無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第二章

第59話『僕のフィアンセ』

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 僕───────マモンの婚約者はドラゴンの女の子だった。
艶やかな金髪に海にも似たアクアマリンの瞳を持つ彼女は美しく、それでいて聡明で·····僕とは正反対の女の子だった。

「マモン!聞いてちょうだい!ルシファーったら、また勝手に外出したのよ!あれだけ単独行動はダメって言ってるのに!もう!」

「まあ、ルシファーだしね~。レヴィもいい加減諦めたら良いのに~」

「あー!またそうやって、ルシファーの肩を持つ!少しくらい婚約者である私の味方をしてくれたって良いじゃないの!ふん!」

「あははっ!ごめんごめん。レヴィ、機嫌直して」

 僕は拗ねたように頬を膨らませる彼女─────レヴィアタンが愛らしくて、仕方なかった。
ルシファーの自由奔放な行動を諌めるレヴィは凄く真面目で優しくて····最高の女性であることは間違いない。魔族の誰もがレヴィと結婚する僕を羨んだ。

 でも───────────僕は結局レヴィと結婚式を挙げることが出来なかった。

◆◇◆◇

 全てが明るみに出たのは──────────ルシファーのひょんな一言。

「なあ、レヴィアタン。君は────────私に何か隠しているね?」

 魔王と幹部のみで行われる幹部会議で、ルシファーは唐突にその一言を放った。確信めいた声色にレヴィはアクアマリンの瞳をスゥーと細める。いつもの笑顔の筈なのに彼女の笑みはどこまでも冷たく感じた。
 な、何···!?何なの?ルシファーもレヴィも一体何が····!?
 状況をいまいち飲み込めないが、レヴィが何か仕出かしたことは理解出来る。じゃなきゃ──────あの温厚なルシファーが怒る筈ない。
ルシファーは基本温厚だ。争いを好まず、平和を望む珍しい魔族。世界の誕生のときから、ずっと一緒に居る僕やレヴィに対しては特に甘かった。どんなトラブルを引き起こしても『仕方ないな』の一言で済ませてしまうほど···。そんなルシファーがレヴィに怒りを抱くなんて····珍しいどころじゃない。初めてだ。

「うふふっ。ルシファーったら、怖い顔してどうしたの?」

「しらばっくれるつもりか?」

「うふふっ。まさか····ある意味最高の幕引き・・・じゃない?」

 クスクスと口に手を当てて、上品に笑うレヴィはゆっくりと席を立った。海にも似た青い瞳は愉快げに細められている。僕の知らないレヴィが····そこには居た。

「ねぇ、ルシファー····いつから、気づいていたの?私が人族に情報を流していた────────“裏切り者”だって」

 頭を鈍器で殴られたような強い衝撃が僕の脳内に走った。
レヴィが人族に情報を流していた?僕達魔族の情報を?彼女が裏切り者····?そんな!何で····!?
 確かに最近····いや、ずっと前から情報漏洩が激しいなとは思っていた。人族にパンドラの箱を奪われた時も、召喚陣を奪われた時も····なんか可笑しいなとは思っていたんだ····。明らかに幹部クラスの人間しか知らない情報も人族に回っていたし、僕やルシファーの戦闘スタイルや癖を見抜かれている感じもしてた。
 前々から確かにあったんだ────────情報漏洩に関する違和感が。
でも、それを言ってしまったら仲間を疑わなきゃいけない事態に陥る····。魔族のトップを張る僕らが疑心暗鬼に捕らわれたら、お終いだ。だから、今までスパイ探しをしてこなかった。
 でも─────────ルシファーは見つけてしまった。裏切り者を·····。

「疑い始めたのはもう随分昔からだ。レヴィは上手く隠していたみたいだが、君は人一倍破壊衝動が強い。だから、裏切り者の最有力候補として警戒していた」

「うふふっ!さすがルシファーね。私が人一倍破壊衝動が強いこと見抜いてたなんて。それで確信を持ち始めたのは?」

「最近だ。人族に流れた情報を改めて整理していた時、レヴィアタンにしか教えていない情報が多数含まれていることに気がついた」

「で、今日鎌をかけたと?」

「そうだな。あえて、私の外出先を教えてお前がどう出るか観察していた。案の定、人族と連絡を取っていたがな····」

 パラパラと崩れ去っていく僕の大切な砂のお城。何年もかけて必死に組み立てたそれはほんの一瞬で壊れた。
 レヴィの破壊衝動が強い····?人族に情報を流していた犯人?裏切り者····?
 破壊衝動とは魔族全員に現れる衝動のことだ。人族で言う思春期みたいなもので、若者に現れやすい。破壊衝動にも幾つか種類があるが、物を壊す方の破壊衝動がメジャーだ。

「ま、待ってよ!ルシファー!レヴィは僕らと同い年!破壊衝動なんて、とっくに終わって····」

「そうだな。普通であれば、もう破壊衝動は終わっていても可笑しくない。だが─────────レヴィは普通と違う。こいつの破壊衝動は物を壊す程度では収まらないものだ。だから、今も尚続いている」

 えっ?物を壊す程度では収まらない····?それって、まさか····。

「────────レヴィの破壊衝動はこの世界を壊すことでしか、収まらない。最低最悪のものだ」

 破壊衝動の種類の中に『全壊』というものがある。それは名前の通り、全部壊さないと気が済まない破壊衝動のことだ。この破壊衝動を持つ人は本当に稀で、滅多に居ない。
過去に数人出会ったことがあるけど、みんな狂ったように生き物や物を壊して·····正直見ていられなかった。
破壊衝動が『全壊』の者は牢に閉じ込め、気が済むまで暴れさせて破壊衝動を発散させるのが魔族の決まりだけど·····多分、レヴィの破壊衝動は暴れたくらいじゃ収まらない。文字通り、全部壊さないと衝動が収まらないんだ。
だって──────────ものを壊して収まるのなら、この歳まで破壊衝動を引き摺っていない。
破壊衝動の期間の長さがレヴィの破壊衝動の強さを物語っていた。

「レヴィアタン、分かっていると思うが情状酌量の余地はない」

 『破壊衝動だから仕方ない』と片付けるにはレヴィは余りにも····やり過ぎた。物には限度ってものがある。
 レヴィも最初からそれが分かっていたのか、にっこり笑うだけでルシファーに何か言うことはなかった。多分、レヴィにとっては自分の命すらも破壊衝動の対象なんだろう。だから、死ぬことに恐怖を抱いていない。
 ─────────この時の僕はやけに冷静だった。

「───────ルシファー、僕にやらせて」

「·····いや、私が···」

 婚約者を自らの手で殺すと言ってのけた僕にルシファーは渋い顔をして、首を振る。ルシファーは昔からそうだ。僕ら魔族の優し過ぎる王様は自ら泥を被りたがる。今だって、僕のことを気遣って許可を出さなかった。
 でもね、違うんだ。違うんだよ、ルシファー····。僕は多分ここで····自分の手でレヴィを殺さなかったら一生後悔する。

「ねぇ、ルシファー。お願いだよ────────壊すなら、自分の手で壊したい」

「っ·····!!分かった。レヴィアタンの処刑を許可しよう····」

「ありがとう」

 僕は優し過ぎる上司から目を逸らし、最愛の女性を見つめた。金髪碧眼の美少女は中身のない空っぽな笑みを僕に向ける。
 多分、この子は最初から空っぽだったんだ。そして、僕は────────空っぽなこの子の心を満たしてあげられなかった。
 不甲斐ない僕でごめんね?レヴィ····。
 席を立った僕は笑顔で佇むレヴィの前までゆっくり歩み寄ると、その柔らかな頬に手を滑らせる。

「····ねぇ、マモン」

「何···?」

「私を──────────綺麗に殺して」

 彼女は泣きもせずにただ笑って、そう言った。
 これが──────彼女の最初で最後のお強請り。
『綺麗に殺して』か····うん、良いよ。綺麗に殺してあげる。君がそう望むなら····。
 僕はレヴィのワガママに小さく頷き、ゆっくりと····焦らすように顔を近づけた。

「愛してるよ、レヴィ····」

 大きく目を見開いたレヴィが何か口にする前に僕は彼女の唇を塞いだ。初めて感じる彼女の柔らかくも甘い唇に少しだけ泣きたくなる。
結婚式でのキスを楽しみにしていた彼女のために互いにファーストキスをとっておいたと言うのに····そのファーストキスがまさか、こんな形で消え去るとは····。
 僕はヴァンパイアのみが使うことが出来る生気吸収を使って、レヴィの唇から彼女の生気を吸い上げた。
流石はドラゴン····凄い生気の量だ。
 僕は閉じていた目をうっすら開き、レヴィの顔を盗み見る。
僕の目に映ったのは幸せそうに微笑む彼女だけ····。
この状況下でも君はそんな表情かおが出来るんだね····。
 チュッとリップ音を立てて、レヴィの唇から口を離した時には─────────彼女はもうこの世に居なかった。穏やかに眠る彼女の死に顔は美しく····それでいて綺麗だ。
 レヴィ····約束通り、ちゃんと綺麗に殺したよ?満足した?

「────────ねぇ、レヴィ。君が望めば僕はどこまでも君と一緒に·····逃げ続けたよっ····!!」

 僕の腕の中で眠る君からはもう返事など返って来なかった。
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