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屍山血河〜王都防衛戦〜
述べし少年の決意
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アイツ———アイツが、Ξ標的……!
ショーゴを、そして部隊のみんなを、あっという間に葬った化け物、そして仇!
『接近するにつれ光線が増えていくぞ、撃墜されないように注意し、用心しながら接近しろ!
……コーラス7、今は貴様が先導している、特に狙われやすいのは貴様だということを十分に理解しておけ!』
言われなくとも分かってる。
何度も何度も、もう多すぎて何回なのか数えるのを諦めるほど何度も、光線が機体を掠める。
それでもなお僕は生きていて、未だこの場に立ち続けると言うのなら———、この命、ここで棄てる気で挑むっ!!
「死ねええええええっ!!!!」
サイドツー用小銃をすぐさま取り出し、一刻も早くその方向に撃ち込む。
反動制御———だとかはどうでもいい、敵の図体は無駄にデカいんだ、どこに当てたって一緒だろ!
「———はあ……はあ、は……」
Ξ標的の周り、その上の方を旋回しながら、発砲時の煙が晴れるのを待つ。
———見えてきた、ヤツの様子は———っ?!
「た……隊長、教官……、こい……コイツ、攻撃が……ライフルによる攻撃が———効いてませんっ!」
煙の隙間からはみ出たその姿には———せめて1発でも、砲撃による傷がついてなきゃおかしいんだ。あれだけ撃ったんだ、数撃ちゃ必ず当たるはず、なのに。
なのに———なんで、ヤツには砲撃痕はおろか、傷もヨゴレすらも付いていないんだ……!
『———全機、撤退だ』
?!
突如教官が口にした、撤退命令。
「教官?! いや、撤退……って言ったって、ここまで来たってのに、それで撤退……だなんて」
『撤退だ! 我らの装備では倒せない、一度撤退して体制を立て直す』
嘘だろ、ここまで来ておいて、そりゃあないだろう……?!
『ヤツが纏っているのは神力障壁だ、魔力探知式レーダーが効かなかったのも頷ける。おそらく神力式の探知レーダーでも同様だっただろう。
同時に、通常兵器ではあの神力障壁は破ることすら難しい。……今の我々は、魔術による強大な攻撃手段を持たないからな……だからこその撤退だ、だから貴様らもこの命令を———』
聞け、だと?
……無理に決まってるだろ、死者も出してるんだ、命をもかけてここまで来たんだ。そう簡単に、たった一声で撤退———なんて、させてたまるか。
「破ることすら難しい———つまり、ずっと攻撃を与え続けていれば破れるんですよね?!」
『……』
「答えてください、教官!!」
スラスターを何度も点火しながら。回転しゆく機体なぞいざ知らず、今は自分のやるべきことに集中すべきだ。
『———ああ、ずっとやっていれば、そのうち神力障壁は劣化し崩壊していく。……しかしそれまで耐えれるというのか?』
「耐える、耐えないの問題じゃありません。……僕たちは、既にさまざまな犠牲を払ってここにいます。そして、僕たちを送り出してくれた王都のみんなの想いをも背負っています」
『感情論の話か、そんなもので貴様はこの命令に背くと?』
「それだけじゃありません、敵は固定砲台としての運用を前提として建造された機体の可能性が高い、と先程の考察でも結論が出ていました。
もしこのまま撤退し、Ξ標的が王都付近まで来るのに待ち構えるとしても、ヤツはおそらくある程度最前線から離れた場所から光線を放つはずです。
……つまりは、放置しておくとヤツは遠隔照射に出て、もう手がつけられなくなるということ。
それは先程の海岸防衛線の際、Ξ標的は遠く離れた海上より、一方的に攻撃を行っていた事実からも容易に推測がつくはずです」
そう、あの時。
他の神話的生命体はこちらに押し寄せてきているのに、Ξ標的のみが海上にとどまり、そしてこちらに対して砲撃を繰り返していたのだから。
だからこそ、そこから———ショーゴが死んだ瞬間の、目に焼き付けたそのうざったい姿から導き出した、僕なりの結論、そしてここで退けない最大の理由。
「つまり、今ここで———一番接近できている僕たちが撃破行動に出ることこそが一番確率が高く、なおかつ今できる最善の行動であると信じ、撤退ではなく全機前進、Ξ標的の撃破行動に出るべきであると結論を出し、具申した次第です。
何より———僕はここじゃ退きたくありません。僕とコンビを組んだショーゴも、その他大勢の命がヤツの前に散っていきました。
……もう僕はそれを見ることは———できない、ここで決着をつけておきたいんです!
最初っからそのつもりで、僕はここに来たのだから、だから———せめて、せめて最期まで———ショーゴの為にも戦わせてください、お願いしますっ!!!!」
無言の時間が続く。
機体や戦況はせわしなく動き続けていたが、誰も発言する者はおらず、静寂が場を支配した後。
『合格だ。……………………無駄には散らすな』
その声のみが、一瞬完全に停滞した戦場に鳴り響いた。
「———はい、コーラス7、ケイ・チェインズ、Ξ標的の撃破行動に移ります!!!!」
ショーゴを、そして部隊のみんなを、あっという間に葬った化け物、そして仇!
『接近するにつれ光線が増えていくぞ、撃墜されないように注意し、用心しながら接近しろ!
……コーラス7、今は貴様が先導している、特に狙われやすいのは貴様だということを十分に理解しておけ!』
言われなくとも分かってる。
何度も何度も、もう多すぎて何回なのか数えるのを諦めるほど何度も、光線が機体を掠める。
それでもなお僕は生きていて、未だこの場に立ち続けると言うのなら———、この命、ここで棄てる気で挑むっ!!
「死ねええええええっ!!!!」
サイドツー用小銃をすぐさま取り出し、一刻も早くその方向に撃ち込む。
反動制御———だとかはどうでもいい、敵の図体は無駄にデカいんだ、どこに当てたって一緒だろ!
「———はあ……はあ、は……」
Ξ標的の周り、その上の方を旋回しながら、発砲時の煙が晴れるのを待つ。
———見えてきた、ヤツの様子は———っ?!
「た……隊長、教官……、こい……コイツ、攻撃が……ライフルによる攻撃が———効いてませんっ!」
煙の隙間からはみ出たその姿には———せめて1発でも、砲撃による傷がついてなきゃおかしいんだ。あれだけ撃ったんだ、数撃ちゃ必ず当たるはず、なのに。
なのに———なんで、ヤツには砲撃痕はおろか、傷もヨゴレすらも付いていないんだ……!
『———全機、撤退だ』
?!
突如教官が口にした、撤退命令。
「教官?! いや、撤退……って言ったって、ここまで来たってのに、それで撤退……だなんて」
『撤退だ! 我らの装備では倒せない、一度撤退して体制を立て直す』
嘘だろ、ここまで来ておいて、そりゃあないだろう……?!
『ヤツが纏っているのは神力障壁だ、魔力探知式レーダーが効かなかったのも頷ける。おそらく神力式の探知レーダーでも同様だっただろう。
同時に、通常兵器ではあの神力障壁は破ることすら難しい。……今の我々は、魔術による強大な攻撃手段を持たないからな……だからこその撤退だ、だから貴様らもこの命令を———』
聞け、だと?
……無理に決まってるだろ、死者も出してるんだ、命をもかけてここまで来たんだ。そう簡単に、たった一声で撤退———なんて、させてたまるか。
「破ることすら難しい———つまり、ずっと攻撃を与え続けていれば破れるんですよね?!」
『……』
「答えてください、教官!!」
スラスターを何度も点火しながら。回転しゆく機体なぞいざ知らず、今は自分のやるべきことに集中すべきだ。
『———ああ、ずっとやっていれば、そのうち神力障壁は劣化し崩壊していく。……しかしそれまで耐えれるというのか?』
「耐える、耐えないの問題じゃありません。……僕たちは、既にさまざまな犠牲を払ってここにいます。そして、僕たちを送り出してくれた王都のみんなの想いをも背負っています」
『感情論の話か、そんなもので貴様はこの命令に背くと?』
「それだけじゃありません、敵は固定砲台としての運用を前提として建造された機体の可能性が高い、と先程の考察でも結論が出ていました。
もしこのまま撤退し、Ξ標的が王都付近まで来るのに待ち構えるとしても、ヤツはおそらくある程度最前線から離れた場所から光線を放つはずです。
……つまりは、放置しておくとヤツは遠隔照射に出て、もう手がつけられなくなるということ。
それは先程の海岸防衛線の際、Ξ標的は遠く離れた海上より、一方的に攻撃を行っていた事実からも容易に推測がつくはずです」
そう、あの時。
他の神話的生命体はこちらに押し寄せてきているのに、Ξ標的のみが海上にとどまり、そしてこちらに対して砲撃を繰り返していたのだから。
だからこそ、そこから———ショーゴが死んだ瞬間の、目に焼き付けたそのうざったい姿から導き出した、僕なりの結論、そしてここで退けない最大の理由。
「つまり、今ここで———一番接近できている僕たちが撃破行動に出ることこそが一番確率が高く、なおかつ今できる最善の行動であると信じ、撤退ではなく全機前進、Ξ標的の撃破行動に出るべきであると結論を出し、具申した次第です。
何より———僕はここじゃ退きたくありません。僕とコンビを組んだショーゴも、その他大勢の命がヤツの前に散っていきました。
……もう僕はそれを見ることは———できない、ここで決着をつけておきたいんです!
最初っからそのつもりで、僕はここに来たのだから、だから———せめて、せめて最期まで———ショーゴの為にも戦わせてください、お願いしますっ!!!!」
無言の時間が続く。
機体や戦況はせわしなく動き続けていたが、誰も発言する者はおらず、静寂が場を支配した後。
『合格だ。……………………無駄には散らすな』
その声のみが、一瞬完全に停滞した戦場に鳴り響いた。
「———はい、コーラス7、ケイ・チェインズ、Ξ標的の撃破行動に移ります!!!!」
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