の声を聞くことができた。教会の教えとは違う話をする神の。
そこまで考え、リリアンヌが肌を隠したがる理由を理解してしまった気がした。
そう。異端者の印。
ラファーガはあの模様に見覚えがあった。
「……私は信心深い方ではなかったが……近頃はなにを信じればよいのかわからなくなってきたよ」
リリアンヌが時折気にするように触れる左肩……。
一瞬、彼女の肌を見てしまったときに目に入ったのは確かにあの印だった。
否定したい。
けれども、ここまで来て否定できるだけの要素を集めることができない。
「……帝国では……リリアンヌは邪教徒ということに……なるのだろう?」
「帝国では? 王国でも同じ扱いだろう。そして、同じ神を崇めはじめたお前も。問題は……近頃の事件と関わりがあるか。その部分ではないのか?」
カルロスはきっぱりと、ラファーガも邪教徒だと言い切っている。しかし、彼にとっては崇める神自体はどうでもいいらしい。
「私は宗教などどうでもいい。利用できるのであれば利用する。その程度の存在だ。王国のように教会が力を持ちすぎるのであれば排除するべきだと考えるが、帝国ではそこまでの勢いはない。問題視するほどではない。しかし……神という存在を利用して帝国に害なす存在であればその神ごと排除する必要も出てくる」
個人の狂信であれば大事にするほどではない。その個人を排除すればいい。
ただ、集団狂信であれば大きな問題になる。
「リリアンヌは一連の事件とは無関係だ」
ラファーガは断言した。
しかし、胸の奥ではそう信じ切ることができない。
リリアンヌの肉体を神の使者と名乗る存在が操っている現場を目撃してしまったのだ。事件の時に同じことが起きていないとは言い切れない。
それでも、リリアンヌが無断で屋敷を出ることはなかった。
「彼女はずっとあの村に居たのだ。それに帝都までの道中は常に私と一緒だ。帝都に着いてからは殆ど屋敷で過ごしている。リリアンヌが事件と関わるようなことはないだろう」
「私もリリアンヌが事件を起こしたなどとは考えていない。しかし、邪教徒と同じ神を崇めている可能性は排除できない」
カルロスの言葉を否定する材料を必死に探し、ラファーガはリリアンヌの言葉を思い出す。
「それはありえない。リリアンヌは、我が神の他に神は存在しないのだと断言していた。つまり、邪教徒たちはリリアンヌにとって崇めてはいけない存在を崇めているということだ」
たとえどちらも帝国にとっての邪教であろうと、リリアンヌが崇めている神は例の邪教徒の崇めている神と同じではない。
そして、リリアンヌの崇めている神はラファーガを見つけ接触しようとしている。
本能が危険を知らせる踏み込んではいけないこの先はきっと『神』と触れる可能性のある領域だ。
「リリアンヌもまた味方によれば狂信者だ。その彼女が別の神だと言うのであればある種の説得力はあるかもしれないな」
カルロスは考えるような仕草で僅かに頷いた。
「しかし、ラファーガ……お前も動き方を考えなければいけない。あれを娶るのであれば信仰を棄てさせる程度のことをしなければ、お前の立場も危うくなるだろう」
事件の早期解決。それが一番だとはカルロスも考えているだろう。けれどもそれ以上に『神』との決別が必要なのだと告げている。
ラファーガは今、選択を迫られている。
つまり、リリアンヌの意思を尊重するべきか、己の立場を守るべきか。
「……少し考える時間が欲しい」
「まあ、今すぐに結論は出ないだろう。だが……残された時間はそれほど多くはないぞ」
釘を刺すようなカルロスの言葉が痛い。
「ああ、わかっている。少しひとりになる時間が欲しい」
そう答えたのは逃げなのか、立ち向かう準備なのか。
ラファーガ自身わからないまま、思考の渦に飲み込まれていった。
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1話 は 序 のことです、失礼しました。
気遣いができて謙虚で優しいシスターさんが素敵でした! 1話の本文で主人公の性別がはっかり分かるとありがたいかなと思いました(あらすじ読まずに本文へ行ったので)。