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値札のついた愛なんて9
しおりを挟む実技科目もなんとか無事に終わり、前期日程はまずまずの成績でクリア出来た。
冬夜は座学をいくつか落としかけ夏休みも補講があるらしい。
真坂は試験期間は勉強に集中するようにとデートの誘いを断るどころか電話すら殆ど出てくれなかった。
メッセージアプリで連続投稿しても「集中してください」と小言が返ってくる。
親より親みたいなことしてる。
不満に思った。けれども少し嬉しくも感じている。
成績を送り付けたらデートくらいは誘ってくれるだろうか。
優と秀が交互に並んだような通知表を送り付けて反応を待つ。
実技は少し低いが、座学は満遍なく獲れている。
デートのお誘いがなくたって少しくらい褒めてくれるのではないかと期待した。
が、返事がない。
それどころか既読すらつかない。
腹が立つ。
輸入家具のソファーに横たわり、スマホを放り投げる。
手帳型のケースがクッションになったのか、毛足の長いカーペットのおかげか思った程音が響かなかった。
暇だ。
今日は仕事もない。予定もない。
フランス語教材は予定通りに進んでいるし、ドイツ語教材だっていい感じだ。
動画の撮影だとかそういったことをするには企画を立てていないし、外部コンテストに作品を出す予定もないからデザイン画を描くような気分にもなれない。
新作コスメのチェックは一通り終わってほしいものは既に注文している。
かといって暇なときに気軽に呼び出せるような友人がいない。
外へ出てナンパ待ちするのも、フリーの時ならしたかもしれないけれど、一応真坂とは付き合っていることになっている。
自分の中途半端に律儀な性格に腹を立て、一日家で寝転ぶような無駄な時間を過ごしたくないと落ち着かない気分になる。
大学の夏休みは宿題がない。みんな自分の勉強したいことだけ勉強するような有意義な時間の使い方を出来る。
バイトやら旅行やら遊んで終わるようなヤツも多いから、一番差のつく時期だ。
つまり、宿題という暇つぶしがない。
夏休みの最後の方に終わらないから手伝って欲しいと泣きつく冬夜の顔すら見られない。
冬夜は真面目なくせになぜか補講になったり宿題が終わらない時が多いのが不思議だ。
床に転がったスマホを拾い上げ、なんとなく連絡先のリストを確認する。
連絡先リストは呆れる程長いと言うのに、こうやってふと暇になったとき気軽に連絡出来るような相手が居ない。
元交際相手と顔を合わせられるほど図太くないし、連絡先が消えていないのはただ単に面倒くさかっただけだ。
名前を見ても顔すら思い出せないやつも居る。
当然、父から連絡が入っているはずもない。
だらーっとリストを流し見ていると最近入手したばかりの連絡先が目に入る。
すぐに名前と顔が一致する「りんちゃん」は小学校のクラスメイトで高校も一緒だった。
派手好きで目立ちたがり。なんとなくキャラが被っているようなメイクと装い。
気が合うのか合わないのか、趣味もなんとなく似ていて気に入らない。
一番気に入らないのはいつも遙の側に居ることだろう。
美術専攻の学生経由で手に入れた連絡先だから、彼はきっと薫が連絡先を知っていることすら知らない。
いきなり連絡を入れたらどんな反応をするだろう。
悪戯心で電話をかけてみる。
「やっほー、俺、俺」
3コール以内に出られたからいつもの調子で名乗らないでみる。
「誰?」
不快そうな声。とても怪しんでいる様子だ。
そんな声で出るくらいなら知らない番号からの電話なんて出なきゃいいのに。
「凜ちゃんつれないなー。俺、カオル。忘れちゃった?」
「は? カオル? そんな知り合い……は? 雨宮薫?」
どうやら記憶している人物リストの中から発見してくれたらしい。
そのくせに彼は不快そうな声だ。
幼馴染みじゃん。つれないな。
「なんの用? ってかなんで私の連絡先知ってるの?」
「美術の子から聞いた。いやー、久々にさ、お茶しない? 凜ちゃんなら俺の事もよく理解してるでしょ?」
似たもの同士でお互い相手を気に入らないと思っている。
けれど、彼の弱点は理解している。
「付き合ってくれたら服装史のノートコピーさせてあげてもいいよ」
「なっ……」
明らかな動揺。
「凜ちゃんたしか補講組だから……追試あるんじゃなかったっけ? あの試験、ノートの持ち込みオッケーだよ?」
「いく……いけばいいんでしょ! どこよ!」
「じゃあ、住所メッセージに送るね」
お茶代くらいは奢ってあげるよ。
一方的に電話を切ってメッセージアプリに待ち合わせ場所代わりのパーラーの住所を送る。
少し前に真坂とパフェを食べた店だ。
つまり、パフェのリベンジを兼ねて。
友人とパフェをシェアなんてやったことがないなと思いつつ、わざわざ自分を嫌っているであろう相手を呼び出すのがなんだかおかしくなる。
キャラが似ていて気に入らない。
けれど嫌ってはいない。
凜と薫の差はそこだろう。
薫は決して彼を嫌ってはいないのだから。
外出の為に服を選ぶ。
メイクはオフだって完璧にしている。服は着替えられるだけ着替える。体はひとつしかないのだから。
わざと凜が嫌がりそうなハイブランド品ばかり選んだのはたぶんささやかな嫌がらせだろう。
子供の頃から彼が嫌がる姿を見るのが楽しかったような気がする。
ほんっと、性格悪いな。
自覚して、思わず笑ってしまった。
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