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第0機動小隊、結成!

馬鹿なやつ

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「…………誰もいない場所で話そうとは思っていたが……既にこの部屋には私たち以外誰もいないか……」

 気の遠くなるほど長かった座学の時間が終わりを告げて2分。
 まさかの呼び出しを食らってしまった、今日は模擬戦だのと色々疲れたからそろそろ眠って休みたいってのに……

「え……えと、何の話……なんでしょうか?」

「何の話……そうだな、先程貴様ら全員に伝えた『ヴェンデッタ』の話だ」
 
 ヴェンデッタ……新機体の話か……?!

「…………実は、この小隊の中から1人、そのヴェンデッタの搭乗者を決める事になっていた。

 ……とは言え、貴様らが乗る事になるであろうヴェンデッタは、機動性を重視した2番目の機体だが、それでも十分だろう」

「え……決める事になってて、僕を呼び出した……って事は……」

「———つい先程も口にしたが、搬入されるヴェンデッタは機動性を重視した方の機体だ。よって機動力の技能に優れた者を乗せる、と言う取り決めになっている。

 …………そこで選ばれたのが貴様だ」

「やっぱり———!」



「…………喜ぶがいい、貴様がヴェンデッタ2号のパイロットだ」

 お……おおおっ!
 ヴェンデッタ……ヴェンデッタ!
 新OSを備えた、新世代の機体…………かぁ。



「浮かない顔だな、リコのように喜んでくれるものだと思っていたのだが」

「…………まあ、そうですね……ここで喜ぶのが普通なんでしょうけど…………今は気分が沈んでて。…………そのリコに言われたんです、そのままだと、僕は『自分の位置』を見失う、って。

 だからその言葉が引っかかって、僕が乗ってもいいのかな……って」


「……?
 もう少し……詳しく聞かせてくれないか」


「僕、サイドツーに乗る目的……ってのが、あまり定まってなくって、結局リコにそれを問われた時、『死にたくないから』……

 ……いいや、戦場できちんと戦えるようにするため……結局『死にたくない』ってのに帰結するんですけど、まあとりあえずはそう答えて……で……そしたら……国だの政治だのと言い始めて……」



「それで『自分の位置』を見失うと言われた、か…………あの馬鹿め、一体何を言いふらした……!」

「えっあの、聞いちゃまずかった話ですか?!」


 ……そうだ、よくよく考えてみれば、教官———ライさんは、この国の中枢ちゅうすうに関わる近衛騎士の一角なんだ、なんだって僕はこの人の前でそんな話を———!



「ああ、はっきり言うと……まずい。特に貴様には———知ってほしくない話だ。

 ……もちろん他の者にも知ってほしくはないのだが、それでも、そのリコの件に関しては、貴様には知ってほしくはなかった」

「知ってほしくなかった、って……」


「いや、もう気にしなくていい。じきに分かる話だ。

 それより、……いいや、リコの言うことは本当だ。貴様はを持たなければ、この先起こる事には絶対に対処できなくなる。

 私からは言えないが、それだけのことがこれから起こってしまうのだ、それを私たちは知っている。

 だからこそ、例え誰と敵対する事になっても———自らの芯は捨てるな、貴様だけのを見つけておけ。

 これより起こるは動乱の運命、我が行くは修羅の道、貴様らが直視するべき場所ではないのだ。

 ……だからこそ、混乱の中にあっても決して流されず、を、芯を持て。…………私から言えるのはこれだけだ」


「あ、ありがとう……ございます、えっ……」

 今、しれっと言った。言った、絶対に言ったはずだ。
『我が行くは修羅の道』、と。

 何を、何をする気なんだ、教官は。
 何で僕には話せないことがある? なぜ『芯』を持たなければいけない? どうしてその何かが起こることを、教官は知っている?

 だめだ分からない、全くもって検討がつかない、それでも……!


「……えっ、でも、教官…………教官が何をしでかすつもりかは分からない……んですけど、でも、でもどうか……自分がやって後悔するようなことは……しないで、ほしい……です……」


「後悔するような…………か」

「……はい、なぜか……今の教官を見てると……何だか、教官自身が後悔だったり……色んなことを思うようなことを……引き起こす気でいる、って気がして……でも、それってダメだと思うんです。

 自分がやって後悔することはすべきじゃない、例えそれが誰かの為であろうとも、その方が絶対にいいはずなんです……!

 ……だから、教官がこれから何をするのか、なんて検討もつかないけど、僕に引き止められるなら……引き止めておきたいなと……」




 無言。
 冷たい空気の中、それでも時間は無慈悲にも流れてゆく。
 ……言わないほうがよかったかな。止めても意味なかったかな、いやでも止めないと嫌な感じがして……でも余計だったかな……




 しかし、間をおいて一言。


「止まる気は、ない」



「……やっぱり、ホントに何かをするつもりなんですね」

「…………ああ、貴様にとっても、耐え難いことを……行う事になるだろう。だが私は、この現状を見て……それでもなお、止まる気はないと決意した身。

 悪魔に魂を売ってまで『力』を手に入れたのだ、例え誰に何を言われようと……歩みを止める気は、ない。

 だが、貴様がどう言う人間か、それは今ので分かった」

「どう言う人間、か……?」



「優しい人間だ、それでいて、

 ———馬鹿なやつだ、貴様は……と」



「馬鹿なやつ、ですか……それでもいいです、そのままでもいいから……引き止めておきたかったんです。

 ……もし機会があるのなら、もう一度引き止めます。何が起こるのかは分からないけど、それでも最後まで引き止めるのが、今の僕の———芯です」



「そうか。……ではまた明日だ、余計な詮索せんさくはするなよ———っ?!」

「ななな、なんですかコレーーっ?!」



 話が終わろうかとした瞬間だった。突如、大音量でブザーが鳴り響く。

 聞いていて不快になる不協和音にて構成されたブザーは、聞く者の心に不安と恐れを植え付ける。

「……チッ、もうお出ましか……前線は何をやっているんだ………………どうやら呼び出しらしい、貴様らは放送あるまで待機だ、自分の部屋で心情を整理しておけ!」

「えっいや、ちょ……」

 もはや呼び止めた声も虚しく、教官は既に部屋からはいなくなっていた。


「なんなんだ……一体なんなんだよ……!」
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