私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

どの派閥に入るか①

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◇◆◇◆

「────ということがあって、僕はルパート殿下を支持しているんだ」

 『そうじゃなきゃ、僕も中立を守っていた』と語り、ヴィンセントは話を終えた。
と同時に、祖父が身を乗り出す。

「それで、第三皇子派になったのはセシリアのためだからこちらも当然協力するべきだ、と?」

 『責任を取れ、ということか?』と直球で尋ねる祖父に、ヴィンセントは首を横に振る。

「いえいえ、違いますよ。僕はただ、『裏切る心配はない』と……『途中で他の派閥へ乗り換える気はない』と言いたくて、このお話をしたんです。恩を返してほしいなんて微塵も思っていませんし、まず恩を売ったとも思っていません。これは僕が勝手にやったことですから」

 『負担に思う必要はない』と言い切り、ヴィンセントはそっと眉尻を下げた。
そのように受け取られて悲しい、とでも言うように。

「……そうでしたか。疑ってしまい、申し訳ない。歳を取ると、余計なことばかり考えてしまって」

 素直に非礼を詫びる祖父は、深々と頭を下げる。
下手したら、クライン公爵家を敵に回す行いだったと反省しているのだろう。
まあ、そうならないと確信しているからこそ、このような手段に出たんだろうが。

「いえ、お気になさらず。エーデル公爵家を思っての行動だと理解していますから。むしろ、安心しました。フランシス卿が理知的な方だと、分かって」

 父が感情に流される人物だったからか、ヴィンセントはかなり好感を抱いているようだ。
ニコニコと機嫌良く笑う彼を前に、祖父は

「そう言っていただけて、幸いです」

 と、肩を竦める。
と同時に、アイリスへ視線を向けた。 

「どの派閥に入るかは、アイリスが決めなさい。これから先、エーデル公爵家を率いるのはお前なんだから」

 責任重大な選択をアイリスに委ね、祖父は両腕を組む。
『助け船は出さない』とでも言うように。
恐らく、アイリスの覚悟を試しているのだろう。
『当主とは、こういうものなんだ』と現実を突きつける祖父の前で、アイリスは黙り込む。
ドレスのスカート部分をギュッと握り締め、こちらに目を向けた。

「お姉様……」

「いけないよ、アイリス嬢。セシリアはもうすぐ、エーデル公爵家の人間じゃなくなるんだから。そんな大事な選択を……その責任を押し付けちゃダメだ」

 無情なまでにアイリスを突き放し、ヴィンセントは『自分の意志で決めないと』と告げる。
冷たいようだが、今回ばかりは彼が正論だ。
近いうち家を出ていく人間に、家門の未来を委ねてはいけない。
結果的に損をしても、得をしてもアイリスのためにはならないから。

「アイリス、私達貴族はね────」

 一人掛けのソファに腰掛ける妹へ手を伸ばし、私は表情を引き締めた。

「────後悔のない選択をするんじゃないの。その選択を後悔しないよう、これからたくさん頑張るの」
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