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第一次真珠海作戦(後)

ブラン・カーリー( Ⅲ )

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「…………さあ、もう一度会いにきたよ、ブラン!」
『え———おい、なんだここ?! 何だって俺はこんな暗い場所に立って……立って?! そもそも床どこだコレ!』

「細かいことはいい。僕たちでブランを助け出すんだ。

 ここはブランの心の中、そしてブラン機の中。だからこそ、ここからしかブランは助け出せない。

 おそらく、ユニットコンテナを引き抜いたって同じことが起こるだけだ。今のブランは、この機体の怨念……みたいな何かに支配されている。……どうせまた乗って、そしてこうなるのがオチに決まってる」

『なるほど、だからブランは勝手にこの機体に乗って……そっか、だからここで救い出すと!』

「その通り。…………ブラン、出てきてくれ、お願いだ」



『…………もう、いいだろ。なんでそこまでするんだ、俺を殺して終わりでいいじゃないか、なあ!』

 よかった。まだ、そこにいれたんだ。

『だから、そんなんじゃ終われないつってんだろ!』
「…………こっちに来てもいいんだ、ブラン。君はもう一度、幸せになったっていいんだよ」

『お前らが良くても、俺が良くないんだ…………おかしいんだよ、この体も、頭も!

 何もかもおかしいんだ、絶対にお前らを———人間を傷つけるように書き換えられた、コイツに! 何度も!

 もう……頭もおかしいんだよ、何をやっても、復讐復讐復讐…………お前らにどうやったら危害を加えられるか、それだけしか考えられなくなるんだよ……だからもう、いいだろ?

 俺はもう戦いたくない、生きたくもないんだ、こんな頭と、こんな罪を背負うくらいなら、俺は死んで———!』

『死んでいいってのか?! ランドをも殺して、大勢の人界軍の者も殺して……それで死ぬ? 楽になれるだと?……甘えるのもいい加減にしろ、死んで終わりなんかじゃねえんだよ!』

『じゃあ、じゃあ俺はどうすればいいんだよ! 俺には分からない……何も分からない! 護りたいと思った人もこの手で護れず、そして人をも殺してしまった…………

 ケイ、お前には分かるだろ、このどうしようもない気持ち! やるせなくて、何もしたくなくなる虚脱! なあ、分かるだろう、ケイ!』




「分かるよ、もちろん。その気持ちは僕も何度も味わったし、僕を何度も苦しめた。

 ———でも、ダメなんだ。そこで諦めて、その気持ちに折り合いをつけないのは、絶対にダメなんだ。……人を殺した償いは、必ず行わなければならない」

『だから、何をすれば———!』

「…………そうだね、こんなところまで来ておいて、君を救うとかなんとか言って、それでこんなこと言うのはなんだけども———。

 だけど、結局は君次第なんだ。
 君が選んだ道。君が選んだ、償いの方法。それがきっと、贖罪になってくれるはずだって、僕はそう信じてる」

『でもそれは、他人にとってはそうじゃないはずで———』

「そうなんだ。だから、君自身のことは君が、君自身で選んで、決めるべきなんだよ、ブラン!

 もう流される時間はおしまいだ、君自身でここを出るか、それを決めるといい。…………僕は、ただそのことを伝えるためだけに、ここに来た。

 ……それが、君を救うことの第一歩なんだ、でも———ソレに囚われた人間を救えるのは、その人自身しかいない。……それが、僕がこの旅の中で学んだことだから」


 ……どうなるのか、僕には分からない。
 それでもブランが『ここを出ない』と言うのなら、僕はどうすべきか分からない。

 それでも、伝えるべきことは伝えてみせた。

 今の僕だから言えること。『胸を張って笑顔で生きること』———それを自らの手で選んだ自分だからこそ、あの言葉が出てきたんだ。

『おい、ケイ……どうするんだよ、何も言わなくなったぞ……?』

「そう急かしちゃいけない。……ブランの答えを待つんだ、決めるのは、ブラン自身だから」

 そう言い放った瞬間、真っ暗な空間に白い亀裂が走る。

『おっおい、アレ……!』
「———よかった。選べたんだね。……もうここにはいたくないって、自分の手で選ぶことができたんだ。……誰にも、流されずに」
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