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屍山血河〜王都防衛戦〜

2体目

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 左側にブースターを吹かし、Ξ標的の東側に回り込む。
 即座に当てられる光の糸。もはや脅威にすら思えはしない。

 閃光は間近。
 稲妻のように真横を走り去る光線を掻い潜り、もう一度その穴を目に捉える。

「僕の勝ち———っ?!」



 一瞬、たった一瞬だが、見えたのだ。
 僕に———まるで僕に視線を合わせるかのように、少しばかりブレた光の糸が。

 直線上に伸びるのみで、折れ曲がって追尾などしてこないのがヤツの光線の特徴———なのだから、もしΞ標的がその光の糸を発している、なんてことは無いはずだ。

 だから最初だけは『錯覚だ』と見過ごした。


 だけど僕は、自分の中にある悪寒を無視することはできなかった。


「っふぁあっ!!!!」

 すぐさまスラスターを反転させ、回避行動を取る。瞬間、眼前を通り過ぎたのは、右から直線に伸びる神力光線。


『4時方向に、新たな2体目のΞ標的を光学で確認! コーラス7、そちらは大丈夫か?!』


「危なかったですが、なんとか……」
『発射口はどうなった?』
「回避行動に精一杯で、破壊することは……」


『———まずいな、まさかもう1体現れるなんて…………コーラス7、僕はあっちの陽動及び討伐に向かう。

 君はそっちの発射口を破壊して、完全に旧Ξ標的を無力化してくれ、頼んだぞ!』

 そうか、あの時のの光線———コイツのモノだったか……!
 最初っから、コイツらは2体で行動していやがったんだ!

「———了解」


 さっと横にやった視界には、あちらの方角———新Ξ標的に向かってゆく、たった1機のサイドツーが。


 …………いや、無理に決まってるだろ、たった1機で勝てるとでも思っているのか……?!


「コーラス1———隊長、僕もそっちに行きます、たった1機だけじゃ無理です!」
『お前はそっちの発射口を破壊に専念しろ!……それが僕のサポートにもなる!』


「いや……でも……」

 無理に決まってる。
 たった1機でアレを殺す?
 もはや弾などほとんど残っていないと言うのに、長刀1本で戦うと?






 …………死には行かせないぞ、だって僕は教官に言われたんだ。『無駄には散らすな』、と。

 そして貴方はさっきにも言ってたはずだ、『勇気と無謀は違う、それが経験だ』と———!!!!


「絶対にやらせてたまるか、僕が助けに行くしか無いんだ、あの人は———ここで死んでいい人じゃないし、もう二度と———」


 あの感覚を。
 どうにもならなかった無力感を思い出す。

「もう二度と、僕のせいで死なせたりなんて———したくないっ!」


 スラスターを再点火し、全速力であの人の元に向かう。
 あの人の機体は、既に照射され続けている神力光線を掻い潜り続けてはいるが、そんなのでもつはずがないだろう、僕だってもたなかったんだから……!

「ふんぁあっ!!」

 勢いよく隊長の機体に横側からぶつかり、強引にも後退させる。

『コーラス7?! 来るなと言ったはずだ、それにここから離れてどうする?!』

「隊長———行っていたでしょう、勇気と無謀は違う、って!……それが貴方の経験なら———1人で行くのはやめてください、せめて最善の道を選ぶべきです、たった1機でヤツに勝とうだなんて……無謀に決まってるじゃないですか!!!!」

 数拍の間を置き。

『———そうか、確かにそうだな……自分で言った言葉に諭されるなんてな……英雄失格だな、コレじゃあ』


 僕の望む、半ば身勝手な答えを得られた。

「さあ、行きますよ……多分、コレが人生最期の絶景でしょうけど……もう十分見ましたよね……?」

『———ああ、…………あっちでもう一度会おう、コーラス7———ケイ・チェインズ』


 例えここで終わると知っていようとも、僕たちは諦めることはできなかった。
 例えヤツに1つもキズすら付けられないとしても、それでも諦めることは叶わなかった。

 帰ってみせる、そんな想いなど既に散った、花となり、紅く燃ゆる星となって散っていった。

 人生への別れ———最後の戦いへと、今足を踏み出す。
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