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第二章
切羽詰まった状況《マーティン side》①
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◇◆◇◆
────同時刻、皇城の一室にて。
私は意味もなくテーブルの周りをグルグルと回り、苛立っていた。
というのも、カイル・サム・シモンズが捕まってしまったため。
いけ好かない奴ではあったが、皇位継承権争いにおいてかなりいい働きをしてくれていた。
ハッキリ言って、今あいつを失うのは痛手だ。
『神殿からの援助はもう望めないだろうし』と考えつつ、私は前髪を掻き上げる。
と同時に、近くのテーブルを蹴り上げた。
ガシャンと大きな音を立てて倒れるテーブルを前に、私は奥歯を噛み締める。
その瞬間、
「────マーティン、落ち着きなさい」
と、声を掛けられた。
反射的に顔を上げる私の前で、声の主である女性はソファから立ち上がる。
その際、腰まである金髪がサラリと揺れた。
「暴れたところで、事態は好転しないわよ」
真っ赤な瞳でこちらを見つめ、彼女はゆっくりと私の方に向かってくる。
床に散乱したテーブルの破片やティーカップには目もくれない彼女の前で、私は大きく息を吐いた。
「それはそうですが、この状況で『冷静になれ』という方が難しいです、母上」
────皇妃メリッサ・フィーネ・イセリアル。
現状たった一人の皇帝の妻にして、社交界を支配する大輪の花。
元はしがない男爵家の娘だったらしいが、皇帝の子供……つまり、私を身篭ったことでその名を世間に轟かせた。
まるで、ロマンス小説の主人公のように。
まあ、現実は本の物語よりずっと残酷なものだけど。
母の本質をよく理解している私は、後宮で巻き起こった数々の事件を思い返す。
────と、ここで母が私の喉を軽く突いた。
「逆よ、こういう時こそ冷静になるの。恐らく、私達に残された時間はそう多くないから」
「えっ?」
『時間?』と疑問に思い、私は目を白黒させる。
確かに皇位継承権争いの結果が出るまで、もうあまり猶予はないが……そこまで切羽詰まった状態でも、ない筈。
『少なくとも、今すぐどうこうなるレベルでは……』と思案していると、母が表情を引き締めた。
「実は最近、第二皇子派の貴族達が────第一皇子に粛清され始めているのよ」
「なっ……!?」
思わず絶句する私に対し、母は小さく肩を竦める。
「とは言っても、末端の……それこそ、没落寸前の貴族や新興貴族ばかりだけど」
────同時刻、皇城の一室にて。
私は意味もなくテーブルの周りをグルグルと回り、苛立っていた。
というのも、カイル・サム・シモンズが捕まってしまったため。
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ハッキリ言って、今あいつを失うのは痛手だ。
『神殿からの援助はもう望めないだろうし』と考えつつ、私は前髪を掻き上げる。
と同時に、近くのテーブルを蹴り上げた。
ガシャンと大きな音を立てて倒れるテーブルを前に、私は奥歯を噛み締める。
その瞬間、
「────マーティン、落ち着きなさい」
と、声を掛けられた。
反射的に顔を上げる私の前で、声の主である女性はソファから立ち上がる。
その際、腰まである金髪がサラリと揺れた。
「暴れたところで、事態は好転しないわよ」
真っ赤な瞳でこちらを見つめ、彼女はゆっくりと私の方に向かってくる。
床に散乱したテーブルの破片やティーカップには目もくれない彼女の前で、私は大きく息を吐いた。
「それはそうですが、この状況で『冷静になれ』という方が難しいです、母上」
────皇妃メリッサ・フィーネ・イセリアル。
現状たった一人の皇帝の妻にして、社交界を支配する大輪の花。
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まあ、現実は本の物語よりずっと残酷なものだけど。
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────と、ここで母が私の喉を軽く突いた。
「逆よ、こういう時こそ冷静になるの。恐らく、私達に残された時間はそう多くないから」
「えっ?」
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「実は最近、第二皇子派の貴族達が────第一皇子に粛清され始めているのよ」
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「とは言っても、末端の……それこそ、没落寸前の貴族や新興貴族ばかりだけど」
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