フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました

あーもんど

文字の大きさ
14 / 52
Episode2

縁切りの儀式

しおりを挟む
「問題ない!それは恐らく、相手の最後の抵抗だ!本当に縁を切られそうで……いや、体から追い出されそうで焦ってんだよ!だから、続けろ!」

 『こうやって言い淀んでいること自体、相手の思うツボだ』と告げ、俺は揺れる家具や不気味な影に意識を向けた。
第三者が儀式に関わるのは良くないので、極力手を出さないようにしているが……もし、物理攻撃を仕掛けてくるようなら対処しないといけないため。
『所詮、最後っ屁だろうけどな』と思案する俺の前で、高宮二郎は何とか気を取り直す。
口元を汚す黒い液体をそのままに、

「許さぬ……!」

 言霊の続きを口にした。
その瞬間────高宮二郎の体から、パンッと弾かれるようにして泥が飛び出る。
恐らく、アレこそ神の力の一部であり欠片だろう。

 この時点でもう高宮二郎の体には、入れなくなっている。
あとは仕上げだけだ。

 『さあ、最後まで気を抜くなよ』と目を細める中、高宮二郎はおもむろに手を広げた。
かと思えば、

「一回叩いて、貴方様との出会いを否定し」

 パンッと大きく手を叩く。

「二回叩いて、貴方様との日々を屠り」

 再び強く手を叩き、高宮二郎は真っ直ぐ前を向いた。

「三回叩いて、貴方様との今後を拒絶する」

 最後にもう一回勢いよく手を叩いて、彼は大きく息を吸い込む。

こく────貴方様とのご縁もここまでなり!」

 その言霊を合図に、飛び散った泥神の力の欠片は霧のように消え失せ、家具の揺れも収まった。
ただ、変色した盃や高宮二郎の口元を汚す黒い液体はそのままだが。

 普通は元通りになるんだけどな……さすがは神とでも言うべきか、痕跡を残していきやがった。

 『とりま、全部お焚き上げかなぁ』と思案しつつ、俺は高宮二郎の肩を叩く。

「お疲れ……様です。無事成功しましたよ」

 『やべ、またタメ口になっていた』と焦り、俺は内心大慌てで敬語を使った。
が、本人はそれどころじゃないのか両手を組んでカタカタ震えている。
どうやら、成功した喜びよりも恐怖の方がまさっているようだ。

「……小鳥遊さん」

「はい、なんです?」

「私、もう面白半分に降霊術なんてしません……」

「是非そうしてください。マジで今回は運が良かっただけなんで。まあ、視える体質の貴方なら放っておいてもあちらから寄ってきそうですが。今は例のお守りも効力を失ったみたいですし」

 棚の上に置かれた赤い布袋を見つめ、俺は小さく肩を竦める。
すると、高宮二郎に縋り付かれた。

「お、お願いします!私にもお守りを作ってください!お金はいくらでもお支払いしますので!」

「いくらでも……!?」

 思わず反応を示すと、悟史は半ば呆れたように苦笑を浮かべる。

「食いつきいいな~」

「うるさい。こっちは万年金欠なんだから、しょうがないだろ」

「今は僕からの受講料、あるじゃん」

「今は、な」

 含みのある言い方をする俺は、『はぁ……』と深い溜め息を零す。

「この師弟関係はあくまで、お前を一人前にするまでの間だけだ。よって、無駄遣いは出来ない」

「ふーん?壱成は・・・そう考えている訳ね」

「はっ?」

 『何が言いたい?』と訝しむ俺に対し、悟史はゆるりと口角を上げる。

「僕はたとえ一人前になっても、末永くよろしくしたいなぁって思っているけど?」

「末永くとか、言うな。気持ち悪い」

「可愛い弟子に対して、それはないでしょ」

 『ひどーい』と野次を飛ばしてくる悟史に、俺は蹴りを入れる。
と言っても、軽くだが。
本気でやって怒らせたら、困るし。
『及川兄弟にボコボコにされる』と思いつつ、俺は高宮二郎を引き離した。

「とにかくお守りについてですが、俺のお手製で良ければ差し上げます。一個、一万で」

「なかなかのボッタクリ」

 『材料費千円も掛からないのに』と零す悟史に、俺は大きく息を吐く。

「いや、自分で言うのもなんだが、俺のお守りは超すげぇーからな。一万でも安いくらいだ」

 『残りの九千円は技術料だ、技術料』と言い、俺は前髪を掻き上げた。

「とにかく、今回の報酬と合わせて欲しい個数分の代金を銀行に振り込んでおいてください。そしたら、ここの住所に宅配で送るんで」

「お守りを宅配って、なんか近代的だね~」

「神の力を宿したお守りならともかく、人間の手で作ったお守りなんてこんなんもんだ」

 茶々を入れてくる悟史を軽く受け流し、俺は『じゃあ、最後にお清めだけしときます』と述べた。
と同時に、部屋全体と高宮二郎自身を清める。
ついでに礼服やダンボールなど、お焚き上げするものをまとめておいた。
一応、御札も貼ってしっかり保全していたので数日は大丈夫だろう。

「お焚き上げは出来るだけ、早く行くようにしてください。では、そろそろ失礼します」

 高宮二郎にペコリと頭を下げ、俺は身を翻した。
悟史と共に例の高級車へ乗り込み、やっとの思いで帰路に着く。
たった数時間の攻防ではあったものの、相手が神ということもあってどっと疲れた。

「それにしても……まさか、本当に────縁切りの儀式を成功させるとはな」

 流れる景色をぼんやり見つめながら呟くと、悟史は直ぐさま食いつく。

「えっ?どういう意味?壱成は成功するって信じていたんじゃないの?」

「ああ、信じていたさ。でも、心情的にはどこか半信半疑だったというか……」

「理論上は可能だけど、実際に出来るとは思わなかった的な?」

「そう、それに近い感覚だな」

 人差し指を立てて大きく頷く俺に、悟史は『ふーん』と相槌を打つ。

「ちなみに何で半信半疑だったの?」

「縁切りの儀式に必要な条件を満たしてなかったからだ」

「その条件って?」

「ずばり────相手対象の名前だな。この手の儀式は効果範囲をしっかり定めるために、ターゲットを識別出来る何かがなくてはならない。その上で、名前は一番重要なんだ」

 まあ、今回はその辺の細かい部分を対象の位置・・を把握することで補ったんだが。
あらゆる場所と繋がれる特性を持つ風の気だからこそ、出来たことだな。
俺や悟史じゃ、こうは行かない。

 『だから、高宮二郎にやらせたんだ』と肩を竦め、俺はシートの背もたれに寄り掛かった。

「何はともあれ、丸く収まって良かったってことで────今日はちょっとお高い焼肉でも行くか」

「おっ?師匠の奢り?」

「んな訳ねぇーだろ。てか、付いてくる気だったのか?」

「うん。だって、まだまだ聞きたいこともたくさんあるし」

 『一応、まだ講義中なんだけど?』と言い、悟史も少し体勢を崩した。
かと思えば、運転手の及川兄に行き先変更を告げる。
どうやら、本気で一緒に焼肉を食べるつもりのようだ。
『ったく、面倒くせぇ……』と毒づきながらも、俺は仕方なく悟史と晩飯を食べる。
そして、後日────高宮二郎から、お守り三十個の注文を受けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...