悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第一章

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◇◆◇◆

 さて、どうするか。

 三十人近く居る使用人を前に、私は両腕を組む。
少しでも、威圧感を出そうと思って。
まあ、全くもって効果なしだが。
訳も分からずポカンと固まっている使用人達を見つめ、私は『ふむ……』と考え込む。

 イザベラの記憶を辿る限り、まず下働きのメイドは全員ダメだな。
カルロスの指示とはいえ、嬉々としてイザベラを虐げてきたから。
でも、他はどうか分からない。
というのも、一切関わってこなかったため。
イザベラの世話はメイドの仕事だったので、他の役職と関わる機会が少なかったのだ。

 『どうやって、線引きするか』と悩み、私は顎を撫でた。
どうにかして粛清対象を絞ろうとする私の前で、一人のメイドが口を開く。

「な、何で立っていられるんですか……?前まで起き上がるのも、一苦労だったのに……」

 転移させられたことより元気になった私が気になるようで、彼女は呆然とこちらを見つめていた。
幽霊でも見たかのような反応を示す彼女に、私はスッと目を細める。
『確か、こいつはイザベラを率先して虐げていたやつ……』と思い返しながら、両腕を組んだ。

「この程度の体調不良、魔力循環をきちんと行えば屁でもないぞ」

 『治癒魔法を掛けるまでもない』と言い切り、銀髪を手で払う。
そもそも、イザベラの体調不良の原因は長年不衛生な場所に置かれ、栄養のある食事を摂れなかったから。
まだ未成熟な体ということもあり、体力や免疫力が極端に低かった。
でも、それは魔力循環である程度補うことが出来る。
『魔導師の体が丈夫なのはそのおかげ』と考えつつ、私は一歩前へ進んだ。

「それより、貴様は自分の立場を分かっているのか?」

「へっ……?」

「貴様の主人は私。にも拘わらず、随分とやってくれたなぁ?」

「ひっ……」

 メイドの頭上に光の矢を設置すると、彼女は見るからに青ざめた。
ガクガクと震えながら自分自身を抱き締め、腰を抜かす。
先程の転移魔法もあり、私が覚醒したことを悟ったのか、彼女の表情は瞬く間に恐怖へ染まった。

「ち、違うんです……!あれはカルロス様に言われて仕方なく……!私だって、本当はあんなこと……!」

「それにしては、随分とノリノリだったじゃないか。命令にない筈の暴力まで、振るって」

「そ、それは……その……」

「でも、私は寛大だからな────私を嘲り、虐げた者達を一人残らず教えてくれれば一発殴るだけで許してやろう」

 敢えて『殺さない』『生かしてやる』などの言葉を使わず、具体的な処罰方法だけ提示する。
こいつのことだから、きっと『所詮は子供の力』と侮ると思って。
『これなら、粛清対象もバッチリ絞れて一石二鳥』と浮かれる中、メイドはパッと表情を明るくした。

「ほ、本当ですか……!」

 弾けるような笑顔を見せ、僅かに身を乗り出す彼女はキラキラと目を輝かせる。
笑ってしまうほど予想通りの展開に、私はスッと目を細めた。

「ああ」

 緩みそうになる頬を手で抑え、小さく首を縦に振ると、メイドはグルリと周囲を見回す。
そして、一瞬の躊躇いもなく────

「あ、あの子!リリアーナって言うんですけど、いつもご主人様の洋服だけ洗濯をサボっているんです!臭いから触りたくないって!それで、あっちの男はご主人様の料理に泥水を混ぜていました!カルロス様には、『食事の量を減らせ』としか言われていないのに!それで、そっちの冴えない男は────」

 ────彼女は同僚達を売った。
嬉々として悪行をバラしていき、右へ左へ人差し指を動かす。
さすがは性悪女とでも言うべきか……この状況を半分楽しんでいた。
恐らく、他人を絶望のどん底へ陥れることが愉快で堪らないのだろう。

 こいつの性格、本当に終わっているな。
ここまで来ると、いっそ清々しいぞ。

 半ば感心してしまう私は、一向に終わる気配のない暴露に耳を傾ける。
時折、他の使用人から『違う!』『やっていない!』と抗議が入るものの、一先ずスルー。
────と、ここでようやくメイドの口が止まった。
『以上です!』と達成感の満ち溢れた顔で言い、胸を張る。
どこかスッキリした様子の彼女に対し、他の使用人達は『お前、よくも……!』と憤っていた。
すっかり仲間割れしている使用人達を前に、私はゆるりと口角を上げる。

 なるほど。メイドの話を総合すると、馬丁と一部の見習い従者以外はみんなクズということか。
まあ、カルロスの命令と考えれば情状酌量の余地はありそうだが……指示にないことまでしている奴が多い。
まとめて、躾けるべきだろう。

 『少なくとも、無罪放免は有り得ない』と判断し、私はメイドへ向き直る。
と同時に、グッと拳を握り締めた。

「そうか。情報提供、感謝する。では、歯を食いしばれ」

 そう言うが早いか────私はまず、メイドを殴り飛ばす。
魔法で身体強化してから攻撃したため、彼女の体はふわりと宙を舞い、窓ガラスにぶつかった、
幸い、外へ放り出されることはなかったが、ガラスの粉砕により頭を切っている。
まあ、今までの行いを考えればまだ軽い方だろう。

「約束通り、貴様の処罰はこれで終わりだ。さあ、次へ行こうか」

 淡々とした口調でそう言うと、他の使用人達は悲鳴を上げてこちらに背を向けた。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく使用人を前に、私は結界を展開する。
狩りのように獲物を追い掛けて仕留めるのも一興だが、あいにくそこまで暇じゃない。

 時間は有限。さっさとイザベラの願いを叶えて、魔法の研究に打ち込まなければ。

 『まだ色々やり残したことがある』と思い返しつつ、使用人達を結界で囲い込む。
これで退路は断たれた。

「ち、力を合わせれば何とかなるんじゃないか……?相手は子供だし……」

 従者と思しき男性が発した提案に、使用人達はハッとする。
それがどれほど愚かな考えかも知らないで。

 ほう?逃げずに向かってくるというのか。
いいだろう。受けて立つ。

 『面白い』と頬を緩める中、使用人達は緊張した面持ちでこちらを見た。
かと思えば、いきなり方向転換して一斉に襲い掛かってくる。
『数で押せば、何とかなる』と判断したらしい。

「くくくっ……!子供の浅知恵より、酷い短絡思考だな」

 『もうちょっと工夫を凝らせ』と苦情を述べつつ、私は────周囲の重力を操った。
その途端、襲い掛かってきた使用人達の体は床へ沈む。

「か、体が……動かない」

「っ……!?潰れちゃう……!」

「お、お助けを……!」

 あっという間に返り討ちに遭った使用人達は、早くも白旗を挙げた。
ミシミシと鳴る骨と痛む内臓に、危機感を煽られたらしい。
このままでは死んでしまう、と。
無様に命乞いしてくる彼らの前で、私はフッと笑みを漏らす。

 馬鹿め。子供だと侮るから、こうなるんだ。

 涙目でこちらを見上げる使用人達に半ば呆れつつ、私は『それにしても、随分と呆気なかったな』と考える。
本音を言うと、もう少し楽しませてほしかったところだが……まあ、いいだろう。
『元はと言えば、カルロスのせい』ということもあり、彼らにこれ以上のパフォーマンスを求めるのは諦めた。

「安心しろ、殺す気はない。ただ、主人が誰かも分からない働きアリ共を躾けるだけだ」

 今後の生活なども考えると、使用人は必要不可欠。
一応新たに雇用する手もあるが、仕事に慣れるまでの時間や手間を思うと、気が進まない。
こちらとしては、きちんと仕事さえこなしてくれればいいので、一先ず現状維持だ。
『心のこもったお世話や忠誠心は二の次』と判断し、私は彼らの利き手に圧力を掛ける。
そして小指の骨を粉砕すると、重力を元に戻した。

「これからはしっかり仕えろよ」

 『お利口にしていれば、小指を治してやる』と言い渡し、私はそっとこの場を後にした。

 当面の間はこれで問題ない筈。
カルロスからの横槍が入れば、話は別だろうが……まあ、アレはそのうち潰す予定だから自然と従順になるだろ。

 ギャレット一家は目障りなので、イザベラのことを抜きにしても消そうと考えている。
本家を乗っ取ろうとする分家なんて、百害あって一利なしだから。
などと思いながら、私は屋敷を一通り見て回った。
イザベラの記憶だけでは、心元なかったため。

「ふむ……予想はしていたが、イザベラの服やアクセサリーはほとんどないな。よし、用意させるか」

 ────ということで、私は早速メイドを呼び出し、仕立て屋と宝石商に行かせた。
鬼気迫る勢いで買い物を済ませてきたメイドに褒美をやり、私は着替える。
海のように真っ青なドレスと真珠のネックレスを身につける自分を眺め、ちょっと気を良くした。
これで少しは公爵令嬢らしくなっただろう、と。

 髪も毛先を揃える程度だが、手入れしてもらったし、それなりに見える筈。

 『よしよし』と満足しながら、私は空腹感に誘われるまま食堂を訪れた。
ビクビクした様子で給仕するメイドに促され、席に着く。
すると、これまた顔面蒼白の料理長が出てきて……目の前に料理を並べられた。

 ほう。これは……くくっ!そういうことか。

 イザベラの食してきた料理とは似ても似つかないソレらを前に、私はニヤリと笑う。
『あいつ、手段を選ばずに来たな』と心の中で呟きながら。

「念のため、一つ聞いておこう────この料理の仕上げ・・・をしたのは、貴様らか?」
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