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第一章

神聖力③

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「そう。お母様はよく神官と会っていたから」

 『神殿に通っていた』ではなく、『神官と会っていた』?
なんだか、妙に引っ掛かる言い方ね。

「一応聞くけど、どこで会っていたの?」

「家だけど……それがどうかした?」

 『何か変なことでもあったか?』と頭を捻るアイリスに、私は言葉を失う。
だって、神官が頻繁に個人のお宅……それも平民の元へ足を運ぶなんて、有り得ないから。
父と再婚後ならまだしも、貴族の恋人程度ではそこまで手厚い対応を受けられない。
『その神官と個人的に仲が良かったとか?』と悩みつつ、私は一つ息を吐いた。

 とりあえず、このことはヴィンセント達に伝えておこう。
もしかしたら、何かの役に立つかもしれないし……。

「何でもないわ。ただ、珍しいことだったから驚いただけ。それより、アイリスの神聖力についてだけど」

 話を元に戻し、私は再び黒板へ向き直った。
と同時に、チョークを手に取る。

「神聖力を得るには、もう一つ方法があってね。簡単に言うと────自分以外の誰かから、祈ってもらうことよ。例えば、私がアイリスの健康を祈るとするでしょう?それで神様の目に留まったら、私……ではなく、健康を祈られた側のアイリスが神聖力を得られるの」

「ふ~ん」

 まじまじと手のひらを眺めながら、アイリスは『じゃあ、お母様が?』と考え込む。
難しい顔つきの彼女を前に、私はクルリと体の向きを変えた。

「ただ、これはかなり難しくてね……というのも────純粋にその人のことだけを考えなきゃいけないから。私情を入れたら、ダメってこと」

 両手の人差し指を交差させ、私は言葉を続ける。

「さっきの例え話で言うと、私はアイリスが健康になることによって、当主の座を放棄出来るというメリットがあるでしょう?だから、お祈りのときに少しでもそのことを考えたらアイリスに神聖力を与えられない。それは貴方のための祈りじゃなくて、私のための祈りになるから」

「なるほど。確かに難しい条件ね」

 納得したように頷くアイリスは、『一見簡単そうに見えたんだけど』と肩を竦めた。
かと思えば、開けっ放しの窓から青空を見上げる。
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