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第二章
敵わない人
今までも何度か対人戦闘を行ったことは、ある。でも、人殺しをしたことはなかった。
だって、一線を越えてしまったら……私の中の何かが変わってしまうと、思ったから。
だからと言って、これは王族として……そして、一人の戦士として恥ずべきことではない。むしろ、誇るべきことだ。敵の首を見事討ち取ったのだから……。
『戦士の誉れだ』と自分に言い聞かせるものの、ショックは隠し切れない……。
私は小刻みに震える体を抱きしめ、ギシッと奥歯を噛み締めた。
戦争に参加すると決めた時から、殺人は覚悟していたのに……嗚呼、本当に情けない。私はいつから、こんなに弱い人間になったのかしら……?
「─────ニーナ王女」
重苦しい沈黙を破るように、声を上げたのは────ケイト王妃陛下だった。
彼女は何か吹っ切れたように、晴れやかな表情を浮かべている。仮にも身内を殺されたのに、だ。
「どうか、気に病まないでちょうだい。長い間、民を苦しめた彼らはカラミタ王国の汚点そのもの……殺されて当然のことをして来たの。だから、どうか……彼らの死を悔やまないで。殺したことを後悔しないで」
青髪翠眼の美女は、罪悪感に苛まれる私をただひたすら慰める。
その言葉があまりにも優しくて……泣きそうになった。
「貴方のやったことは、間違いじゃない。だから、迷わないでちょうだい。ただ前を向いて、成すべきことをして」
ケイト王妃陛下はそう言うと、私の手を優しく包み込んだ。
伝わってくる肌の温度に目を細める中、私の手は彼女の首元に添えられる。
ケイト王妃陛下に手の位置を固定されているため、避けることは不可能だった。
このまま力を入れれば、彼女の首はあっという間に折れてしまうだろう。それくらい細くて、脆いから……でも────何故か、とても力強く感じる。
「ニーナ王女……いえ、ニーナ・ホールデン。カラミタ王国を滅ぼしに来てくれて────ありがとう。最後に会えて、本当に良かった」
そう言って、ケイト王妃陛下は花の綻ぶような美しい笑みを浮かべた。
後悔なんて一切感じさせない態度に、私は感銘を受ける。
ケイト王妃陛下の潔さには、目を見張るものがあるわね。ここまで真っ直ぐに……そして、淡々と死を受け入れる人は見たことがないわ。
やっぱり、ケイト王妃陛下の国民愛には敵わないわね。
「ニーナ・ホールデンの名にかけて、カラミタ王国の国民は必ず保護します!無意味な虐殺はしません!だから─────安心して逝ってください、ケイト王妃陛下……!」
目に涙を滲ませながら、私は呪術魔法を展開する。
『せめて、綺麗に殺してあげよう』と、魔法で彼女の生気を吸い取った。
すると────さっきまで笑顔だったケイト王妃陛下の表情は崩れる。
と同時に、彼女の体はバランスを崩し、こちらに寄りかかって来た。
ケイト王妃陛下の亡骸を抱き止め、私は『最後の最後まで強い人だったな』と考える。
「貴方の死は絶対に無駄にしません……!だから、どうか今は─────安らかにお眠り下さい!」
だんだん冷たくなっていく亡骸を抱き締めながら、私は複雑な感情を押し殺した。
だって、一線を越えてしまったら……私の中の何かが変わってしまうと、思ったから。
だからと言って、これは王族として……そして、一人の戦士として恥ずべきことではない。むしろ、誇るべきことだ。敵の首を見事討ち取ったのだから……。
『戦士の誉れだ』と自分に言い聞かせるものの、ショックは隠し切れない……。
私は小刻みに震える体を抱きしめ、ギシッと奥歯を噛み締めた。
戦争に参加すると決めた時から、殺人は覚悟していたのに……嗚呼、本当に情けない。私はいつから、こんなに弱い人間になったのかしら……?
「─────ニーナ王女」
重苦しい沈黙を破るように、声を上げたのは────ケイト王妃陛下だった。
彼女は何か吹っ切れたように、晴れやかな表情を浮かべている。仮にも身内を殺されたのに、だ。
「どうか、気に病まないでちょうだい。長い間、民を苦しめた彼らはカラミタ王国の汚点そのもの……殺されて当然のことをして来たの。だから、どうか……彼らの死を悔やまないで。殺したことを後悔しないで」
青髪翠眼の美女は、罪悪感に苛まれる私をただひたすら慰める。
その言葉があまりにも優しくて……泣きそうになった。
「貴方のやったことは、間違いじゃない。だから、迷わないでちょうだい。ただ前を向いて、成すべきことをして」
ケイト王妃陛下はそう言うと、私の手を優しく包み込んだ。
伝わってくる肌の温度に目を細める中、私の手は彼女の首元に添えられる。
ケイト王妃陛下に手の位置を固定されているため、避けることは不可能だった。
このまま力を入れれば、彼女の首はあっという間に折れてしまうだろう。それくらい細くて、脆いから……でも────何故か、とても力強く感じる。
「ニーナ王女……いえ、ニーナ・ホールデン。カラミタ王国を滅ぼしに来てくれて────ありがとう。最後に会えて、本当に良かった」
そう言って、ケイト王妃陛下は花の綻ぶような美しい笑みを浮かべた。
後悔なんて一切感じさせない態度に、私は感銘を受ける。
ケイト王妃陛下の潔さには、目を見張るものがあるわね。ここまで真っ直ぐに……そして、淡々と死を受け入れる人は見たことがないわ。
やっぱり、ケイト王妃陛下の国民愛には敵わないわね。
「ニーナ・ホールデンの名にかけて、カラミタ王国の国民は必ず保護します!無意味な虐殺はしません!だから─────安心して逝ってください、ケイト王妃陛下……!」
目に涙を滲ませながら、私は呪術魔法を展開する。
『せめて、綺麗に殺してあげよう』と、魔法で彼女の生気を吸い取った。
すると────さっきまで笑顔だったケイト王妃陛下の表情は崩れる。
と同時に、彼女の体はバランスを崩し、こちらに寄りかかって来た。
ケイト王妃陛下の亡骸を抱き止め、私は『最後の最後まで強い人だったな』と考える。
「貴方の死は絶対に無駄にしません……!だから、どうか今は─────安らかにお眠り下さい!」
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