あやかし花屋の花売り少女

あーもんど

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第三章

その三

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 猫又からの明らかな拒絶に烏天狗は黒曜石にも似た黒い瞳を大きく見開いた。
 ....さすがに見舞い相手を聞くのは不謹慎だったか...。
 と今更ながら己の失態に気がつく烏天狗。
 だが、後悔したところでもう遅い。
 烏天狗の軽率な発言に気を悪くしたらしい猫又は烏天狗と目を合わせようとしない。
 目を合わせるのすら、嫌がる猫又に烏天狗は『やってしまった...』と反省しながら、距離を取った。
 嫌がる相手に無理矢理近付こうとするほど、烏天狗は馬鹿じゃない。
 余計なお世話を焼いてしまう烏天狗だが、それくらいは弁えている。
 やっちまったなぁ....。
 もうちょい発言には気をつけねぇーと。
 普段無表情&無関心を貫く少女と居るせいか、本音がついつい漏れ出てしまうのだ。
 少女に本音を打ち明けても、彼女は黙って聞いているだけなので言葉を選ぶ必要もなければ、話す内容に気を配る必要もなかった。
 極端かもしれないが、少女に対しては何を言っても良いという認識があったのだ。
 接客のときくらい気をつけねぇーとな。
 俺のせいで客足遠退いたら、嫌だし....。
 少女の保護者兼アルバイトとして、ここに居るのに迷惑なんてかけたら本末転倒である。
 烏天狗は猫又に『悪かった』と謝罪してから、彼に背を向け中断した作業に戻っていく。
 猫又は遠退いていく背中にほっとし、息を吐き出した。
 全く...!不謹慎にも程があるにゃ!
 見舞い相手が誰だろうと、あの烏には関係にゃいのに...!
 変に詮索してくる奴は嫌いにゃ!
 二本の尻尾をゆらゆら揺らしながらプリプリ怒っていると、猫又の元に少女が戻ってきた。
 その手には一見蝶のような形に見える花───アルストロメリアが握られている。
 アルストロメリアの主な特徴は花びらにある筋状の条斑スポットと呼ばれる模様があることだ。これは虫を呼び寄せて、自分の花粉を運んでもらうために入った模様だと言われている。
 アルストロメリアは花持ちも良く、多彩な色の品種があるため、大変人気が高い花だった。
 赤とオレンジの暖色系を好んで作られた簡易的なブーケは可愛らしい。
 少女は肌寒い季節だからと、あえて暖色系を選んだ。

「出来たわ。これで良いかしら?」

 少女は身長が低い猫又にもよく見えるよう、少し屈んで見せる。
 猫又はそんな少女の気遣いに『ありがとにゃ』とお礼を言ってから、そっと近付いた。
 凄く可愛い花にゃ!独特な模様も個性的で素敵だにゃ!
 猫又はすっかり、この花が気に入ってしまったみたいだ。

「この花で良いにゃ!お代をお支払いするにゃ!」

「分かったわ」

 少女は片手で花束を抱き直すと、前足で器用にポシェットから千円札を取り出した猫又から代金を受け取る。
 くしゃくしゃなそれを受け取ると、少女は注文の品であるアルストロメリアの花束を慎重な手つきで猫又に手渡した。
 小柄な猫又を気遣って、アルストロメリアの茎を短めに切り揃え小さめのブーケになるよう気を使ったそれは今、猫又の前足に抱かれている。
 器用に前足を使う猫又は花束が落ちないよう気を配りながら、少女に向かって恭しくこうべを垂れた。

「素敵な花をありがとうにゃ。また機会があったら寄らせてもらうにゃ」

「ご丁寧にありがとう。また縁があったら会いましょう」

 妙に礼儀正しい猫又に習い、少女も小さく頭を下げる。
 そんな二人のやり取りをどこか羨ましそうに烏天狗は見つめていた。
 くっ....!!除け者にされたせいか、お辞儀し合う二人が羨ましく感じるぜ...!!
 基本構ってちゃんな烏天狗は一人だけ除け者にされることを嫌う。
 そのため、ちょっとだけ....本当にちょっとだけ二人のやり取りが羨ましく感じたのだ。

「それじゃあ、我はもう行くにゃ」

「ええ、気をつけて」

 猫又は礼儀正しく少女に軽く会釈してから、本通りに向かって歩き出した。
 お見舞い相手は本通りの奥の方にある市立病院かしらね?
 猫又の歩いていった方向を見つめながら、そんな憶測を立てるが詮索するのは野暮だと少女はかぶりを降った。
 お客様のプライベートに首を突っ込むのは良くないわ。
 少女は小さくなった猫又の背中を一瞥し、店内へ視線を戻す。
 スモーキークォーツの瞳には烏天狗が花言葉大図鑑片手に花をチェックする姿が映る。
 どうやら、図鑑に載っている花の写真と実物を見比べているらしい。
 花に興味を持つのは良い傾向よ。
 花について語り合える仲間が出来るかもしれない、と少女は密かに胸を踊らせた。

 あっ、そういえば....アルストロメリアの花言葉を教えるのすっかり忘れてたわ...。
 お客様に花言葉を教えないといけないルールはないのだが、いつもきちんと教えてから店から送り出していたので違和感と言うか、むず痒さが残る。
 まあ、特に聞かれなかったし、悪い花言葉ではないから大丈夫でしょう。
 小さくなった猫又の背中を追い掛けてまで教えることでもないだろうと判断し、少女は通常業務に戻る。
 その手にはやはり毎度お馴染みの霧吹きが握られていた。
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