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Side-1:希望と贖いの旅々(後)

現実の所在

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 どれだけ時間が経った?
 それすら分からないくらいに、僕は押し倒された体勢のまま床に仰向けで倒れていた。

 倒れ込んだ僕の姿を、そっと上から見つめるジェールズさんとフォルスさん。

 未だに向こうの部屋から出てこないガスさん。

 僕自身は、ガスさんに言うべきことがあるんじゃないか、と思いながらも、未だに指一本さえ動かすことができてはいなかった。




 雨。
 降り注ぐ水滴の音が、外より聞こえてきた。
 沈んだ気持ちを、さらに深い底まで沈めるように、その雨は地に打ち付けられた。

 何の音も聞きたくなかったのに、僕の耳は雨のノイズでいっぱいだった。
 それ以外何も受け付けはしなかった。


 フォルスさんも、ジェールズさんも、まだ動かない。
 未だに目を見開いたままの僕を、見つめてばかりいた。


 ———そんな時だった。
 呆れ返るほどの静寂の中、衝撃が起きたのは向こうの部屋の破裂音らしき音だった。



「……今、のは……?」

「兄貴、まさか……今来たのか?!」
『ああ、まずい……ですね、トゥルース———ケイさんもいるのに』

 2人は何故か焦るようなそぶりを見せる。そのようなそぶりに奇妙な感触を覚えた直後、家の玄関のドアがぶち開けられた。



『おぉいおい、いるなあ、女、子供、後……テメェはどうだっていいや、オイ! 金を出せっ!』

 中に入ってきたのは、水浸しの古ぼけた服を着た中年男性。
 その手に持った銃をこちらに突き付け、今にもその引き金を引かんと構える。

「ひっ……っ!」
『さあおら、さっさとだせつってんだよぉっ! 次はねぇ、確実にを撃ち殺すっ!』

 パァンと、一瞬響いた銃声は、僕のすぐ横の床で炸裂した。

「こ……ころ、殺す……気……で……!」

 ただ怯えることしかできなかった。逃げるようなそぶりを見せることしかできなかった。どうせ助からないと分かっているくせに、必死にもがくことしかできなかった。

『……少し待ってください。今、金目になるものを持ってきます』

 そう発したのは、フォルスさんだった。……まさか、本当にに応じる気なのか……?!


『待ってやる……ただし10秒だ! 10……9……』

 あ、ああ。
 死ぬ。このカウントが鳴り終わったら、僕の命は終わる。
 いっそ逃げようと思ったが、それは死ぬ時間を早めるだけだと分かっていた。

『8……7……っ!』

 その銃口が、より一層こちらに寄せられる。
 死ぬんだ、僕。こんなところで。サイドツーなんかとは全く関係のないところで。

『6……5……4、3、2ぃっ!』

 突如早くなったカウントの間隔。思わず目を閉じる。
 唐突に訪れた死の時間に、僕は対応できずに、

『1………………さあガキ、テメェから殺し———』


 声が途切れた。
 ……いいや、声が途切れる直前、何かヒュッと風のような音がして———、


「死ぬのは、お前の方だよ」


 直後響いたのは、銃声だった。
 なのに、僕の体には何一つ異常はない。
 目を開けて腹部を見てみても、出血しているだなんて、そんなことは全くなかった。





「……あぶねえ、殺されるところだったな」

 その優しい声は、ガスさんの声だった。


 状況を確認しようと、今一度冷静になってみる。

 床に飛び散った、血。
 黒く焦げた銃の跡。

 そして、力無く倒れ込んで———煙と血を垂れ流した、先程の中年。
 その頭を踏みつけるように立っていたのは———ガスさんだった。



「どうした?……よかったな、助かって」

「殺し……た、んですか」

「そうだ。今までにも……5回ぐらいだな。
 殺してきたさ、俺たちの生活を邪魔するヤツは。

 コイツは暴力団『カーネイジ』の構成員。ヤツらは虐殺を行ってでも、金品を欲しがるクズ共だからな。……殺して、おかないと」




「…………殺していたんですね。……今までにも、ずっと———!」
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