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Side-2:最悪の敵

ヘヴンズバースト

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 王都より、東に数十キロ———第0機動小隊、格納庫にて。

 空に伸びる翼の影。
 円環を纏い、宙に浮かびし銀色の巨人、ヴェンデッタ・シン。

 なんのためにそんなことヘヴンズバーストを引き起こしたのか———それを誰もが聞く間もなく、虹の雨は世界を襲った。

 乱立しゆく塩の塔。広がりゆく虹の、最悪の光景。
 見渡す限り虹で埋め尽くされたその惨状を嘆く暇すらなく、第0機動小隊の残りのメンバーは、出撃を余儀なくされる。

 
「……出撃ぃ?! この状況で……ですかぁ?!」

 とてもその事実を信じられない、と心の中で叫ぶリコの声は、この時既に漏れていた。

「しょうがないじゃないか、あのヘヴンズバーストに対抗できるサイドツーは、君のヴェンデッタと僕のカスタムアインだけなんだ。……一刻も早く、アレを止めるのが先決に決まっているだろう」

 私から離れた場所よりそう言い放つセン隊長の正面には、今まさに出撃せんとするセンの愛機、カスタムアインが鎮座していた。


◆◇◆◇◆◇◆◇



『第0機動小隊———発進!』


 ———と、セン隊長が言ってみせたはいいものの……肝心の隊長と、そして私のヴェンデッタは未だに発進できずにいた。


「で、私たちはいつ行けるんですか??」

『……今、僕たちの機体はそれぞれ新しい装備に換装している最中だ。

 僕のカスタムアインは、遠距離からの支援砲撃に徹した『オプションパックA』を。

 コーラス2、君のヴェンデッタ・ネオには、単騎で敵に強襲をかけることに徹した『オプションパックB』が取り付けられている。

 標的、ヴェンデッタと接敵してからは、君にもこのオプションパックの開発理念通りの役に徹してもらう』

「……じゃあ、私は単騎でヴェンデッタに殴り込みに行く……ってことですか?」

『そうなる。あのヴェンデッタのヘヴンズバーストを間近で喰らおうと、唯一対等に渡り合えるサイドツー、ソレは君のヴェンデッタ1号機———ヴェンデッタ・ネオだけだ。

 ———故に、直接対決は君に委ねられた。

 君に、任せるよ。ケイのことも、ヴェンデッタのことも』


「ケイ………………そう、だよ、ね。……そりゃあ、乗ってるよね……アレに」

 信じたくなんてなかった。……色々と、本当に色々と信じたくなんてなかったけれど。


「私が……やるしか、ないんだ。…………まず、ケイに色々聞く、そして色々考える……………………よし、大丈夫、私ならいける」


 何の根拠もクソもない、虚勢だらけの鼓舞。
 大丈夫———そう願えば、そう祈れば、いつだって大丈夫なはずだ。

 いっつも私が信じてきた、よく分からない持論。

「待っててね、ケイ。……ケイは、全く何も聞かせてくれなかったけど……だったら、私から聞きに行くから」
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