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第三章
恐怖
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私────ジェイミーは目の前で繰り広げられていた出来事をただただ呆然と見ているしかなかった。
突然フィル王子が乗り込んできたと思ったら、ブラウン王子は衛兵たちに連れられて出ていってしまいましたし....。
何がなんだか....。
ただ一つ確かなのはフィル王子が私を利用したということだけ。
可笑しいとは思った。
使用人に追い返されそうになっている私と母を助け、ブラウン王子の部屋へ連れていくよう命令したんですから。
フィル王子が私達貧乏貴族にそこまでする義理はない。
だから、可笑しいなとは思っていたがとにかくブラウン王子と婚約破棄したかった私はフィル王子の思惑に気づくことなくブラウン王子の部屋へ行ったという訳だ。
フィル王子に利用されたと自覚し、一番最初に感じたのは恐怖。
彼は私がブラウン王子に殺される前に乗り込んできてくれたが、万が一私が殺されていたとしてもきっと気にしなかっただろう。
むしろ、殺人罪の方が罪が重いからと喜んでいたかもしれない。
目的のためなら手段を選ばない彼のやり方は恐怖でしかない。
「ジェイミー嬢を医務室へ運んであげてください。今ならまだスターリ国屈指の治癒魔導師が控えていると思うので」
「畏まりました」
室内に居たメイドにそう指示を出し、フィル王子は早々に私たちに背を向ける。
その背中には何故だか力強さを感じた。
何かを成し遂げるために決意を固めたようなそんな感じだ。
ふいに私の手から婚約破棄の書類がひらりと舞い落ちた。
あっ、そうでした!婚約破棄!
色々ありすぎて忘れていましたが、私は婚約破棄しに来たんでした!
「あっ、あの!フィル王子、ブラウン王子との婚約を破棄したいのですが....。その、また後日こちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」
今日はさすがに無理だろう。あんなことがあった後だ、いくら婚約者と言えど面会なんて出来る筈がない。
フィル王子は顔だけこちらに向けるとニコッと人当たりの良さそうな笑みを浮かべる。
「申し訳ありませんが、それは許可できません。またブラウンが逆上してジェイミー嬢に手を出すかもしれませんから」
「....なっ、ならせめてこの書類にサインして頂くことは....?」
「婚約破棄は当人たちが直接会ってその場で行うものですので、それは厳しいかと....。ですが、ご安心ください。貴方とブラウンが結婚する未来は絶対にやって来ませんので」
一瞬だけ....本当に一瞬だけフィル王子の瞳に禍々しい黒いものが宿っているように見えた。
彼の笑みはとても優しい筈なのにゾッとするほど恐ろしく感じる。
「では、私はこれで失礼しますね。怪我、お大事になさってください」
フィル王子は顔を正面に戻すと、もう二度とこちらを振り返ることなくこの場をあとにした。
突然フィル王子が乗り込んできたと思ったら、ブラウン王子は衛兵たちに連れられて出ていってしまいましたし....。
何がなんだか....。
ただ一つ確かなのはフィル王子が私を利用したということだけ。
可笑しいとは思った。
使用人に追い返されそうになっている私と母を助け、ブラウン王子の部屋へ連れていくよう命令したんですから。
フィル王子が私達貧乏貴族にそこまでする義理はない。
だから、可笑しいなとは思っていたがとにかくブラウン王子と婚約破棄したかった私はフィル王子の思惑に気づくことなくブラウン王子の部屋へ行ったという訳だ。
フィル王子に利用されたと自覚し、一番最初に感じたのは恐怖。
彼は私がブラウン王子に殺される前に乗り込んできてくれたが、万が一私が殺されていたとしてもきっと気にしなかっただろう。
むしろ、殺人罪の方が罪が重いからと喜んでいたかもしれない。
目的のためなら手段を選ばない彼のやり方は恐怖でしかない。
「ジェイミー嬢を医務室へ運んであげてください。今ならまだスターリ国屈指の治癒魔導師が控えていると思うので」
「畏まりました」
室内に居たメイドにそう指示を出し、フィル王子は早々に私たちに背を向ける。
その背中には何故だか力強さを感じた。
何かを成し遂げるために決意を固めたようなそんな感じだ。
ふいに私の手から婚約破棄の書類がひらりと舞い落ちた。
あっ、そうでした!婚約破棄!
色々ありすぎて忘れていましたが、私は婚約破棄しに来たんでした!
「あっ、あの!フィル王子、ブラウン王子との婚約を破棄したいのですが....。その、また後日こちらにお伺いしてもよろしいでしょうか?」
今日はさすがに無理だろう。あんなことがあった後だ、いくら婚約者と言えど面会なんて出来る筈がない。
フィル王子は顔だけこちらに向けるとニコッと人当たりの良さそうな笑みを浮かべる。
「申し訳ありませんが、それは許可できません。またブラウンが逆上してジェイミー嬢に手を出すかもしれませんから」
「....なっ、ならせめてこの書類にサインして頂くことは....?」
「婚約破棄は当人たちが直接会ってその場で行うものですので、それは厳しいかと....。ですが、ご安心ください。貴方とブラウンが結婚する未来は絶対にやって来ませんので」
一瞬だけ....本当に一瞬だけフィル王子の瞳に禍々しい黒いものが宿っているように見えた。
彼の笑みはとても優しい筈なのにゾッとするほど恐ろしく感じる。
「では、私はこれで失礼しますね。怪我、お大事になさってください」
フィル王子は顔を正面に戻すと、もう二度とこちらを振り返ることなくこの場をあとにした。
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