41 / 48
第三章
その三
しおりを挟む
猫又からの明らかな拒絶に烏天狗は黒曜石にも似た黒い瞳を大きく見開いた。
....さすがに見舞い相手を聞くのは不謹慎だったか...。
と今更ながら己の失態に気がつく烏天狗。
だが、後悔したところでもう遅い。
烏天狗の軽率な発言に気を悪くしたらしい猫又は烏天狗と目を合わせようとしない。
目を合わせるのすら、嫌がる猫又に烏天狗は『やってしまった...』と反省しながら、距離を取った。
嫌がる相手に無理矢理近付こうとするほど、烏天狗は馬鹿じゃない。
余計なお世話を焼いてしまう烏天狗だが、それくらいは弁えている。
やっちまったなぁ....。
もうちょい発言には気をつけねぇーと。
普段無表情&無関心を貫く少女と居るせいか、本音がついつい漏れ出てしまうのだ。
少女に本音を打ち明けても、彼女は黙って聞いているだけなので言葉を選ぶ必要もなければ、話す内容に気を配る必要もなかった。
極端かもしれないが、少女に対しては何を言っても良いという認識があったのだ。
接客のときくらい気をつけねぇーとな。
俺のせいで客足遠退いたら、嫌だし....。
少女の保護者兼アルバイトとして、ここに居るのに迷惑なんてかけたら本末転倒である。
烏天狗は猫又に『悪かった』と謝罪してから、彼に背を向け中断した作業に戻っていく。
猫又は遠退いていく背中にほっとし、息を吐き出した。
全く...!不謹慎にも程があるにゃ!
見舞い相手が誰だろうと、あの烏には関係にゃいのに...!
変に詮索してくる奴は嫌いにゃ!
二本の尻尾をゆらゆら揺らしながらプリプリ怒っていると、猫又の元に少女が戻ってきた。
その手には一見蝶のような形に見える花───アルストロメリアが握られている。
アルストロメリアの主な特徴は花びらにある筋状の条斑と呼ばれる模様があることだ。これは虫を呼び寄せて、自分の花粉を運んでもらうために入った模様だと言われている。
アルストロメリアは花持ちも良く、多彩な色の品種があるため、大変人気が高い花だった。
赤とオレンジの暖色系を好んで作られた簡易的なブーケは可愛らしい。
少女は肌寒い季節だからと、あえて暖色系を選んだ。
「出来たわ。これで良いかしら?」
少女は身長が低い猫又にもよく見えるよう、少し屈んで見せる。
猫又はそんな少女の気遣いに『ありがとにゃ』とお礼を言ってから、そっと近付いた。
凄く可愛い花にゃ!独特な模様も個性的で素敵だにゃ!
猫又はすっかり、この花が気に入ってしまったみたいだ。
「この花で良いにゃ!お代をお支払いするにゃ!」
「分かったわ」
少女は片手で花束を抱き直すと、前足で器用にポシェットから千円札を取り出した猫又から代金を受け取る。
くしゃくしゃなそれを受け取ると、少女は注文の品であるアルストロメリアの花束を慎重な手つきで猫又に手渡した。
小柄な猫又を気遣って、アルストロメリアの茎を短めに切り揃え小さめのブーケになるよう気を使ったそれは今、猫又の前足に抱かれている。
器用に前足を使う猫又は花束が落ちないよう気を配りながら、少女に向かって恭しく頭を垂れた。
「素敵な花をありがとうにゃ。また機会があったら寄らせてもらうにゃ」
「ご丁寧にありがとう。また縁があったら会いましょう」
妙に礼儀正しい猫又に習い、少女も小さく頭を下げる。
そんな二人のやり取りをどこか羨ましそうに烏天狗は見つめていた。
くっ....!!除け者にされたせいか、お辞儀し合う二人が羨ましく感じるぜ...!!
基本構ってちゃんな烏天狗は一人だけ除け者にされることを嫌う。
そのため、ちょっとだけ....本当にちょっとだけ二人のやり取りが羨ましく感じたのだ。
「それじゃあ、我はもう行くにゃ」
「ええ、気をつけて」
猫又は礼儀正しく少女に軽く会釈してから、本通りに向かって歩き出した。
お見舞い相手は本通りの奥の方にある市立病院かしらね?
猫又の歩いていった方向を見つめながら、そんな憶測を立てるが詮索するのは野暮だと少女は頭を降った。
お客様のプライベートに首を突っ込むのは良くないわ。
少女は小さくなった猫又の背中を一瞥し、店内へ視線を戻す。
スモーキークォーツの瞳には烏天狗が花言葉大図鑑片手に花をチェックする姿が映る。
どうやら、図鑑に載っている花の写真と実物を見比べているらしい。
花に興味を持つのは良い傾向よ。
花について語り合える仲間が出来るかもしれない、と少女は密かに胸を踊らせた。
あっ、そういえば....アルストロメリアの花言葉を教えるのすっかり忘れてたわ...。
お客様に花言葉を教えないといけないルールはないのだが、いつもきちんと教えてから店から送り出していたので違和感と言うか、むず痒さが残る。
まあ、特に聞かれなかったし、悪い花言葉ではないから大丈夫でしょう。
小さくなった猫又の背中を追い掛けてまで教えることでもないだろうと判断し、少女は通常業務に戻る。
その手にはやはり毎度お馴染みの霧吹きが握られていた。
....さすがに見舞い相手を聞くのは不謹慎だったか...。
と今更ながら己の失態に気がつく烏天狗。
だが、後悔したところでもう遅い。
烏天狗の軽率な発言に気を悪くしたらしい猫又は烏天狗と目を合わせようとしない。
目を合わせるのすら、嫌がる猫又に烏天狗は『やってしまった...』と反省しながら、距離を取った。
嫌がる相手に無理矢理近付こうとするほど、烏天狗は馬鹿じゃない。
余計なお世話を焼いてしまう烏天狗だが、それくらいは弁えている。
やっちまったなぁ....。
もうちょい発言には気をつけねぇーと。
普段無表情&無関心を貫く少女と居るせいか、本音がついつい漏れ出てしまうのだ。
少女に本音を打ち明けても、彼女は黙って聞いているだけなので言葉を選ぶ必要もなければ、話す内容に気を配る必要もなかった。
極端かもしれないが、少女に対しては何を言っても良いという認識があったのだ。
接客のときくらい気をつけねぇーとな。
俺のせいで客足遠退いたら、嫌だし....。
少女の保護者兼アルバイトとして、ここに居るのに迷惑なんてかけたら本末転倒である。
烏天狗は猫又に『悪かった』と謝罪してから、彼に背を向け中断した作業に戻っていく。
猫又は遠退いていく背中にほっとし、息を吐き出した。
全く...!不謹慎にも程があるにゃ!
見舞い相手が誰だろうと、あの烏には関係にゃいのに...!
変に詮索してくる奴は嫌いにゃ!
二本の尻尾をゆらゆら揺らしながらプリプリ怒っていると、猫又の元に少女が戻ってきた。
その手には一見蝶のような形に見える花───アルストロメリアが握られている。
アルストロメリアの主な特徴は花びらにある筋状の条斑と呼ばれる模様があることだ。これは虫を呼び寄せて、自分の花粉を運んでもらうために入った模様だと言われている。
アルストロメリアは花持ちも良く、多彩な色の品種があるため、大変人気が高い花だった。
赤とオレンジの暖色系を好んで作られた簡易的なブーケは可愛らしい。
少女は肌寒い季節だからと、あえて暖色系を選んだ。
「出来たわ。これで良いかしら?」
少女は身長が低い猫又にもよく見えるよう、少し屈んで見せる。
猫又はそんな少女の気遣いに『ありがとにゃ』とお礼を言ってから、そっと近付いた。
凄く可愛い花にゃ!独特な模様も個性的で素敵だにゃ!
猫又はすっかり、この花が気に入ってしまったみたいだ。
「この花で良いにゃ!お代をお支払いするにゃ!」
「分かったわ」
少女は片手で花束を抱き直すと、前足で器用にポシェットから千円札を取り出した猫又から代金を受け取る。
くしゃくしゃなそれを受け取ると、少女は注文の品であるアルストロメリアの花束を慎重な手つきで猫又に手渡した。
小柄な猫又を気遣って、アルストロメリアの茎を短めに切り揃え小さめのブーケになるよう気を使ったそれは今、猫又の前足に抱かれている。
器用に前足を使う猫又は花束が落ちないよう気を配りながら、少女に向かって恭しく頭を垂れた。
「素敵な花をありがとうにゃ。また機会があったら寄らせてもらうにゃ」
「ご丁寧にありがとう。また縁があったら会いましょう」
妙に礼儀正しい猫又に習い、少女も小さく頭を下げる。
そんな二人のやり取りをどこか羨ましそうに烏天狗は見つめていた。
くっ....!!除け者にされたせいか、お辞儀し合う二人が羨ましく感じるぜ...!!
基本構ってちゃんな烏天狗は一人だけ除け者にされることを嫌う。
そのため、ちょっとだけ....本当にちょっとだけ二人のやり取りが羨ましく感じたのだ。
「それじゃあ、我はもう行くにゃ」
「ええ、気をつけて」
猫又は礼儀正しく少女に軽く会釈してから、本通りに向かって歩き出した。
お見舞い相手は本通りの奥の方にある市立病院かしらね?
猫又の歩いていった方向を見つめながら、そんな憶測を立てるが詮索するのは野暮だと少女は頭を降った。
お客様のプライベートに首を突っ込むのは良くないわ。
少女は小さくなった猫又の背中を一瞥し、店内へ視線を戻す。
スモーキークォーツの瞳には烏天狗が花言葉大図鑑片手に花をチェックする姿が映る。
どうやら、図鑑に載っている花の写真と実物を見比べているらしい。
花に興味を持つのは良い傾向よ。
花について語り合える仲間が出来るかもしれない、と少女は密かに胸を踊らせた。
あっ、そういえば....アルストロメリアの花言葉を教えるのすっかり忘れてたわ...。
お客様に花言葉を教えないといけないルールはないのだが、いつもきちんと教えてから店から送り出していたので違和感と言うか、むず痒さが残る。
まあ、特に聞かれなかったし、悪い花言葉ではないから大丈夫でしょう。
小さくなった猫又の背中を追い掛けてまで教えることでもないだろうと判断し、少女は通常業務に戻る。
その手にはやはり毎度お馴染みの霧吹きが握られていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる