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第一章
違和感《ヴィンセント side》①
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◇◆◇◆
────時は少し遡り、クライン公爵家までやって来たセシリアを出迎えた時。
まず、馬車から飛び降りた彼女に驚愕した。
普段なら、絶対にこんなことはしないから。
ようやくあの家から解放されて、はしゃいでいる……のかな?
『意外とお転婆さんなんだね』と考え、僕は何とか自分を納得させる。
頭の中にある違和感を打ち消すように。
『こんなことを考えている僕の方がおかしいんだ』と自制する中、ふと彼女の右耳に目をやる。
あれ?────ピアスをしてない?
僕と色違いで揃えたアクセサリーを思い浮かべ、自身の左耳に触れる。
そこには、宝石のアメジストをあしらったピアスがあった。
『セシリアの方はゴールデンジルコンだけど』と思い返しながら、スッと目を細める。
やっぱり、何かおかしい。
だって、セシリアは毎日のようにそのピアスを身につけていたから。
僕と会う時は尚更。
『必要に応じて付け替えることはあるけど』と考えつつ、セシリアの様子を見守った。
普段なら一も二もなく彼女に駆け寄って、挨拶しているところだが。
『どうも違和感が拭えない……』と悶々としていると、セシリアはこちらを見て笑う。
「会いたかったわ、ヴィンセント!」
キラキラと目を輝かせるセシリアは、人目も憚らず抱きついてきた。
その途端────全身にゾワッとした感覚が走る。
悪寒……?何で?相手はセシリアなのに。
今まで彼女には何をされても平気だったため、言いようのない不安を覚えた。
『僕は一体、どうしてしまったんだ?』と自分の感覚を疑うものの……全身の毛が逆立つような嫌悪感は消えない。
生理的に無理、とすら思ってしまう。
……彼女は本当にセシリアなのか?
馬鹿げた話だと分かっていながら、僕はそんな疑念を抱いた。
『姿形はどう見てもセシリアなのにね……』と自嘲しつつ、一先ず体を引き離す。
「いらっしゃい、セシリア。ゆっくりしていってね」
とてもじゃないが、『僕も会いたかったよ』とは言えず……当たり障りのない返答を口にした。
すると、僕の護衛騎士や執事がハッと息を呑む。
彼らとは付き合いも長いため、僕の反応にどことなく違和感を抱いたのだろう。
『セシリア様に対しては凄くお優しいのに』と狼狽える彼らを他所に、僕は一足早く部屋へ戻った。
本来であれば、今日はセシリアにピッタリくっついて屋敷を案内したり、庭を散歩したりしてゆっくり過ごそうと思っていたのに。
彼女の顔を見た途端、そんな気は失せてしまった。
というより────
「────早く傍から離れないと、うっかり殺しそうで怖かったんだよね」
自室のソファで寛ぎながら、僕は大きく息を吐いた。
自分でもよく分からない変化に戸惑い、やれやれと頭を振る。
と同時に、人差し指をクイクイと動かした。
「お呼びでしょうか?」
そう言って、音もなく僕の前に現れたのは────クライン公爵家の暗部を取り仕切る、アルマン。
色々と謎の多い男だが、腕は確かで暗殺・諜報・隠蔽工作何でもやる。
『元は貴族なんだっけ?』と思い返しながら、僕は足を組んだ。
「セシリアの様子は?」
「現在、お部屋でドレスのカタログを見てらっしゃいます」
床に片膝をついて頭を垂れるアルマンは、短く切り揃えられた紺髪をサラリと揺らす。
『あと、宝石も買いたいと言っていました』と付け足す彼の前で、僕は苦笑を漏らした。
「ここに来て最初にすることが、ソレかぁ……やっぱり、ちょっとおかしいよね」
────時は少し遡り、クライン公爵家までやって来たセシリアを出迎えた時。
まず、馬車から飛び降りた彼女に驚愕した。
普段なら、絶対にこんなことはしないから。
ようやくあの家から解放されて、はしゃいでいる……のかな?
『意外とお転婆さんなんだね』と考え、僕は何とか自分を納得させる。
頭の中にある違和感を打ち消すように。
『こんなことを考えている僕の方がおかしいんだ』と自制する中、ふと彼女の右耳に目をやる。
あれ?────ピアスをしてない?
僕と色違いで揃えたアクセサリーを思い浮かべ、自身の左耳に触れる。
そこには、宝石のアメジストをあしらったピアスがあった。
『セシリアの方はゴールデンジルコンだけど』と思い返しながら、スッと目を細める。
やっぱり、何かおかしい。
だって、セシリアは毎日のようにそのピアスを身につけていたから。
僕と会う時は尚更。
『必要に応じて付け替えることはあるけど』と考えつつ、セシリアの様子を見守った。
普段なら一も二もなく彼女に駆け寄って、挨拶しているところだが。
『どうも違和感が拭えない……』と悶々としていると、セシリアはこちらを見て笑う。
「会いたかったわ、ヴィンセント!」
キラキラと目を輝かせるセシリアは、人目も憚らず抱きついてきた。
その途端────全身にゾワッとした感覚が走る。
悪寒……?何で?相手はセシリアなのに。
今まで彼女には何をされても平気だったため、言いようのない不安を覚えた。
『僕は一体、どうしてしまったんだ?』と自分の感覚を疑うものの……全身の毛が逆立つような嫌悪感は消えない。
生理的に無理、とすら思ってしまう。
……彼女は本当にセシリアなのか?
馬鹿げた話だと分かっていながら、僕はそんな疑念を抱いた。
『姿形はどう見てもセシリアなのにね……』と自嘲しつつ、一先ず体を引き離す。
「いらっしゃい、セシリア。ゆっくりしていってね」
とてもじゃないが、『僕も会いたかったよ』とは言えず……当たり障りのない返答を口にした。
すると、僕の護衛騎士や執事がハッと息を呑む。
彼らとは付き合いも長いため、僕の反応にどことなく違和感を抱いたのだろう。
『セシリア様に対しては凄くお優しいのに』と狼狽える彼らを他所に、僕は一足早く部屋へ戻った。
本来であれば、今日はセシリアにピッタリくっついて屋敷を案内したり、庭を散歩したりしてゆっくり過ごそうと思っていたのに。
彼女の顔を見た途端、そんな気は失せてしまった。
というより────
「────早く傍から離れないと、うっかり殺しそうで怖かったんだよね」
自室のソファで寛ぎながら、僕は大きく息を吐いた。
自分でもよく分からない変化に戸惑い、やれやれと頭を振る。
と同時に、人差し指をクイクイと動かした。
「お呼びでしょうか?」
そう言って、音もなく僕の前に現れたのは────クライン公爵家の暗部を取り仕切る、アルマン。
色々と謎の多い男だが、腕は確かで暗殺・諜報・隠蔽工作何でもやる。
『元は貴族なんだっけ?』と思い返しながら、僕は足を組んだ。
「セシリアの様子は?」
「現在、お部屋でドレスのカタログを見てらっしゃいます」
床に片膝をついて頭を垂れるアルマンは、短く切り揃えられた紺髪をサラリと揺らす。
『あと、宝石も買いたいと言っていました』と付け足す彼の前で、僕は苦笑を漏らした。
「ここに来て最初にすることが、ソレかぁ……やっぱり、ちょっとおかしいよね」
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