婚約破棄？そもそも、貴方誰ですか？

第四章

発覚

 僕───シルフはディアナが書いたであろう報告書を握り締めながら必死に怒りを抑え込む。
 ディアナの様子が変だったのがどうも気掛かりで報告書を横取りしようとフェンガロフォス国内を探し回ったは良いけど....まさか学校でこんなことがあったなんて...。
 スターリ国第三王子ブラウン....絶対に許さない。
 僕の大切なディアナに危害を加えようとしたなんて....！！
 それにサラマンダーもサラマンダーだ！
 何で殺さなかったの？ディアナに仇なす者は徹底的に排除するって言ってたじゃん！最近のサラマンダーは変だよ！ディアナの意思や感情にばかり気を取られて守るべきものをきちんと守れてない！
 感情が高ぶり、それに呼応するかのように僕の回りに竜巻が巻き起こる。
 落ち着かなきゃ.....ここで暴走するわけにはいかない。

「おや？シルフではありませんか。怖い顔してどうしたのです？」

 マルティネス公爵家の中庭に居る僕に話し掛けてきたのは僕と同じ四大精霊のウンディーネ。
 僕は無言で握り締めていた紙をウンディーネに差し出した。
 キラリとウンディーネの目が光る。
 もしかしたら、ウンディーネも僕と同じ目的でここに来たのかもしれない。
 じゃなきゃ、わざわざこいつが僕に話し掛けてくるなんてあり得ないもん。
 僕ら四大精霊は別に仲が良い訳じゃない。
 ディアナという共通の宝物があるから話をするだけでディアナが居なければ僕らはきっと顔を合わせることもなかった。

「これは....久々に大暴れしなくてはなりませんね。全く...私の愛するディアナに危害を加えようなんて命知らずも良いところです」

 ウンディーネは表情こそ笑顔だが、滲み出る殺気が隠せていない。
 こいつも相当ぶちギレている。
 まあ、僕も結構キレてるけどね。
 気を抜いたら暴走しそうなくらいには。

「シルフ、一旦精霊国へ戻りますよ」
 
「は？何で？このままスターリ国に突撃で良いじゃん。国１つくらい僕らだけで滅ぼせるんだから」

「ふふふっ。まあ、確かにそうですが....地獄を見せてあげたいとは思いませんか？」

 なるほど.....ウンディーネは相変わらず冷酷な男だ。
 前回サン国を滅ぼしたときは皆怒りに任せて大魔法を展開させていたので大して痛みを感じることなく国民たちはあの世へと旅立っていた。
 だが、ウンディーネは今回スターリ国をサン国と同じように滅ぼすのではなく、きちんと痛みと恐怖を味わわせてから国民や貴族を殺し、滅ぼしたいと言っているのだ。
 さすがに国民一人一人に僕らだけで痛みや恐怖を与えるのは少し無理がある。
 だから、他の精霊達も連れていきたいと...。
 良いね。面白い。
 それに他の精霊達だって“ディアナのため”なら喜んでやってくれる筈だ。
 ニヤリと口端を意地悪く吊り上げて笑う僕と黒い笑みを携えるウンディーネ。
 さあ、地獄へのカウントダウンを始めようか。